新国立劇場2011/2012シーズン演劇『シリーズ【美×劇】─滅びゆくものに託した美意識─』合同制作発表会の写真レポート③です。『朱雀家の滅亡』『イロアセル』『天守物語』の3作品全てに共通する、シリーズ【美×劇】のテーマについては①でどうぞ。
『朱雀家の滅亡』(①)、『イロアセル』(②)の後、最後に上演されるのが泉鏡花作『天守物語』。演出の白井晃さんは和物の古典には初挑戦だそうですが、スタッフには美術の小竹信節さん、音楽の三宅純さん、衣裳の太田雅公さんら、白井ワールドを支える一流の方々が揃っています。振付が康本雅子さんというのも期待が高まるところですね。
主役の富姫を演じる篠井英介さんの言葉に、背筋が伸びる思いがしました。
篠井「日本人が日本人であることを誇りに思うための手がかりに、演劇も、なりたい。ご自分の美をお芝居の中に発見してください。」
【写真左から:平岡祐太さん、篠井英介さん、奥村佳恵さん、白井晃さん】
■新国立劇場演劇「『シリーズ【美×劇】─滅びゆくものに託した美意識─』
①『朱雀家の滅亡』09/20-10/10 於:小劇場
②『イロアセル』10/18-11/05 於:小劇場
③『天守物語』11/05-20 於:中劇場 ※公演特設WEBサイトあり
⇒三作品特別割引通し券のご案内
⇒演劇情報サイト・ステージウェブ「篠井主演・白井演出『天守物語』ほか新国立劇場2011/12シーズン開幕記者会見」
■『天守物語』作:泉鏡花 演出:白井晃
白井「新国立劇場で演出をさせていただくのは3本目です。最初が『うら騒ぎ』というバックステージものの喜劇、次は若手劇作家の前田司郎さんとのコンビネーションで現代劇の『混じりあうこと、消えること』。今回は泉鏡花の『天守物語』ということで、前回とはえらく違う世界をご指名いただきました。三十年近く芝居をやってきましたが、和の世界を演出するのは初めてなんです。西洋的なものに慣れ親しんできた私に、敢えて和ものをとご提案いただいいたと思っております。
泉鏡花の言葉を、世界を真正面から味わってみたい。妙なアレンジなどは全然考えていません。西洋文化に慣れ親しんでしまった日本で育った私が、今この作品でどういう日本語を発見できるのか。それはすなわち自分が今どんな日本人なのかを確認する作業になるかもしれません。そのあたりを皆さんにご提示できればと思っております。」
白井「舞台美術に関しては鏡花のト書きに事細かく書かれてありますので、できるだけ自分のイメージで具現化したい。城の5階以上が妖怪の世界で、そこから人間の世界を俯瞰することがテーマにもなっており、それを際立てられる構造にしたいと思っています。人間界から5階に上がるのは、迷宮の世界に入り込んでいくようなもの。その回廊、階段、はしご、廊下の在り方が迷路のようになっていると面白いですね。
衣裳も事細かに鏡花が指定してますので、できるだけその方向に沿うよう、自分の思う形に具現化していきたいと思っています。なぜ着物が、この機能が日本人の体に合ってきたのか、そして洋服に着慣れてしまった僕たちが、どうやってもう一度着物を着こなせるのか。着物については無知な私ですが、衣裳プランナーの太田雅公さんと一緒に勉強して、ちょっとおこがましいのですが“新しい着物”が作れたらと考えています。」
篠井「この春以降、芝居なんぞを呑気にやっていてもいいのであろうか、という思いにかられます。でも結局のところ、私たち文化芸術にかかわる者は裏方も表方も、心も体も尽くしてやっております。お百姓さんが何かをお作りになるのと同じように、我々ライブ活動の者も心身削ってやっておるんでございますね。それが何かのお役にに立つと信じて、やるしかないなと思っております。
この3作品をご覧いただくことで、もう一度“日本でいいじゃないの”“日本語は素敵だ”“日本人の心根もいいものよ”と、新たに自分たちを発見するいい機会になればと心底思っております。
『天守物語』はかつてお手本のような舞台があって、私はとても怖くて手が出せなかったんです。でも平岡祐太君も奥村佳恵さんも初めてなので、彼らが見た泉鏡花や、日本独特のファンタジーの世界を、彼らを通して体現していただければ。そして白井さんが見た“悪夢”と言いますか、ファンタジーやおとぎ話のような、美しく素晴らしい世界を表現できればと思っております。実際、ちょっとおどろおどろしい話なんですよね。」
≪“美”について≫
篠井「さっき平岡君が『天守物語』を懐かしく感じるとおっしゃいました。初めて接する100年前の戯曲を懐かしく思えたのは、やっぱり日本人にしかわからない感性がDNAの中に刻まれていると思うんです。たとえば歌舞伎の“どーん、どーん”という雪音の効果音を聞くと、若い人たちも“しんしんと降る雪の音”とわかるんですね。
色合いも匂いも違う今回の3作品それぞれをご覧いただいて、日本語を使い日本語で思考している私たちのDNAに刻まれた、日本人としての美、美意識、心が震える感覚、日本語の美しさ、日本人の道徳・・・というものを探る、発見する、感じ直す、そんな機会になって欲しいと本気で思っています。
日本人である私たちが、少しでも日本人であることを誇りに思いたいじゃないですか。今、日本人で良かったと思いにくいですから。そうあるための手がかりに、演劇も、なりたい。ご自分の美をお芝居の中に発見してください。」
≪“美”について≫
平岡「稽古はまだなんですが、白井さんとマンツーマンでの本読みは始めています。白井さんは“美しい日本語を使っていきましょう”“言葉を言葉としてきちっと人に伝えて行こう”とおっしゃっていて。一つひとつ丁寧に昔の言葉にあたっていると、オリジナルの言葉が生まれたころに戻っていくような感覚というか、幻想があって・・・。本番までに美しさを探します。いろんなものをそぎ落として、美しい言葉でお客さんに伝えられるようがんばります。」
奥村「亀姫役の奥村佳恵です。和物で時代物のお芝居には以前からあこがれがありましたので、初めて出演させていただけることをとても嬉しく思っています。まだ稽古は始まってないんですが、古い日本語の難しさや所作など、自分が直面したことのない壁が今、まさに立ちはだかって、既にとても怖いという気持ちがあります。
篠井さんには今日初めてお会いしたんですが、本当に美の化身のような方なので、私も少しでも篠井さんの美を吸収して、沢山たくさん、お稽古を積んで努力して、自分が今持っている怖さに抗っていきたいと思っています。精いっぱいがんばります。よろしくお願いいたします。」
≪“美”について≫
奥村「もののけとはいえどお姫様の役なのでお衣裳も美しいでしょうし、身分が高い人なので、美しいものに囲まれて、美しいものに触れて育って、人格が出来あがったのだろうと思います。話す言葉やしぐさ、その人自身も美しいと思いますので、もう(自分がその役を演じるには)特訓しかないんですけども、しっかり研究して存在自体が美しいと思ってもらえるようにがんばりたいと思います。」
【写真:3作品に出演する出演者全員】
【美×劇】─滅びゆくものに託した美意識─Ⅲ『天守物語』
出演:篠井英介 平岡祐太 奥村佳恵 村岡希美 関秀人 関戸将志 坂元健児 小林勝也 田根楽子 江波杏子 粟田麗 鳴海由子 小見美幸 岡野真那美 冠野智美 淺場万矢 飛鳥井みや 津村雅之 今國雅彦 稲葉俊一 早川友博 関佑太 遠藤広太 平良あきら
作:泉鏡花 演出:白井晃 音楽:三宅純 美術:小竹信節 照明:齋藤茂男 音響:井上正弘 衣裳:太田雅公 ヘアメイク:川端富生 振付:康本雅子 殺陣:渥美博 演出助手:河合範子 舞台監督:藤崎遊
一般発売日:2011年9月11日(日) S席7,350円 A席5,250円 B席3,150円 Z席1,500円 三作品特別割引通し券16,600円(正価18,900円)
http://www.nntt.jac.go.jp/play/tenshu/index.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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