D-BOYSというとイケメンアイドルだと私は認識していますが、“D-BOYS STAGE”というレーベルで本格的なお芝居を上演しているので、前回はじめて伺いました。今回はシェイクスピアの『ヴェニスの商人』(過去レビュー⇒1、2)を青木豪さんが演出されます。個人的に『ヴェニスの商人』を今、面白く観るのは難しいと思ってるので、ちょっとドキドキしつつ伺いました。
オープニングからいきなりガツンとやられました・・・終わってビックリ!面白い!!上演時間を失念。約2時間20分(休憩1回込む)だったかしら、すみません。
⇒CoRich舞台芸術!『ヴェニスの商人』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
貿易都市として繁栄を極めた16世紀末のイタリア・ヴェニス。
貿易商を営む裕福なアントーニオのもとに、親友のバサーニオが、ベルモントの令嬢・ポーシャに結婚を申し込むため、お金を貸してほしいと頼みに来る。
あいにく全財産を船上に積んでしまっているアントーニオは、大切な友人のため、自らを保証人にし、敵対関係にあるユダヤ人の高利貸しシャイロックから借金をするようバサーニオに勧める。
シャイロックの提示した条件は、「3ヶ月以内に返済ができない場合、違約金代わりにアントーニオの体から、きっかり1ポンドの肉を切り取る」というもの。
この常軌を逸した証文が、彼らの運命をいたずらに翻弄していく・・・。
恋、友情、栄枯盛衰の常―。
時代を超えてもなお色褪せることのない普遍のテーマを描く名作。
≪ここまで≫
観客の大半がD-BOYSファンだと思います。それを前提にしたシェイクスピア作品の上演として、大成功だったのではないでしょうか。まず「D-BOYSファンが喜ぶ」「演劇に詳しくなくても意味がわかる」「物語の展開をわくわくと楽しむ」といったハードルをクリアしています。さらに劇中劇などの演劇ならではの演出で、現代の観客が古典に没頭できる構造にし、演出家の主張を盛り込んで『ヴェニスの商人』を普遍の物語にしていました。偶然に“タイムリー”な結末でもあり、終わった時はしばらく拍手をためらうほどショックを受けました。凄い!
若い男の子たちによる半・普段着のシェイクスピアです。脚色などはせず原作の設定に忠実なのですが、なんと美術が現代風なんです。2階のロフト部分につながる階段が大活躍。舞台奥はほぼ全体がガラス戸になっていて、カーテン、ブラインド、壁に当てる映像などで軽快に場面転換します。ガラス戸の裏側にも演技スペースがあり、空間の多様性が増していました。照明は大胆に明暗し、スポットライトも頻繁に使われ、空気作りや場面の説明としても雄弁。エキサイティングなエンタメムードを盛り上げる音楽あり、シェイクスピア作品おなじみのチェンバロの柔らかな調べあり。スタッフワークをあますことなく、センスよく駆使していると思いました。
私見ですが『ヴェニスの商人』を原作に忠実に上演しても、「有名な古典の鑑賞」の域を脱することは難しいと思います。でもこの『ヴェニス…』は、客席で“普通にコメディーを楽しむ笑い”が巻き起こっていました、「きっと16世紀のグローブ座で上演された時も、こんな風に大衆に受け入れられたのだろうな~」と想像できるぐらいに。ドタバタ喜劇に笑って、底抜けにハッピーな恋愛を楽しんで、さらには人種差別や身分制度、親子の在り方について考える、シビアな社会派ドラマもある。そんな質の高い娯楽作になっていたと思います。演出面で特に良かったところを挙げるなら、私は導入部とラストに感動しました。
ファンの温かい視線の助けもあるのでしょうけど、D-BOYSの方々は真面目で堂々としていて、すがすがしいです。全力で“若くて元気な男の子”でいるだけでなく、演技の燃焼度が高いといいますか、大事な瞬間の激しい感情に嘘がないので、観ていて飽きません。しっかり間(ま)を取って言葉と気持ちに整合性を持たせるなど、長いセリフもきちんと作り込んでいらっしゃいました。総じて“コメディー”をよくわかっているなと思いました。テレビのバラエティー番組などでも活躍されているからなのかしら。
ポーシャ役の碓井将大さんは演技の素早い切替えが見事。そしてあの“変装”場面のかっこ良さったら!!オールメールのシェイクスピアならではの性別逆転の面白さを見せて下さいました。
ここからネタバレします。セリフは完全に正確ではありません。
開演5分前ぐらいに客席につきました。舞台では既にカジュアル・ルックの男の子たちが、何やらコントのようなことをワイワイやっています。開場時間のファン向けイベントだろうと思って、元気に歌って走る若者をまぶしく眺めていたら、なんとそのまま、するるる~~~っと開幕。投資している船荷がすべて遠海にある資産家アントーニオが、「憂鬱だ」とこぼす場面が始まりました。
「リハーサルだ」というセリフがありましたので、開演前のコントと同様に劇中劇として『ヴェニス…』を見せるスタイルかな・・・と探りつつ観ていると、ガラス戸の裏側で組体操のような動きをする黒Tシャツの軍団が(笑)。「一体何なの?」といぶかしく思っていたら、どうやら“海”を想像させる動きのよう。アントーニオに話しかける青年たちは思いっきり普段着だし、イスや机は事務用デザインだし、でもセリフは翻訳劇調・・・意外なことだらけで舞台の全方位に気を配りつつ、すごく集中して観ることに。後から振り返ってみて、コレが古典芝居を現在進行形にする仕掛けだったのか!と驚きました(私の個人的解釈です)。
ポーシャの求婚者が金・銀・鉛の3つの箱から1つを選ぶエピソードは、普通にやるとクドいしあまり面白くないんです。それをコントのようなお楽しみの場面にしたのは正解だと思います。終盤でシャイロックの娘ジェシカとその恋人ロレンゾーが、詩のようなセリフの応酬をする場面も然り。ジェシカ(柳浩太郎)が“不思議ちゃん”というか、かなりのおバカさんキャラになっていて、それが父親シャイロックの可愛げにもつながったように思います。あんな娘を宝石だと思うんだから、親バカだな~♪とか(笑)。
バサーニオは鉛の箱を選びポーシャを射止め、ポーシャから婚約指輪をもらいます。後からその指輪を裁判官に変装したポーシャが巧妙に奪い取って、「指輪がないのは愛のない証拠」「実はその裁判官と私は寝たんです」など、ポーシャがバサーニオをこらしめる展開に。「寝取られ亭主になってしまった」等とバサーニオらが嘆くごとに爆笑が起こってました。バサーニオに映像の雷が落ちる演出には私も爆笑しました(笑)。おんおん泣くのも可愛らしかったですね。
女性が主導する恋の駆け引きの場面で大いに客席が沸いたのは、最初にポーシャが指輪を渡すところが、ちょっと感動しちゃうぐらいの素敵なラブ・シーンになっていたからだと思います。後半への手堅い伏線でした。伏線といえば、グラシアーノ(三上真史)がネリッサ(足立理)と恋に落ちる演技を、スポットライトでちゃんと追っていたのも素晴らしい。
裁判のシーンは足立理さん(ネリッサ)と碓井将大さん(ポーシャ)が黒いスーツで登場。豪奢なドレスにロングのウィッグを被っていた淑女たちの変身っぷりにスカっとします。私は基本的にスーツ萌えなのもあり(笑)、お2人のスラっとしたお姿に見惚れました。かっこいいアイドルがかっこいい役割を果たす場面になっているのも、“古典”の印象をぬぐう効果がありますね。法律の知識のないネリッサとポーシャは、その場で必死にヴェニスの法が書かれた書物をめくり、シャイロックに反証していきます。ポーシャが才色兼備の超人になることを防いだ見事な演出ですよね。おかげでアントーニオの身体にシャイロックのナイフが刺さるかもしれない…とハラハラすることができました。
そしてラストが凄かった。ポーシャとバサーニオ、ネリッサとグラシアーノ、ジェシカとロレンゾーというラブラブのカップルの幸せすぎる大団円の後、アントーニオだけが舞台に残ります。するとガラス戸の奥にシャイロックの姿が。ぐんぐんと照明と映像が赤黒くなり、不穏な音楽とともにシャイロックの脇に無数の人影が見えてきます。それを見て苦悩し、もだえるアントーニオ。彼は、「異教徒がキリスト教徒殺害をもくろんだら死刑」という法に裁かれたシャイロックに、キリスト教への改宗を強要しました。アントーニオの苦悩はオープニングの「憂鬱」とつながって延々とループするのです。“オサマ・ビンラディン殺害”の報道があったのは、奇しくも上演中の5月2日。最後の暗転中はドカンドカン…という爆音が響き、暴力による報復の連鎖が終わらないことを暗示していました。
≪東京、大阪≫
出演:碓井将大(ポーシャ) 和田正人(アントーニオ) 加治将樹(バサーニオ) 鈴木裕樹(ロレンゾー) 柳浩太郎(ジェシカ) 三上真史(グラシアーノ) 足立理(ネリッサ) 高橋龍輝(サレーニオ) 牧田哲也(ランスロット・モロッコ大公・アラゴン大公) 山口賢貴(ソラーニオ・バルサザー・ステファノー) 名取幸政(ランスロットの父/テューバル/公爵) 酒井敏也(シャイロック) アンサンブル:池田勇気 石田達成 櫻井翼 佐々木達也 鈴木鐵大郎 田中淳之 田邉俊喜 長江孝泰 平岡謙一 宮内翼
脚本:ウィリアム・シェイクスピア 翻訳:松岡和子 演出:青木豪 音楽:笠松泰洋 美術:二村周作 振付:遠田誠 照明:関口裕二(balance,inc.DESIGN) 音響:青木タクヘイ 衣裳:清水崇子(松竹衣裳) ヘアメイク:糸川智文 演出助手:渡邉さつき 舞台監督:筒井昭善 映像制作:大見康裕 大道具:俳優座劇場 映像システム:balance,inc.DESIGN 小道具:高津映画装飾 宣伝:大澤剛 票券:高橋由美 制作:下泉さやか 水島智代 制作進行:塚本恵太 行元綾紗美 票券協力:サンライズプロモーション東京 マネージメント:広瀬基樹 プロデューサー:渡部隆 エグゼクティブ・プロデューサー:松田誠 主催:ワタナベエンターテインメント ネルケプランニング 総合プロデューサー:渡辺ミキ企画・製作:ワタナベエンターテインメント
【発売日】2011/02/20 S席 7,000円 A席 6,000円 (全席指定/税込)
http://www.d-boys.com/d-boysstage2011/venice/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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