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しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2011年09月17日

日本劇団協議会『父が燃える日』09/14-19青年座劇場

 日本劇団協議会の「日本の演劇人を育てるプロジェクト・新進演劇人育成公演【劇作家部門】」です。⇒公演公式ツイッター
 箱庭円舞曲の古川貴義さんが新劇系のプロデュース公演に新作を提供。演出は青年座の磯村純さんです。出演者にも青年座の方が多いですね。

 前日に観た公演とコンセプト(小劇場劇団若手劇作家と老舗劇団若手演出家のタッグ)が似てるので、公演自体を比較する気持ちもありつつ拝見。笑いが絶えない初日でした。装置に驚かされた・・・!(笑)上演時間は約2時間15分休憩なし。

 ⇒CoRich舞台芸術!『父が燃える日

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 来年、田舎に住む父が還暦を迎える。
 不肖の兄弟三人で、定年退職祝いと称し、三泊四日の東京観光家族旅行を企画した。
 父の大好きな野球と映画とラーメンを、存分に味わって貰おうというものだ。
 森鴎外が寄宿したというホテルの五人部屋に、父、兄、姉、そして僕、あと祖母、
 家族水入らずで宿泊する。
 母が居ないのは、僕が大学生の時に何も言わず出て行ってしまったからだ。
 祖母は誘ってもいないのについてきた。
 別に嫌っているわけではないけれど、こういう風に空気が読めないところは苦手だ。
 三日目の夜が父の誕生日。
 大好きな巨人戦を観た後、ホテルで祝う予定。
 ケーキと60本のロウソクとプレゼント、そしてもちろん、赤いちゃんちゃんこも用意した。
 思い返してみれば、父からは貰う一方で、何かを返したことはなかった。
 尊敬しているというほどでもないけれど、恨んでいるわけでもない。何でもない。
 あくまで、ただの、父親だ。
 兄が父をどう思っているのか、姉が父をどう思っているのか。
 そんなこと聞く機会は無かったし、聞くつもりも無かった。
 多分、僕と同じように、「ただの父親」程度の認識だったのではないかと思う。
 父は、僕らのことをどう思っていたのだろうか。
 実家に帰らず東京で働いている兄と姉。
 去年、三度の留年の後に大学を卒業し、そのままプー太郎を気取っている僕。
 父は、この旅を喜んでくれるだろうか・・・。
 ≪ここまで≫

 旅行中の家族に次々と降りかかる珍騒動。予想に反して明るいドタバタ喜劇になっていました。装置の工夫もさることながら、王道の笑いを着実に成就させて、いかにも老舗新劇劇団らしい、安心・安定のクオリティーでした。
 
 でも父が全く燃えなかったんですよね。ずっと浮いてる感じ。タイトルロールとも言える父役はテアトルエコーの安原義人さんです。やはり安原さんありきというか、安原に合わせた演出になっちゃったのかな~と想像。安原さんは愛嬌があってコメディーのセンスが光ってて、さすがの貫禄です。でもこの戯曲に描かれていることを深く濃くあらわす方法は取られなかったようです。

 次男“僕”を演じた宇宙(たかおき)さんがいつもながらの自然かつ鮮やかな存在感で良かったです。

 ここからネタバレします。

 森鴎外ゆかりの老舗温泉旅館の客室、が、なんと回り舞台だった・・・!まるでテーマパークのアトラクションみたい!!前から3列目ぐらいだったので、至近距離に壁が来るのがスリリング。舞台になっているのは広い客室の一部分だけなので、役者さんは床が切れた先にも部屋が続いていることを観客に想像させる演技をします。床の切れ目に敷かれ、まっぷたつになって綿が露出してる布団が面白い!仲居さんが半分になった枕を布団の上に置いたのがツボでした(笑)。モンティー・パイソンのごときナンセンスの世界に巻き込まれた感覚でしたね。

 長男は「父のために」と言いながら自分の旅行計画を家族全員にむりやり押し付けるタイプで、現在妻が行方不明(つまり逃げられた)。長女はいきなり訪ねてきた恋人(妻子持ちの獣医)を家族に紹介し、妊娠したので結婚すると報告。次男は大学を4年以上かけて卒業したけれど就職先が決まっていません。みんなお世辞にも順風満帆な人生を歩んでいるわけではないんですね。父もまた妻(=母)に逃げられ、浮気もしていましたから血は争えない。

 父の還暦祝いとして、長男は母との再会をサプライズのプレゼントにしようとしていました。結果的にそれは大失敗に終わるのですが、最後には父と母が2人きりでじっくり話し合う場面がありました。
 息子2人と娘1人が実家から出て行って、母が突然ふらりと失踪したのが8年前。母はなぜか佐渡島にいました。家出の理由は姑(父の実母)の叱責だったとわかります。なるほど子供たちが居なくなって、夫と姑との3人暮らしになるのはキツイよね、しかもあのゴーイング・マイ・ウェイなおばあさんと同居じゃ・・・と、母に同情的な気持ちになりました。
 また、公務員事務職の父がかつては医者を目指していたこともわかります。そりゃ娘の恋人の獣医に対して対抗心がわきますよね。自分が昔の浮気相手(=仲居)との間にできた子供を堕胎させたことだけじゃなく、若いころの挫折も思い出すことになりますから。・・・という風に裏事情がわかってくると、ますます疑問に思ったのはこのお芝居全体の軽快さです。あまりに軽すぎやしないかと。いつか古川さんの演出で観てみたいです。

 自称コンシェルジュのバイト君(前田一世)が布団に思いっきりジャンプして飛び込んだのに爆笑!あれはありえないって!(褒め言葉です・笑)。そして支配人じゃなくバイトだとばらされた時の気まずい演技が良かったです。あの時ぐらいかな~、じりじりしたシュールな笑いがあったのは。

出演:安原義人(テアトル・エコー)、小豆畑雅一(劇団青年座)、宇宙(劇団青年座)、山本与志恵(劇団青年)、松熊つる松(劇団青年座)、万善香織(劇団青年座)、石橋祐(フリー)、前田一世(青年座映画放送)、名塚佳織(フリー)、塩田朋子(文学座)
作:古川貴義(箱庭円舞曲) 演出:磯村純(劇団青年座)  装置:根来美咲、照明:中川隆一、音響:オフィス新音、衣裳:鎌田絵里奈、舞台監督:川上祥爾、舞台監督助手:尾花真、プロデューサー:森正敏 文化庁委託事業「平成23年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」 制作:(社)日本劇団協議会
日時指定・全自由席一般 4,000円、学生3,000円(学生は劇団青年座・日本劇団協議会の取扱)
http://gekidankyo.blog59.fc2.com/blog-entry-20.html
http://seinenza.com/performance/gekidankyo/110914.html
http://blog.goo.ne.jp/chichiga_moeruhi

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年09月17日 13:01 | TrackBack (0)