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2011年09月12日

【写真レポート】新国立劇場演劇「『シリーズ【美×劇】─滅びゆくものに託した美意識─』合同制作発表会①『朱雀家の滅亡』」09/09新国立劇場地下2階オーケストラリハーサル室

 新国立劇場2011/2012シーズン演劇のオープニング3作品(『朱雀家の滅亡』『イロアセル』『天守物語』)の合同制作発表会が開催されました。※Ustreamで生放送されました(アーカイブはありません)。
 テーマは「【美×劇】(ビ・ゲキ)─滅びゆくものに託した美意識─」。演劇芸術監督の宮田慶子さんと各作品の劇作家・演出家、出演者の方々が、作品についての意気込みを率直に、熱を持って語ってくださいました。

 地震と津波の天災に加え、複数基の原発が爆発するというおそらく世界で初めて災害のもとにある日本で、何が正しいのか、何をすべきなのか、これからどうやって生きていけばいいのか。3月11日から半年経った今も、私たちはその確かな手がかりがつかめないままでいると思います。
 このシリーズは、そんな日本に生きている私たちが今いちど手をつなぐために、舞台の作り手とともに日本人の中に刻まれた美意識を味わい直す、大切な機会になるのではないでしょうか。3作品ごとにエントリーを分けて写真レポートを掲載します(上演順に①:このページ、)。

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 ■新国立劇場演劇「『シリーズ【美×劇】─滅びゆくものに託した美意識─』
  ①『朱雀家の滅亡』09/20-10/10 於:小劇場
  ②『イロアセル』10/18-11/05 於:小劇場
  ③『天守物語』11/05-20 於:@中劇場 ※公演特設WEBサイトあり
   ⇒三作品特別割引通し券のご案内
   ⇒演劇情報サイト・ステージウェブ「篠井主演・白井演出『天守物語』ほか新国立劇場2011/12シーズン開幕記者会見

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【芸術監督の宮田慶子さん】

 ■日本の美意識をテーマに大正・昭和・平成をたどる

 宮田「この9月からスタートするシーズン幕開けに“シリーズ【美×劇】─滅びゆくものに託した美意識─”というテーマの3本を企画いたしました。昨年の“JAPAN MEETS…”では新翻訳の4作品(⇒)を上演し、日本の演劇界が近代以降に出会ってきた海外の作品群を今、どう上演できるかにトライいたしました。今回は日本の演劇界がそれらの優れた作品をどう消化し、劇作に展開して行ったかをたどってみたいと思い、大正、昭和、平成とちょうど50年ずつをまたいでの3作品を上演します。
 ご存じのように日本の演劇は1600年代の、出雲の阿国の歌舞伎からスタートし、近代以降の海外作品との出会いを経て発展してきました。演劇は社会と時代とともに進歩していくもので、イデオロギー演劇、プロレタリア演劇、リアリズム演劇などの色んな形の変容を遂げてきたのですが、日本人の非常に深いところにあるアイデンティティーを探れないかと思い、日本独自の美意識をテーマに設定しました。また、日本人は滅びゆくものや、はかないものに独特の美意識を託したのではないかと考え、サブタイトルとしました。
 まず既存戯曲から『朱雀家の滅亡』と『天守物語』。そして美意識という言葉が死語に近いほど意識されない時代になっているのではないかという危機感もあり、「“美”や“滅びゆくもの”を今受け取めるとどうなるのか」という大きな宿題を倉持裕さんに投げかけ、新作『イロアセル』が誕生いたしました。日本独自の美意識との出会いという観点から、劇作を見なおそうと思って企画した3本です。」


 ■なぜ“滅び”の“美意識”なのか

 宮田「今年は本当に大きな災害があり、いやがおうにも“滅ぶ”という言葉に対して異常にナーバスにならざるを得なくなってしまいました。テーマを立てたのは1年半~2年前で、その時に日本人の中にずっと残ってきたものをやりたいと思ったんです。
 今回の震災や先日のひどい水害も含め、日本は自然災害がとても多いです。でも日本家屋はヨーロッパの石造りの堅牢な建物のように未来永劫続くことを想定して作られておらず、紙と木でできていたんですね。それはやはり天災も含めた宿命、運命といったもの全てを受け入れて、“永久に存続するものはない”という不思議な考えがあったからではないか。滅びても常に再生して流転していく。リニューアルを繰り返しながら新たなものをしたたかに、しぶとく再構築して、歴史を積み重ねていく。日本人はそういう歴史観の中で生きてきたのではないかと考えました。
 先日、三島由紀夫文学館の館長の松本徹さんから“生きる作法”という言葉を教えていただきました。三島の文学には“滅びゆくからこそどう生きるか”という作法があるとおっしゃったんです。そこにも日本人独特のモノとの距離感や接し方があると思います。流転して再生していくという意味を込めての“滅び”、そしてそれを積み重ねてきた日本人の強靭さ、それらに支えられた美意識をイメージしています。」


 ■『朱雀家の滅亡』作:三島由紀夫 演出:宮田慶子

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【宮田慶子さん(演出)】

 宮田「『朱雀家の滅亡』は三島由紀夫さんが亡くなる3年前に書かれた比較的晩年の作品です。三島さん独自の美しい流麗なセリフと非常に強いテーマ性、そして登場人物がそれぞれに生身の人間としての心情を吐露しているところに、とても大きな魅力を感じています。
 “構造的にはギリシア悲劇の『ヘラクレス』に依る”と三島さんご自身も書かれている通り、ギリシア悲劇の大きなテーマをそのままに移し替えながら、日本が大きな転換期を迎えた昭和20年という時に、何を信じて何を守るかをテーマに書かれた作品です。
 2007年に池袋の劇場あうるすぽっとのこけら落とし公演で同作を演出させていただいた時は、主人公の経隆とそれを攻め込んでいく女性おれいを主軸にしたんですが、今回はそれぞれに違う主張を持った5人の登場人物が、五角形を形作ります。自分にとっては大きな転換ですね。五角形が大きければ大きいほど、テンションで引っ張り合えば合えうほど面白くなると思います。
 美意識というテーマなので、見た目に美しく、シンプルだけれども絢爛豪華なものを秘めた舞台装置を、美術の池田ともゆきさんがデザインしてくださいました。重厚な舞台づくりで2007年版とは全く違う空間の使い方をしています。
 三島さんの膨大なセリフはただ美しく表現するのではなく、言葉を重ねて、重ねて、重ねていって、それでもまだ理想を追い求め、理想に届かんとするために、さらに言葉を重ねていく(という風に表現したい)。そういうセリフで役者さんたちには本当にご苦労をかけていますが、後10日で初日を迎えます。稽古はまさに佳境に入っております。ぜひご期待いただきたいと思います。」


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【國村隼さん】

 國村「朱雀侯爵の経隆を演じます。三島さんの本は演じる側にとってはひとくくりで言うと“難しい”。特に宮田さんが先ほど流麗と表現されたセリフは、リアリスティックに心情だけを表現するためなら“こんな華美な言葉いらんやろ!”っていうぐらい、沢山あるんです(笑)。でもその一つひとつは付け足しや装飾ではなく、ひょっとしたら音も意味も含め、すごくパワーを持っているのではないか。三島さんの言霊を帯びたセリフちゃんとお客様に届けられたら、リアルな人間の愛憎劇だけではなく、戯曲にいっぱい詰まっている色んな形而上学的なテーマも伝えることができるのではないか。なんとかその域に達することができればと思いながら稽古をやっております。・・・期待してください!」

 ≪“美”について≫
 國村「『朱雀家の滅亡』について僕の意識する“美”とは、端から何を言われても、自分の信じるひとつのものに対してぶれないこと。自分の信じるものに向かって、滅ぶことも受け入れて行く。結局滅んじゃうんですけどね(笑)、その有りようというか、ぶれなさ加減はたぶん美しいんだろうと思います。」


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【香寿たつきさん】

 香寿「おれいの役をさせていただきます。お稽古が始まって1ヵ月とちょっと経ったんですけれども、本当に三島さんの本は難しくて。私も人並みに年を重ねて、これぐらいの年齢の役をやれるようになったんだなと思って『はい、やります』と言ったものの、本当にこの役を引き受けて良かったんだろうかと苦しみつつ、その苦しみが喜びに変わると信じて毎日稽古に励んでおります。日本人に薄れてしまった美意識を三島さんの言葉に載せて、現代の人にこの作品の素晴らしさを伝えられるよう、より完成度を高くできればと思っています。宮田さんの後についてがんばりたいと思います。」

 ≪“美”について≫
 香寿「このお芝居をご覧になった男性は、きっとおれいという女性とは結婚したくないと思われると思うんです(笑)。まずはやはり、うるさくしゃべる場面でも女らしさや可愛い部分を見せられたらと思っています。一幕のおれいは母でありつつ女中に徹し、昔の女性らしく男性に一歩下がって尽くすんですが、三幕になってからは今の女性の強さを見せます。そこでもやはり女性としての美しさを、うまく見せられたらいいなと。そういうところを私は“美”としてとらえています。」


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【近藤芳正さん】

 近藤「僕も三島由紀夫さんの作品は初めてで、1回読んだだけではわからず、2回3回読んでいくとその楽しみが増えてくるような本でした。お客さんに1回だけ聞いていただき、内容も理解して頂くのが役者の仕事ですし、三島の文字の美しさ、言葉の美しさ、音の美しさも表現したいと思っています。5人の人物が形作る五角形の中で、それぞれの役柄がうまく対立しながら、三島作品の美を見せる方向に行ければと思っております。
 僕は國村さん演じる経隆の弟で、宍戸家に養子に行っておりまして、気楽な気持ちで朱雀家の方を眺めている役柄です。その私でさえちょっと身構えるところがありますので、朱雀家の方は大変だと思いますが(國村さんと香寿さんの方を向いて)、私は確実に見守っていきますので、なんとか絶対良い芝居を、あと10日でがんばって作りましょう!」

 ≪“美”について≫
 近藤「昔の日本人は腰を立てて座っていたが、現代の日本人たちは腰を(だらりと)伸ばしている。実はそれが体や精神に与える影響が大きいと、最近武道の本で読んだんです。天皇に遣える役でもありますので、芝居中に腰を立てる立ち姿、座り姿を意識していますね。それが僕にとっての“美”です。」


【写真左から:宮田慶子さん、香寿たつきさん、國村隼さん、近藤芳正さん】
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 ⇒写真レポート② ⇒写真レポート③

【美×劇】―滅びゆくものに託した美意識─Ⅰ『朱雀家の滅亡』
出演:國村隼  香寿たつき  柴本幸  木村了  近藤芳正
作:三島由紀夫 演出:宮田慶子 美術:池田ともゆき 照明:室伏生大 音響:上田好生 衣裳:半田恵津子 演出助手:松森望宏 舞台監督:澁谷壽久
一般発売日:2011年7月16日 A席6,300円 B席3,150円 Z席1,500円 三作品特別割引通し券16,600円(正価18,900円)
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000435_play.html

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Posted by shinobu at 2011年09月12日 10:50 | TrackBack (0)