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REVIEW

2011年09月21日

ホリプロ『ミュージカル「スリル・ミー」Aキャスト』09/15-10/03アトリエフォンテーヌ

 本邦初演のミュージカル『スリル・ミー』は2005年にニューヨーク・オフブロードウェイで初演され、オーストラリア、ロンドンでの上演を経て韓国で大ヒットしている作品だそうです。出演者は男性2人だけ。上演時間は約1時間45分。

 客席100席という小さな空間での有名キャストによるミュージカル、そして栗山民也さんの演出ということで、Wキャストの両方を拝見することに。来年7月に天王洲銀河劇場での再演が決まっています(仮チラシより)。まずは田代万里生さんと新納慎也さんのAキャストから。

 ⇒産経新聞『「脚本が面白い」「楽曲が台本を後押し」 田代万里生、新納慎也 ミュージカル「スリル・ミー」
 ⇒CoRich舞台芸術!『ミュージカル「スリル・ミー」

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 刑務所での囚人の仮釈放審議会。審議官に問われるまま、「私」は37年前に犯した自らの罪を語り始める。
 「私」と「彼」は、なぜ子供を殺したのか。二人に、いったい何が起きたのか・・・。
 ニーチェを崇拝し、自らを特別な人間だと語る「彼」は、『犯罪』をすることでしか自分を満たすことができない。「私」はそんな「彼」を愛するがゆえに、求められるままに犯罪に手を貸していく。
 より深い束縛を求める2人は、互いの要求のすべてに応えるという契約書をつくり、血でサインをする。裏切りが許されない契約書のもと、二人の犯罪は次第にエスカレートしていった・・・。
 ≪ここまで≫ 

 最初は演技から歌へのつながりのぎこちなさが少々気になったり、スーツ姿の若い男性同士のラブ・シーンにすごくドギマギしたりして(笑)、しばらくは“ミュージカルの観客”になれずにいたんですが、終盤の衝撃的な展開にグっと入り込み、2人の熱い感情のこもったデュエットもどっぷり浸って聴くことができました。

 34年もの長い間、刑期に服していたレイ(田代万里生)が、若い頃の取り返しのつかない過ちについて語り、いわば劇中劇の形で事件の全貌が明かされていきます。
 19歳のレイは冷徹で悪魔のような“彼”(新納慎也)にゾッコン。でも“彼”はレイを犯罪のパートナーとしてしか見ていません。若く美しく優秀なゲイのカップルのSM関係がスリリング。同性愛のカップルでなければ成立し得ない、一筋縄ではいかない犯罪劇でした。

 【Aバージョン】レイ:田代万里生 彼:新納慎也
 田代万里生さんを初めて拝見しました。かわいらしいお顔に清楚で上品な立ち姿。王子様みたい。終盤の覚悟の決まった凛々しさが良かったです。
 新納慎也さんは“悪魔”が似合いますよね(笑)。同性愛者を演じるのはお手の物のようです。
 ラブシーンで変にどぎまぎ・ドキドキしちゃったんですよね・・・“彼”にレイへの愛情がないからかしら。恋愛よりも性的関係の印象が強く残りました。

 ここからネタバレします。セリフや歌詞は正確ではありません。

 1925年に実際に起きた事件をもとにしています。自らをニーチェ曰くの“超人”であると自称する“彼”の提案(=命令)で、10歳の少年を誘拐して撲殺、薬物で顔を潰し身元が分からないようにしてから遺体を排水溝に捨てるという、非情極まりない犯罪をおかした2人。さらには殺した子供の両親に身代金を請求する手紙を出すという非道ぶり。しかしレイが犯行現場にメガネを置き忘れたことに気づき、事態は一気に暗転・・・と、ここまではまあ普通と言いますか、よくある犯罪劇ですよね。

 でもメガネから足がつき、警察の取り調べを受けることになったレイを、“彼”は簡単に裏切ります。レイだけが罪に問われ捕まるかと思いきや、状況は逆転。レイの方が一枚上手でした。
 レイは一生涯“彼”と一緒にいるために、わざと殺しに加担し、凶器などの証拠を保存し、メガネを犯行現場に置いたのです。レイは何かもを警察に話して自首し、やがて2人にくだった判決は99年間の懲役。つまり死ぬまで“永遠に”2人は刑務所の中で暮らすことになります。

 「僕は君に勝った。僕こそニーチェ曰くの超人だ」と、レイは“彼”を見つめて言います。勝ち誇ってはしゃぐのではなく、静かに、落ち着いて、何もかも見とおした表情で。
 「これから99年、つまり永遠に一緒だ」というラブ・ソングのデュエットは、同じ歌詞を一緒に歌いながらも2人の気持ちが反対なのが切ないです。

 しかしながら“彼”は刑務所のシャワールームで囚人に刺殺されました。永遠に一緒にいることは叶わなかったのです。でも年老いたレイは、“彼”が生きていたら今も愛していたと答えます。仮釈放が認められて自由になっても、思いだすのは高校生の頃の“彼”のこと。死さえもレイの愛を奪うことはできなかったんですね。固く貫かれた純愛のお話だったのだと、最後にわかりました。

"Thrill me"
出演:田代万里生&新納慎也 松下洸平&柿澤勇人 ピアノ伴奏:朴勝哲 声の出演:大鷹明良 檀巨幸 前田一世
原作・音楽・脚本:Stephen Dolginoff/翻訳・訳詞:松田直行/演出:栗山民也/音楽監督:落合崇史/美術:伊藤雅子/照明:小笠原純/音響:山本浩一/衣裳:前田文子/歌唱指導:伊藤和美/振付:田井中智子/演出助手:田中麻衣子 坪井彰宏/舞台監督:田中伸幸/宣伝美術:加瀬倫有(GIRI DESIGNO)/宣伝ヘアメイク:赤塚修二(メーキャップルーム)/宣伝スタイリスト:津野真吾
【発売日】2011/08/07 6,300円 (全席指定・税込)
http://hpot.jp/tmjp/
http://www.horipro.co.jp/usr/ticket/kouen.cgi?Detail=163

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年09月21日 20:27 | TrackBack (0)