CMディレクターの山内ケンジさんが作・演出される城山羊の会。アゴラ初進出でしょうか。上演時間は約1時間50分弱だったと思います。
かな~りハレンチで型破りなストーリーでした(笑)。大人向けのコメディーですね。不思議な展開にたまげつつ、ワハハと気軽に大笑いしていたら、最後にストンと、「あぁ、そういうことだったのか」と腑に落ちました。
⇒CoRich舞台芸術!『メガネ夫妻のイスタンブール旅行記』
≪あらすじ≫
14年間も一緒に暮らしてきた愛猫が死に、悲しみに暮れる夫婦(鈴木浩介&石橋けい)。あつかましい隣人夫婦や、人懐っこすぎる大家夫婦が2人の部屋に訪れる。
≪ここまで≫
無言でいる時間が長い目に取られているので、観客は役者さんの表情や動作から意味を受け取ろうとして、集中して観ることになります。言ってることが嘘が本当かわからない、演技のさじ加減が絶妙です。
人間が悲しみや苦しみの底に落ちたら、そのどん底をとことん味わった後に、やり場のない気持ちを発散させたり、欲望を爆発させたりしたくなるものだと思います。でも実際にそうできるかというと、恥ずかしいだろうし周囲にも迷惑ですし、難しいですよね。だからお芝居でやってくれたんだと思いました。不謹慎でハレンチで向こう見ずで型破りなことを、のびのびとやらかしてくれました。
美術はおしゃれなアパート。上手袖の奥には玄関がある設定です。そこに向かって伸びる壁が、劇場のエレベーターがある空間に斜めに建っているのがかっこいいですね。広々として見えました。
ここからネタバレします。大いに誤読しているかもしれません。後ほど加筆予定。2011年1月9日加筆。
愛する猫を喪ってこの世の終わりのように絶望した気持ちを、どうしたら乗り越えられるのか。妻が次々と意味不明の行動をしていきます。猫は隣人夫婦に殺されのだと言ったり、とりあえず夫とセックスをしてみようとしたり、嘘と本音を撒き散らして、誰かれ構わず怒鳴ってみたり。
悲しみのどん底に沈んでしまった人は「なるようになれ!」と自暴自棄になって当然だと思います。でもそんなこと、実生活ではほぼ不可能ですよね。迷惑かけますし、恥ずかしいですし。それをお芝居の中でやってみせてくれたんだと思いました。他人のせいにして当たり散らしたり、あれだけやってくれると爽快です。
妻が毒殺した音楽評論家(古舘寛治)は焼き場でお骨になります。客人たちが消えた後、テーブルの上に残った骨壷は、おそらく猫のものでしょう。やがて夫婦が冒頭で話していた「旅行に行こう」という話題になり、終幕。
構造としてはいわば夢落ちと言えるかもしれませんが、明快な区切りがないので曖昧なまま。全員がメガネをかけていることも、物語の抽象性を強めていると思います。急に成長してしまった山田夫妻の息子も、やはりメガネですし(笑)。
夫婦がイスタンブールへと出発するのは3月11日。大震災の日ですよね。とっさに「ああ、この2人は成田空港にたどり着けないだろうから、飛行機には乗れないよなぁ」と思いました。でもその想像は長続きせず、「あの日に空を飛ぶのだとしたら、彼らは天国に行ったのかもしれない」と、違う方向へと思考が飛びました。あの日に亡くなった人々の、平凡な日々の喜び、悲しみをお芝居で見せて、大切な誰かが死ぬという事の、とてつもない重さ、大きさを、あらためて考えさせてくれたのだと思います。
出演:鈴木浩介 石橋けい 古舘寛治(青年団・サンプル) 岡部たかし 永井若葉(ハイバイ) 大川潤子(三条会) 本村壮平
脚本・演出:山内ケンジ 舞台監督:黒葛野繁之・森下紀彦 照明:佐藤啓 音響:藤平美保子 舞台美術:杉山至 衣裳:加藤和恵・平野里子 演出助手:岡部たかし 宣伝美術:螢光TOKYO+DESIGN BOY イラスト:コーロキキョーコ 技術協力:鈴木健介(アゴラ企画) 制作協力:斎藤拓(アゴラ企画) 芸術監督:平田オリザ 制作プロデューサー:城島和加乃(E-Pin企画) 主催・製作:城山羊の会・(有)アゴラ企画・こまぱアゴラ劇場
【発売日】2011/04/15 チケット料金/全席自由(整理番号付):一般前売り 3,200円 /当日 3,500円
http://shiroyaginokai.com/
http://www.komaba-agora.com/line_up/2011/05/shiroyagi/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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