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しのぶの演劇レビュー
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2011年08月18日

新国立劇場演劇研修所『朗読劇「少年口伝隊一九四五」』08/16-17新国立劇場小劇場

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少年口伝隊一九四五

 2008年の初演以来欠かさず拝見している、井上ひさしさんが新国立劇場演劇研修所のために書き下ろした朗読劇です(⇒昨年のレビュー)。昨年は井上さんの追悼公演としてこまつ座でも上演され(⇒レビュー、⇒稽古場レポート)、ドイツの劇場でも上演されました(関連エントリー⇒)。

 原爆が落ちた瞬間の広島の様子を、若い俳優が明晰な言葉で伝えてくれます。今年は地震と津波、そして原発事故があったこともあり(今も続いていますが)、また新しい意味を受け取りました。これだけ観ていても観る度に学ぶ、凄い戯曲です。上演時間は約1時間5分。

 ⇒CoRich舞台芸術!『朗読劇「少年口伝隊一九四五」

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 昭和20年8月6日、一発の原子爆弾が広島の上空で炸裂した。
 一瞬にして広島は壊滅。このときから、漢字の広島はカタカナのヒロシマになった。
 かろうじて生き延びた英彦・正夫・勝利の三人の少年は、やはり運よく助かった花江の口利きで中國新聞社に口伝隊として雇われる。新聞社も原爆で何もかも失ったため、ニュースは口頭で伝えるほかなかったからだ。
 三人の少年は、人々にニュースを伝えながら、大人たちの身勝手な論理とこの世界の矛盾に気がついていく。
 やがて敗戦。
 しばらくすると正夫に原爆症が発症、手榴弾を隠しもっていた勝利はある決意をする。
 そこへ戦後最大級の台風がヒロシマを襲う。
 ≪ここまで≫

 俳優学校で2年以上の研修を積んだ若い俳優が、広島がカタカナのヒロシマになった時のことを語ります。太陽2つ分の熱さの爆弾の直下で何が起こったのか。何度耳にしても壮絶です。今年も痛み、苦しみ、悲しみ、怒りをストレートに受け取り、ハンカチが手放せない観劇になりました。毎年おなじ劇場で、新しい3年生が挑戦していることの積み重ねもありがたく思います。

 本を持たない演技と朗読のメリハリがあり、昨年よりも、より朗読で聞かせてくれたのは私好み。台風の場面の迫力が増していた気がしました。早さもアップしていたかもしれません。セリフからおのずと情景が浮かぶ演劇体験が、朗読劇ならではの魅力だなと思います。

 口伝隊になる3人の少年(林田航平、藤本強、大里秀一郎)、新聞社の花江さん(井上沙耶香)、哲学じーたん(梶原航)に負傷兵(片桐レイメイ)というメインキャストは、それぞれに個性のある演技で、役に対する解釈がはっきりしていて素晴らしかったですね。メインキャスト以外では山﨑薫さんの言葉に惹きつけられました。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 新聞が印刷できないので、口頭でニュースを伝える口伝隊となった少年たち。彼らが伝える広島県からのアナウンスはとんちんかんで、怒りがこみ上げてくるものばかりです。

 「新型爆弾の被害は甚大だが想定内だった。なるべく早く仕事に復帰しよう」
  ⇒会社が焼けてしまったのにどうやって?
 「日本銀行広島支店が預金の払い出しをします。その際は証人を2人連れてきてください」
  ⇒証人が死んでしまっている場合はどうするの?
 「広島人はこれから洞窟生活をしよう。花を生けて小さな声で合唱をして、豊かに暮らそう」
  ⇒穴を掘るにも掘る道具がないのに?どこに花が咲いてるの?

 原発事故による放射能汚染への、現在の政府や地方自治体の対応とぴったり重なりました。
 今年3月21日に「放射能被曝は100mSv/hまで安全」と発言していた福島県放射線リスク管理アドバイザーの山下俊一教授が、「100mSv/hは言い間違えで、本当は10mSv/hでした」と訂正したようです(8月17日ごろに判明)。こんなことがまかり通っていることを、もう、どう感じていいのやら。毎日入ってくるニュースに鬱々となります。

 出演者が15名から11名に減っていて驚きました。4人辞められたということかしら。今年は震災もありましたし、勝手ながらきっとやむを得ない事情もあったことと想像します。

出演(演劇研修所第5期生):井上沙耶香(新聞社の花江さん) 岩田結 菊池夏野 北澤小枝子 山﨑薫 大里秀一郎(正夫:原爆症で亡くなる少年)  梶原航(哲学じーたん) 片桐レイメイ(手榴弾を持っていた日本兵) 川口高志 林田航平(勝利:手榴弾を握りしめたまま台風で亡くなってしまう少年) 藤本強(英彦:20代まで生存する少年) ギター:宮下祥子
【作】井上ひさし【演出】栗山民也【ギター】宮下祥子【演出補】田中麻衣子【音楽監督】後藤浩明【模型作製】尼川ゆら【照明】服部基【衣裳】中村洋一【音響】秦大介【映像】井形伸一【方言指導】大原穣子【ヘアメイク】前田節子 【履物】神田屋(霞弘明)【舞台監督】米倉幸雄【研修所長】栗山民也 舞台監督助手/沖田愛・落合千恵・安藤ゆかり・寺内厚志 稽古進行/横山友香 舞台・照明・音響操作/新国立劇場技術部 シアターコミュニケーションシステムズ レンズ 塩見なぎさ(舞台) 沖山陽介(操作) 塩澤しのぶ(照明) 黒野尚(音響) 鈴木大介(映像) /照沼隆広(大道具) 磯野隆(調整) 制作助手/粟津佐智・長川原秀美・岡本はるか 制作/新国立劇場 宣伝画/徳永明美 デザイン/岩島美幸
A席2,000円 B席1,500円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000519_play.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年08月18日 22:19 | TrackBack (0)