野田秀樹さんと別役実さんの対談と、劇作家リレートークを拝聴しました(⇒告知エントリー)。3月11日の地震発生から約5ヶ月経った今、劇作家が考えていることを肉声で聴くことができました。
福島県いわき市の高校で演劇を教えていらっしゃる、いしいみちこ先生は、地震と原発事故の被災者で、今もいわき市で生徒たちと演劇創作を続けられています。なぜいしい先生は避難せずに残ったのか。今、生徒たちと演劇で何をしているのか。ありのままをにこやかに、率直に話してくださいました。
実際に会って、語って、聞いて。インターネット上の文字やテレビの映像で入手した“情報”とは全く違い、意味と気持ちを一緒に味わって共有することができたように思います。13時から18時までの5時間はあっという間でした。
野田さんと別役さんの対談は後日シアターアーツに掲載されるそうです。必読と思います。
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【1】13:00~15:00『対談:野田秀樹×別役実』 司会:山口宏子
別役「演劇は地域のもっとも内密なコミュニケーションを成立させる。肉声で語り合える場。方言の芝居は地域で通用する肉声の物語を語り、地域の重要な役割を果たす。よりどころとしての演劇と劇場。」
別役「阪神・淡路大震災の時、私は神戸のピッコロ劇場で新作舞台を作っていた。あの時も、避難者は『助けてください』と言う。反避難者は『助けてあげましょう』と言う。対面型になってしまう。それが気持ち悪い。嘆き悲しむ期間が短すぎる。被害者が長く嘆き悲しむことができれば、そこに傍観者が入り込んで、その悲しみを共有していく。だがマスコミが発達し、公用語の言葉で立ち直らせようとする。公用語で説明してしまうと、肉声で何もいえない状況を作ってしまう。嘆き悲しむ時間を摘み取る構造。被害者とそれ以外で対立が生まれるため、共有できない。」
野田「テレビで公用語の物語をつくっていく。例えばすぐに『がんばれ日本』と言い出した。」
別役「『がんばれ日本』では生きていけない人に渡す言葉を、表現者は生み出せる。それが表現者にできること。」
別役「私は長らく“中景の喪失”を言ってきた。近景(目の前のこと、感じること)、遠景(占いや信仰)はあるけど、中景がない。番狂わせな世の中になっている。」
野田「僕の言葉で言うと、感じる(近景)、考える(中景)、信じる(遠景)です。今は、感じたら(考えずに)信じちゃう。かつて学生運動という政治の時代があった。その時日本人は考えた、フリをした。それが行き詰まり、嫌悪感となった。日本でこれが長い間傷になった。」
野田「考えるためには素材が必要。何を信じればいいか、参考にすればいいか、今は非常に難しい。よりどころがない。原発の事故も含め、今は体験したことがない事態。本当に初めての体験。だから材料を失っている。大衆の考えることが正しいという表向きの正論が邪魔している。大衆の考えが必ず正しいという前提で話して、責任の所在がなくなっている。耳ざわりのいい言葉ばかりが横行する。それが何十年と続いている。それを選んだのは大衆だったはずなのに、言葉がすりかわっていく。問題が解決しない。」
野田「3月15日に公演を再開した。(完売のステージだったが)空席があり、その空席に存在感があった。空席に存在感がある劇場が演劇の源。存在することが大事だから、存在しないことも大事だった。」
別役「芝居は“表現”とは違う。舞台上に存在する人(役者)は、神にささげる供物という形の存在感がある。供物を客が見る。そうすると、居ない客席への関心も持ちやすい。芝居は神にささげるものであり、客席に見せるものではないという感覚を持った方が、その感覚が成立する。」
NODA・MAP『南へ』は地震のため数ステージが休演になりました。地震だけでなく計画停電のこともあり自粛ムードが広まる中で、上演再開を決めた際に野田さんは「劇場の灯を消してはいけない」というメッセージを発信されました。この言葉に励まされた演劇人は(観客も)非常に多かったと思います。地震当日の休演はやむを得なかったとして、その後数日間休演した時には、野田さんとカンパニー、そして劇場とのやりとりがあったと思います。できればそのことについても詳しく聞きたかったですね。
【2】15:30~18:00『劇作家リレートーク -起こったこと、思ったこと、伝えたいこと-』
進行 : 鈴木聡 横内謙介
出演 : いしいみちこ ケラリーノ・サンドロヴィッチ 篠原久美子 鈴木聡 佃典彦 土田英生 長塚圭史 渡辺えり
一人ずつお話をされました。特に印象に残り、メモできたことは下記です。話された順番どおりではありません。
ケラ「笑いは時間が距離感を作ってくれる(時間が経てば笑えるようになる)。世の中をデララメ(な演劇)で精算したい。」
ケラ「笑いに変えていくしかない。ケンカになると全てがだいなしになっちゃう。真っ向から自分の思いをぶつけ合ってもしょうがない。」
渡辺「演劇は、今、助けることができない。遠い未来に、演劇は必要。」
長塚「今、被災地にすぐ持って行けるレパートリーがないことが苦しい。やることはいっぱいある。」
マキノ「少なくとも、憶えておくことが必要。そして考えること。考え始めること。『考えられないよ!』ってことを考えること。」
長塚「芝居は“考える時間”になる。想像力のアベレージを上げられるのではないか。」
篠原「自分は(被災された方々の)“御用聞きにはなれる”と思った。」
篠原「えずこホールで二兎社が無料公演を行った時のアンケートには、『涙が突然流れることがある。そんな時、無性に音楽が聴きたくなる。お芝居が観たくなる』『お芝居を観に行くのだから思いっきりおしゃれをしたいと思った。髪も洗えてないのに』といったものがあった。感動も、涙も、笑いも、ライフラインだと思った。」
いしい「私は結局(いわき市から)避難できなかった。生き方というか人間性の問題。今逃げたら、一生背負って生きていかなきゃならない。だったら戻ろうと。」
いしい「先ほどの別役さんのお話にもあったが、ホールが避難場所になっていて、自分が助ける側にいることが変だと感じた。」
いしい「先ほど野田さんが10日ほど経つと、もとの客席に戻って行ったと話されていた。被災地も同じ。2週間も経てば子供たちはマスクをしないようになり、運動場で部活動もしている。子供は若いから、生きるために忘れる。同じ被災者なのに何ひとつ共有できないジレンマがある。みんなで想像力を働かせたい。共有したい。」
いしい「4月11日、12日に大きな余震があり、今は校舎の半分が使えなくなった。逃げられない子だけが戻ってきた。そのような状況で、教師として何が言えるのか。考えた末にこう言った『苦しい状況が人を育てる。甘んじて受け入れよう。それで強くなれば、未来がある。生きるために笑おう』と。」
いしい「私は、怒っている。どうにかして消化しないと。」
いしい「津波で亡くなった方と別れ直しをする芝居を作った。波にさらわれても原発事故のせいで探しに行けない人もいた。一番つらい思いをした人とつながれる作品を作ろうとしている。一番悲しい人に寄りそいたい。それが次の作品の目的です。」
いしい「子供たちは一度自分を嫌いになっている。自分は何の役にも立たなかった、と。」
篠原「いしいさんがおっしゃった『子供たちが一度自分を嫌いになった』というお話について。平田オリザさんが『悪人しか劇作家にならない』とおっしゃっていた。ものを書く人間は自分が悪人だと知っている。負のエネルギーを貯めるから。美しいことを書くときも、心にひねくれたものがあるから書ける。」
渡辺「私は東北人。東北は昔から非常にひどい目に遭わされている。東条英機が『農家の息子は死んでもいい』と言ったから東北の若者は前線にやられ、特攻隊になった。GHQの指導で農業をやらされ、全く儲からなくて自殺した人たちがいた。戊辰戦争の時も、会津藩の人たちは無理やり北海道に行かされた。そういう東北に対する差別が今もある気がしてしまう。まさに棄民。」
いしい「あの時、いわきには本当に物資が入ってこなかった。欲しいなら郡山市まで取りに来いと言われて。まさに棄民だったと思う。」
篠原「被災地の中でも飯舘村は全く違う。飯舘村は美しいんです。農業をいとなむおばあさんが『今年は作物の出来がとても良かったのに出荷してはいけないという。私にはわからない』とおっしゃっていて。この“変わらなさ”が放射能の残酷さ。」
篠原「原発には必ず被曝労働がともなう。これまでに50万人の被曝者を生み出してきた。知識を得て、考えて、自分で判断するしかない。『誰かの犠牲の上に幸せになりたいの?』と。」
次代を担う劇作家のための戯曲創作指導講座 公開講座 (戯曲セミナー集中講座)
8月7日(日) 「大震災と演劇」
【1】13:00~15:00『対談 : 野田秀樹×別役実』司会 : 山口宏子(朝日新聞 記者)
定員:150名 入場料:¥1,000 (杉並区民¥900)
【2】15:30~18:00『劇作家リレートーク -起こったこと、思ったこと、伝えたいこと-』
進行 : 鈴木聡 横内謙介 出演 : いしいみちこ ケラリーノ・サンドロヴィッチ 篠原久美子 鈴木聡 佃典彦 土田英生 長塚圭史 渡辺えり
定員:150名 入場料:¥1,000 (杉並区民¥900)
【1】【2】セット券1800円
文化庁委託事業「平成23年度 次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」
制作:一般社団法人 日本劇作家協会 協力:座・高円寺 / NPO法人 劇場創造ネットワーク 後援:杉並区
http://www.jpwa.org/main/content/view/127/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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