DULL-COLORED POP(ダル・カラード・ポップ)は谷賢一さんが作・演出・主宰される劇団です。しばし休団していましたが、劇団員を増員して迎えた今回の第10回公演より活動再開。
『Caesiumberry Jam』は2007年初演(⇒レビュー)。今、この時に上演する意味がありすぎて、観終わったらしばし無言にならざるを得ない、かもしれません。
公演パンフレット(有料)には、驚くほど詳細にわたる登場人物紹介や物語の後日譚などが掲載されており、とても読み応えがあります。お薦めです。今作も含め、谷さんの過去の台本もロビーで販売されています。
⇒稽古場写真(1、2、3) ⇒舞台写真(1、2、3、4)
⇒DCPOP10・キャスト全員インタビュー映像公開
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舞台写真:mao
≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
四谷にある雑々たる仕事部屋で、カメラマンは思い出していた。十年前、あの渇いた大地、打ち捨てられた寒村、そこに住む人々との思い出。「さっぱりしたよ。ありがとう」。飛行機を乗り継ぎ彼を訪ねてきた男、かつては家畜を撃ち殺して回る仕事をしていたあの独善的で高圧的なエストラゴン・ヨシフォビッチ・ベルジコフスキー。今は保健省の小役人として庭のある家に住んでいる。二人は古いネガ・フィルムとボロボロのノートを取り出し、一つ一つ、噛み含めるように、あの土地での記憶を掘り起こしていく。1991年、1993年、1994年、1995年、そして1986年。あの土地で何が起こったのか? ジャムを食ってたあの糞坊主、あいつは今、何をしているのだろうか? いや、いや、問題の核心はそこではない。俺たちは確かにあの土地にいた。しかし、一体何が起きたのか、覚えているだろうか、俺たちは?
人類史に深く刻まれたあの大事故を、綿密な取材に基づきオリジナル・ストーリーとして著した初演版から約4年。劇団躍進の契機となった野心作を新アレンジで再録した待望の再演。劇団活動再開記念&第10回記念公演として、2011年の今、上演します。
≪ここまで≫
実在した事故を扱ったルポルタージュ風のお芝居ですが、物語の設定をぶち壊すギャグが多発します(笑)。劇団名の“にび色ポップ”にふさわしい態度なのかもしれません。谷さんの前作の作風を期待しすぎない方がいいですね。でも初演とは比べ物にならないクオリティーの高さでした。
深刻になりすぎるとかえってリアリティに欠けることもありますから、のっけからフィクション性を前面に出すのは効果的だと思います。あと、少しでも笑っていないと、観ていてつらい・・・。
1991年にある村で出会った日本人カメラマンと外国人男性が、約10年ぶりに日本で再会。カメラマンが数年置きに撮影した村の写真のネガを見ながら、2人で当時を振り返る構成です。カメラマンからインタビューを受けた村人の独白も挟みつつ、回想シーンがほぼ時系列で上演されていきます。村の暮らしは、ほんの数年ごとに激変し、「ここはどこで、何が起こっているのか」が徐々にわかってきます。
ある歴史的大事件の現場に居合わせた人々のことを伝えるドキュメンタリーのような劇ではなく、「これは愛の話」なのだと思いました(この作品はフィクションです)。それがこの作品に普遍性を与えているとも思います。
個性的な手をした子供を演じた中村梨那さんが素晴らしかったです。躍動感あふれる動きに輝く表情。まっすぐ前(未来)を向いた子供の健気さが、絶望感を高めます。
肝っ玉母さんを演じた石丸さち子さんが、村の生活のリアルを支えていたように思います。喜怒哀楽の感情をよどみなく、力強く発して、そこで料理していること、食べていること、ともに暮らす人々と心を交い合わせていることを生き生きと見せてくださいました。
初日の日替わりゲストは荒井志郎さん。イイ男の控えめな微笑みがセクシー。相手役との体型のバランスがとても良くて、名場面だっと思います。
※作品鑑賞前に特に必要というわけではない情報ですが、この公演の直前に谷さんは同劇場で結婚式を挙げられました。
ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。
照明が明るく舞台を照らしてからやっと、ステージに土が敷き詰められていることがわかりました。家具や小道具はありますが空間を仕切る壁はありません。舞台奥の壁に室内や家の外観などの風景写真が、大きく映写されます。カメラマンの作品ですね。選曲に個性がある谷さんには珍しく、音楽はなし。違う場所・部屋にいるはずの人々が同じ空間に同時に存在して、それぞれの会話を同時多発させるカオスが良かったです。初日はアンサンブルにぎこちなさもありましたが、これから良くなっていくことと思います。
『Caesiumberry Jam』の読みは“セシウムベリージャム”。もちろん造語ですが、今の日本で暮らす私たちにとっては、意味がよくわかる単語となってしまいました。“チェルノブイリ”という地名は1回ぐらいしか出てこないんじゃないかしら。「死ぬ」「汚染」などの具体的意味を示す言葉もあまり出てきませんでした。「いなくなった」などの婉曲表現がより当事者の実感を強めます。
査察官はもう来ないと思いつつも、その場を去りづらい兄弟(井上裕朗&東谷英人)の場面は、『ゴドーを待ちながら』をもとにしており、6本指のクリニカ(中村梨那)とカメラマン(大原研二)が最後に出会った場面とも重なります。自分が暮らしていた土地には、そこがどんな場所であれ人生の残り香があります。「人は場所に染み付いている。その場所がなくなったら、みんな浮き草」とは井上ひさしさんの言葉です(⇒レビュー)。でも、その愛は報われない。放射能に汚染されたせいで、すべてが奪われました。
「査察官は今日は来ません。でも近いうちにきっと」と伝えに来る使者を演じたのは、オス猫も演じていた吉永輪太郎さんでした。吉永さんは他にも、リューダ(堀奈津美)に「ご主人の身体は強い放射線を発する放射性物質になっています。今すぐ病院に来てください」と告げる人物も演じており、“神の声”“国家権力”“大衆”など、人間にコントロールできない存在を代表していたのではないかと思います。
リューダはどんな男でも誘いこんで妊娠しようとしている孤独な未亡人。彼女の夫は1986年のチェルノブイリ原発事故の最前線に向かった消防士でした。この悲劇の発端となった出来事を回想する場面は、ゲスト出演者の荒井志郎さんの好演もあり、リューダとその夫がいかに強く愛し合っていたのかが伝わる、説得力のある名場面でした。朽ちていく夫の体を最後までいたわり続けた妻の献身。部屋に残った愛の記憶たち。
出演者が登場するカーテンコールがありませんでした。とうとう無人となった村、棄てられた土地を見せる効果があったと思います。
【出演 】教師と結婚する男:東谷英人、カメラマン:大原研二、ナジロチの村長:塚越健一、6本指の子供クリニカ:中村梨那、村はずれの孤独な未亡人リューダ:堀奈津美、女生徒:若林えり(以上、DULL-COLORED POP) 村長の妻:石丸さち子(Theatre Polyphonic)、語り手・保健省職員:井上裕朗(箱庭円舞曲)、編み物をする老婆ジーナ:加藤素子(さいたまゴールド・シアター)、メス猫:佐賀モトキ、養母ジーナに育てられた青年:芝原弘(黒色綺譚カナリア派)、医師:田中のり子、男子生徒:細谷貴宏、結婚・妊娠・出産する教師:百花亜希、大学進学を夢見る村長の娘:守美樹(世田谷シルク)、オス猫:吉永輪太郎
豪華・日替わり出演ゲスト(全ステージ、ある重要な役どころで日替わりゲストが出演致します。)
・瀧川英次(七里ヶ浜オールスターズ): 21(日)14:00・19:00 ・窪田道聡(イキウメ): 22(月)19:30、25(木)19:30、27(土)19:00 ・荒井志郎(青☆組): 20(土)19:00、23(火)14:00、24(水)19:30、28(日)12:00 ・堀越涼(花組芝居): 23(火)19:30、25(木)14:00、28(日)17:00 ・藤尾姦太郎(犬と串): 26(金)19:30、27(土)14:00
脚本・演出:谷賢一(DULL-COLORED POP) 舞台監督:棚瀬巧+至福団 照明:松本大介 美術:土岐研一 制作:北澤芙未子(DULL-COLORED POP)、会沢ナオト(劇団競泳水着/mono.TONE) 演出助手:元田暁子(DULL-COLORED POP)、南慎介(Minami Produce)、海野広雄(オフィス櫻華)、竹田悠一郎 宣伝美術:鮫島あゆ(DULL-COLORED POP)×堀奈津美(DULL-COLORED POP/*rism)
【発売日】2011/07/04 前売:3000円 当日:3500円 学生:2000円(前売のみ)
http://www.dcpop.org
http://www.playnote.net/archives/002377.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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