平田オリザさんと別役実さんの対談を拝聴しました。【平田オリザ・演劇展vol.1】内の企画です。『マッチ売りの少女たち』はこの対談のために先に拝見しました。予約完売でほぼ満席。対談時間は1時間強。
別役さんはいつもながらすごくカッコイイ!「日本人の“無常観”がこの震災からの復興への強い力になる」というお言葉に心から納得しました。
私がメモしたことを下記にまとめました。メモできたのは全体の3分の1ぐらいです。意味が伝わりやすいように部分的に加筆してるところもあります。だから間違っている可能性もあります。青年団が書籍にしてくれたら嬉しいな~!
⇒CoRich舞台芸術!『平田オリザ・演劇展vol.1』
■『マッチ売りの少女』について ※ネタバレあり
平田「『マッチ売りの少女』は1966年の作品です。1962年に『象』、1961年に処女戯曲の『AとBと一人の女』を書かれています。」
別役「マッチ売りの少女(のエピソード)は大阪に実際あった話です。客にマッチを擦らせてスカートをあげて陰部を見せるという売春ですね。日本人のすごい発明だと思ったんですが、すでにずっと昔からイタリアにあったと知って、がっかりしたんです。
焼け跡がきれいになり復興していく60年代。なんとなく幸せになりつつある市民生活への反逆として書きたかった。少女が徐々に“いちゃもんつけ”になっていく。ゆすり、たかりの精神を持った放浪者たちによる復讐です。」
平田「誰の劇評だったか忘れましたが、両親がアメリカで娘が日本だという解釈があって。実際はどうなんですか?」
別役「それはないですね。」
平田「そうですか。基地問題もありましたから、さらに弟が沖縄だというんです。」
別役「ああ、なるほどね~。」
平田「これは(舞台下手に立つ巨大なマッチ棒を指さして)電信柱にもなっていて、別役スペシャルなんです(笑)。福島第一原発って呼んでます。もうマッチが原発にしか見えなくて。“マッチを擦る”は“原発を爆発させる”だし、“マッチを売る”は“原発を輸出する”だし。そんなことがわかる演出にはなってないですが、この対談を聴いてから観る人はもう、そうとしか受け取れないでしょう(笑)。」
■“死なれた人”も多い東日本大震災
平田「関東大震災は昼に起こり火事による死者が圧倒的多数だった。阪神・淡路大震災は朝5時だったから死因は倒壊と火事が多数。今回は昼2時だったから子供は学校、親は会社、祖父や祖母は家にいて、家族がバラバラだった。そして津波。だから“死んだ人”も多いですが、“死なれた人”も多い。残された人々がどうやって生きていくのかも大きな問題です。
ところで“死ぬ”という自動詞が受動態になるのは日本語だけだそうです。フランス語にもないし、日本語に似てるとされる韓国語にさえない。」
■この大震災は日本の近代の転換点
平田「僕は1962年生まれなので、高度成長期に育ちました。これから日本は成長して良くなるばかりで、物が人生を豊かにしてくれると言っていた時代。でも1995年のバブル崩壊でそれは崩れた。気づいていたはずなのに20年ほどそのままにしてきて、この震災ではっきりとわかりましたよね、もう日本は成長しないと。」
別役「そうですね。成長といっても違う意味での成長でしょう。」
別役「この大震災は日本の近代の転換点だと思います。強大な破壊の後に何かが生まれてくるものなんです。カオスの中で局部対応しながら方向性を作り上げなければならない。
今、福島には復興のイメージがない。イメージは悪戦苦闘して、もがく中で作られなくてはならない。だから(すぐに)カオスでなくそうとするのは良くないと思います。
政府が右往左往して、いかに無能かがわかってきました。その方がいいと思います。市町村などの自治体の長に有能な人が出てくると思う。そこから新しい方向性が、近代ではないイメージが出てくる。新しい地域社会、生き方づくりが始まる。」
■“無常観”に日本人の圧倒的な強さがある
平田「文化の面ではそれでいいかもしれません。ただ、それで(政治がそんな状態で)日本は持つ(持ちこたえられる)でしょうか?東京では石原氏が知事に当選し、大阪では橋本氏が大人気です。」
別役「文化的な方向付けは危ないですね。私は日本人が持つ“無常観”に圧倒的な強さがあるのではないかと思います。まず嘆き悲しむことから始まって、そこから事態を冷静に見つめる強さが出てくる。そうすれば困難に耐えられる強さを見いだせる。」
別役「宮沢賢治の『雨ニモモマケズ』がよく取り上げられています。それはいいことだと思いますが、重要なのは『雨ニモマケズ風ニモマケズ』ではなく『サムサノナツハオロオロアルキ』です。“オロオロ”とはこれから何が起こるか分からない、自分がどうすればいいのかわからず迷っていること。そのまま生き続けることに強さを見いだせる。我々は(例えば1000年単位の)新陳代謝(栄枯盛衰)の中にいることを自覚する、それが無常観。嘆き悲しむことで、それに気づくことができる。」
別役「近代は混沌を整理して(物事を)わかりやすくしてきた。今はカオスをカオスとして生きること。それを保証するのが無常観。その中から新しいものが生まれる。だがらすぐに整理整頓(※)しない方がいい。」
平田「同感です。」
※整理整頓とは、「瓦礫を撤去して住居を高台に作って・・・など、政府の方針に従って、すぐに被災地をきれいな更地にしてしまうこと」と受け取りました。
緊急対談・平田オリザ×別役実「焼け跡と不条理-復興とは何か?-」05/05(木・祝)13:00~14:00
(予約・当日ともに) 500円
http://www.seinendan.org/jpn/info/index.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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