新作をこれほど楽しみにしている小劇場劇団って、ストレート・プレイ好きな私にとってはパラドックス定数がNo.1かも。劇団員の俳優(男性のみ)がどんな役に返身するのか、いつも開演前の客席でわくわく待っています。
作・演出の野木萌葱さんは新しいことに挑戦されました。まさに「人馬一体」(笑)。上演時間は約1時間45分。終演後にロビーで上演台本(1,000円)を購入しました。
テアトル・プラトーで過去の舞台映像がダウンロードできます(有料)。
⇒CoRich舞台芸術!『トロンプ・ルイユ』
≪あらすじ≫
競馬。そこには馬がいて、馬を育てる調教師がいて、馬を所有するオーナーがいて、馬に賭ける男たちがいる。
≪ここまで≫
古い木製のイスが並ぶだけの何もない舞台に、登場するのは男性6人。役者さんの演技以外の効果はピアノ曲と照明のみ。音楽が流れるのはパラドックス定数の作品では非常に珍しいのではないでしょうか。
演じる役が変わると瞬時に場面転換する自由さと軽快さは、役者さんたちのよく練られた演技のおかげで成立していると思います。ただ私としては、もっと“誰が見てもかっこ悪い奴”“救いようのないダメな奴”にも登場して欲しかったかも。全員が気取っていて、芯の部分で俺様キャラであり続けるのは単調な気がしました。無言の間(ま)を長い目に持ちすぎの感もあり、初日だったからまだ硬さがあったのかもしれません。劇団ファンの1人としては、衣装も含め、新しいキャラクターをかなり楽しめました。例えば植村宏司さんのヘアスタイルとか(笑)。
競馬の実況中継が一番スリリングで興奮しましたね。こんな実況(レース)ありえないとしても(笑)、乗せられてしまうリズムと熱さでした。虚構の中に無心になって入り込みたいです。いっぱいいっぱいで必死の役者さんが観たいですね。
衣装がそれぞれに違っていて(スーツにメガネじゃない!)、『HIDE AND SEEK』(⇒レビュー)を思い出しました。
ここからネタバレします。
1人の役者さんが、人間と馬を1役ずつ(計2役)演じます。馬といっても四つんばいになって「ヒヒーン」といなないたりはしません。サラっと普通の男性として立っているだけ。手綱をつけたら馬、なければ人間というシンプルな方法で区別します。人間と一緒に居るときの馬役は、ささやかに動物らしい表情・所作をするのが可愛らしいです。
舞台にいる役者さんが、馬なのか人なのかが曖昧になる場面がとても面白かったです。怪我をして瀕死になったドンカバージョを心配する調教助手(井内勇希)に、ロンミアダイム(小野ゆたか)が話しかける場面は特に。井内さんがゆっくり床に横たわると、ドンカバージョに見えるのです。人と馬のキャラクターが被るように脚本が書かれているのもミソでしょう。
役者さんが1列になってぐるぐると円を描いて舞台を駆けまわるだけで、色んなことをあらわせるものですね。パドックとか人生(馬の一生)とか。
レースが始まる瞬間は、馬が低く構えて足を一歩出します。そして袖へと走ってはけて(去って)しまいます。後は実況と、レースを見守る調教師や聴衆(予想屋ら)の演技で勝敗まで描きます。パラドックス定数の代表作といえば、息をつかせぬ丁々発止の会話劇です。でも今回は言葉と語りで見せるだけでなく、身体表現によるところも大きいんですよね。ファンなのでついつい高い要求をしてしまうのですが、できればそこのところの迫力やスリルがもっと欲しかったです。
出演:植村宏司 西原誠吾 井内勇希 加藤敦 生津徹 小野ゆたか
脚本・演出:野木萌葱
全席自由 前売3000円、当日3200円
http://pdx-c.com/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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