新国立劇場「JAPAN MEETS…」シリーズの三作目(⇒1、2)は昨年から今年にかけて多数上演されている『わが町』です。⇒制作発表
演劇公演のカーテンコールでブラボーの声が!拍手もすごかったです。『わが町』をご覧になったことがない方はこの機会にぜひ。ずっしり、バッチリの本格上演です。
私はというと、小堺一機さんの幕明けの、まさに一番最初のセリフからうるうるっと来てしまい、しばらくボロボロ泣いてました(←迷惑なヲタク客)。『わが町』の世界が中劇場の舞台全体に満ちていて、これまでの色んな『わが町』が次々とフラッシュバックしてきたからだと思います。
ハンカチ必携。そして遅刻厳禁です。お早めに劇場へ!上演時間は約3時間10分(途中休憩20分を含む)。
※台本は水谷八也さんによる新翻訳です。掲載誌がロビーで販売されていたので購入。
⇒CoRich舞台芸術!『わが町』
あらすじはこちらでどうぞ。
客席方向に丸く張り出した、だだっ広くて何もない舞台。最前列の席と同じ床の高さでステージが広がりますので、観客との距離が近いです。照明がパーテーションの役割を果たし、あの大きな中劇場が内容にピッタリの大きさだと感じられました。
装置は台本通り、最小限。音楽(稲本響さんのピアノ)が空間を豊かに満たします。肌のぬくもりとうねる感情が感じられるピアノの音色。稲本さんは舞台監督(小堺一機)はじめキャストの方々と密にコミュニケーションをとるので、出演者の1人と数えられます。こまつ座公演の朴勝哲さんや小曽根真さんみたい。
ひとつひとつを丁寧に、大切に、時間をかけて見せる演出でした。夫婦の会話、妻同士の会話、学者と舞台監督の会話などなど、細かいところでもしっかり間(ま)をとって、人とその関係の厚みが感じられました。
さいたまゴールドシアターの老俳優の方々、そしてオーディションで選ばれたBOYS and GIRLSの若い男女が「町のひとびと」を演じます。キャストが多いのはそれだけで贅沢ですし、大人数で町の様子が生き生きと描写されていたと思います。特に小道具を使って効果音を出すのが素敵!あと、讃美歌の美しいハーモニーにも感動しました。世界には人間が生み出した美しいものがある、と信じられる瞬間です。
舞台監督が小堺さんであることも重要なポイントですね。観客に対して話しかける演技に余裕があるし(毎日のように観客参加型の生放送に出てらっしゃいますものね!)、テレビでおなじみの方なので、小堺さんが舞台にいることで常に観客は現実を忘れずに『わが町』という芝居を観ていることができます。
メインキャストはそれぞれに、これ見よがしにならない程度に気持ち良く個性を発揮されていて、ジョージ役の中村倫也さんが特に素晴らしかったです。若くてかっこいいだけではなく、セリフがはっきりと聞こえるし、体と声と感情とのズレが見えない演技で、ある一人の男性の人生を鮮やかにあらわしてくださいました。
ここからネタバレします。
舞台監督が「このお芝居のタイトルはOur Town、『わが町』。書いたのはアメリカの劇作家ソーントン・ワイルダー、制作は新国立劇場、演出は宮田慶子、出演は相島一之・・・」と言いはじめた時、今までに観た『わが町』とそれを観た時の感動、そして戦前から『わが町』が世界中で上演されてきたこと、今、目の前の日本人のキャストとスタッフが『わが町』の世界を作り上げていることが、一気に頭の中にわき出て来て、嬉しさと感謝で頭のてっぺんまでいっぱいになってしまったんです。そのまましばらく泣きっぱなし(汗)。まんまと戯曲の術中にはまったということでしょう。
舞台奥の壁を青く(?)照らして、人々のシルエットが見える場面が良かったです。舞台監督が客席からその壁を見つめて言うセリフ(何だったか忘れましたが)で、私も人類の歴史に遠く思いを馳せることができました。
墓地のシーンでの満天の星空は嬉しかったですし、死者が床の四角い穴に埋まっているのもいいですね。傘をさした葬列にちゃんと雨が降っているのも良かったな~。灰色の中に霧の白がきれいでした。
ジョージ役の中村さんは「宿題のヒントを教えて」とエミリーに頼む幼いころと、その3年後の野球部で活躍する頃とをはっきりと演じ分けてらっしゃいました。ジョージとエミリーが相思相愛だと気づくデートの場面も良かったですが、満足まではいかず・・・2人がかみ合ってなかったように思います。
第3幕(墓地)はちょっと長く感じましたね。死者たちの声が小さすぎてセリフが聞こえづらかったのもありますが、エミリーが過去を振り返るシーンで感動できなかったんですよねぇ・・・それで迷った末にメルマガ号外の発行は控えました。初日でしたので、これから良くなっていくことと思います。1500人から選ばれたヒロインの佃井皆美さん。プレッシャーもあることと思いますが、頑張ってほしいです!
出演:小堺一機:舞台監督 相島一之:ドクター・ギブズ 佐藤正宏:ウェブ氏 斉藤由貴:ギブズ夫人 鷲尾真知子:ウェブ夫人 中村倫也:ジョージ・ギブズ 佃井皆美:エミリー・ウェブ 青木和宣:ウォレン巡査 増子倭文江:ソームズ夫人 山本亨:サイモン・スティムソン 中村元紀:ハウイー・ニューサム 稲本響:音楽/ピアノ演奏 朝倉みかん 宇髙海渡 内山ちひろ 大村沙亜子:レベッカ・ギブズ 菅野隼人:ウォリー・ウェブ 斉藤悠 佐々木友里 下村マヒロ 高橋智也 高橋宙無 内藤大希:サム・クレイグ 橋本淳:ジョー・クローウェル 橋本咲キアーラ 水野駿太朗 横山央:サイ・クローウェル 神尾冨美子 北澤雅章:ウィラード教授 竹居正武 都村敏子 德納敬子 中野富吉:ジョー・ストッダード 森下竜一 吉久智恵子
【脚本】ソーントン・ワイルダー 【翻訳】水谷八也【演出】宮田慶子【音楽/ピアノ演奏】稲本響【美術】長田佳代子【照明】沢田祐二【音響】渡邉邦男【衣裳】加納豊美【歌唱指導】伊藤和美【演出助手】高野玲【舞台監督】澁谷壽久【芸術監督】宮田慶子【主催】新国立劇場【共催】TBS 【後援】TBSラジオ
【休演日】1/17,24【発売日】2010/10/16 S席7,350円 A席5,250円 B席3,150円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000324_play.html
http://www.atre.jp/wagamachi/index.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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