コクーン歌舞伎『盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)』は1998年に初演され、今回初めて再演されます。でも中村勘三郎さんが演じた役を息子の中村勘太郎さんが、中村福助さんが演じた役をコクーン歌舞伎初登場の尾上菊之助さんが演じますので、ほとんど新作ですね。
私は恥ずかしながら『盟三五大切』という歌舞伎の有名演目自体が初見でした。上演時間は約3時間15分(途中休憩20分を含む)。
いつもながら豪華絢爛のスタッフーワークと歌舞伎役者の芸にうっとり(主なレビュー⇒1、2、3)。歌舞伎らしい複雑な人間関係に脳みそフル回転しつつ、最後の最後は「あぁ、そうだったのか!!」と驚いて、腑に落ちて、しみじみ。忠臣蔵のサイドストーリーなんですね。
母と一緒に初日を鑑賞したところ、コクーン歌舞伎初体験の母は大満足。久しぶりに親孝行できました♪客席での飲食OKです。ロビーの売店もにぎやかで楽しいですよ~。
⇒CoRich舞台芸術!『コクーン歌舞伎第十二弾「盟三五大切」』
≪あらすじ≫
浪人の源五兵衛(中村橋之助)は芸者の小万(尾上菊之助)に入れ込んでいる。だが彼女には三五郎という夫(中村勘太郎)があった。いやな客に言い寄られる小万を身受けするために、源五兵衛は伯父からもらった大切な100両を渡そうとするが、全ては三五郎と小万が金欲しさに仕組んだ狂言だった。2人の裏切りを知った源五兵衛は・・・。
≪ここまで≫
じんわり、たっぷりと人間を見せていく演出のおかげで、歌舞伎俳優の技をとっくりと見つめて味わうことができました。静と動の差がストイックにあらわされ、落胆、絶望、恐怖に触れ激変する心情がより鮮やかに浮かび上がります。とはいえ「ここまでやるか!」とびっくりさせる豪華な大仕掛けもいっぱいです。
歌舞伎は物語の説明をあまりせずに様式美で表現することも多いですが、コクーン歌舞伎は人間関係や気持ちの変化をより具体的にわかりやすく見せる、現代劇風の演出も特徴かと思います。たとえば今回はチェロの調べが登場人物の心情に沿うように流れていました。
無言の橋之助さんがかっこ良かったですね~!源五兵衛は悪心にとりつかれたような変貌っぷりを見せますが、いかにもな変化を演じるのではなく、変わる前と後の源五兵衛として、その場に在るだけなんですよね。もちろん歌舞伎らしい所作はありますが、感情を内に込めてただじっと立っている姿にすべてが凝縮されているように思えました。
菊之助さんは夫を愛する若い妻としてもきれいでしたが、後半の母親らしい演技にも説得力がありました。だからこそ“あの場面”は壮絶!勘太郎さんの声は勘三郎さんに似てらっしゃいますね。お父様のような凄味や色気とは違いますが、涼やかな一途さが良かったです。
ここからネタバレします。
「彼(彼女)は実は誰々だった」という歌舞伎ならではの物語はさすがの面白さ。源五兵衛が大勢を殺してしまう回り舞台の場面は、スリリングで美しかったです。音がないのが怖くてイイ!
雨が降る客席に出て、傘をさしながらゆっくりと劇場通路をまわるところも、舞台の端に立って三五郎たちを見つめているところも、橋之助さんの暗い目にくぎづけ。
数ある名場面が中でも、やはり源五兵衛が小万とその息子をなぶり殺しにするところが一番でした。菊之助さんはギョっとするほどの叫び声を上げますが、コントロールした上でのものだとわかります。はらはらさせるライブ感が持続する中、突然ポーズを取って技を見せるのが歌舞伎ならでは。菊之助さんが客席に背を向けて膝立ちをして上半身を反るところは、ホ~っと見とれました。
終盤に録音のセリフが流れましたが、あれは勘三郎さんの声だそうですね。セリフの意味はわからなかったんですが、三五郎(中村勘太郎)とその父の了心(笹野高史)の関係が、勘太郎さんと勘三郎さんという実の親子と重なりました。そういえば橋之助さんのご子息の中村国生さんが、源五兵衛につかえる八右兵衛役で共演されているのも感慨深いですね。人間の恨みも悲しみも、それを描く芸術も、親子代々、ベテランから新人へと受け継がれていくのだなと思いました。
出演:中村橋之助 尾上菊之助 中村勘太郎 坂東彌十郎、片岡亀蔵、笹野高史、坂東新悟、中村国生 坂東新悟 中村勘之丞 中村小三郎 中村蝶紫 澤村國矢 澤村國久 中村山座衛門 井上隆志 中村橋弥 中村橋幸 尾上音三郎 尾上音二郎 尾上音一郎 中村仲之助 中村いてう 中村仲四郎 坂東彌七 坂東彌風 坂東彌紋 土橋慶一 もとのもくあ 山岡弘征 谷坂寛也 梶浦昭生 片岡正二郎 内田紳一郎 チェロ:坂本弘道 徳澤青弦 斎藤孝太郎
脚本:四世鶴屋南北 演出・美術:串田和美 演出・美術:串田和美 照明:齋藤茂男 附師:杵屋栄十郎 作調:田中傳左衛門 編曲:坂本弘道 音響:森本義 立師:中村橋弥 狂言作者:竹柴徳太朗 狂言作者:竹柴潤一 技術監督:センターライナソシエイツ 演出助手:神野真理亜 美術助手:原田愛 附打:山﨑哲 舞台監督:藤森條次 制作:岡崎哲也 山根成之 橋本芳孝 住井浩平 主催:松竹株式会社/Bunkamura 製作:松竹株式会社
【発売日】2011/04/24 1等席(平場/椅子)\13,500 2等席\9,000 3等席\5,000(税込)
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/shosai_11_kabuki.html
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/shusai/2011/06/post_7.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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