新国立劇場演劇の新シーズン“【美×劇】―滅びゆくものに託した美意識─”の第1弾です。三島由紀夫作『朱雀家の滅亡』を芸術監督の宮田慶子さんが演出されます。
初日を鑑賞しました。とても重厚で緊張の途絶えないセリフ劇でした。これは…頻繁には上演されないことに納得です。命がけで生きる人間と人間が拮抗するぎゅーーーっと凝縮された時間と、流麗な日本語によって生み出される深い思索の時間。何度も涙がこぼれました。上演時間は約2時間50分(途中休憩15分を含む)。⇒帰り道のツイート
劇場ロビーで関連書籍を多数販売中。私は『朱雀家の滅亡』『サド侯爵夫人』の文庫本を購入。ありがたいです。
⇒CoRich舞台芸術!『朱雀家の滅亡』
⇒シリーズ【美×劇】合同制作発表会
≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
時は、太平洋戦争末期。
名門侯爵家の当主、朱雀経隆(國村隼)は、専横な振る舞いを続ける首相を天皇のために失脚させたのち、自らも辞職して帰還する。
女中おれい(香寿たつき)や婚約者璃津子(柴本幸)の反対を押し切って、出征を願いでた息子の経広(木村了)は、叔父宍戸光康(近藤芳正)とおれいの反対にもかかわらず、戦地へ赴き戦死してしまう。
おれいは、経広を無為に失わせた経隆を責め、死を嘆き悲しむが……
忠誠心とは、国家や、大義とはいったい何なのか、ある華族の崩壊を通して問いかける。
≪ここまで≫
5人の登場人物がみな頑なで、会話は絶望的に平行線をたどります。でもそれぞれにしっかりとした根拠を持っているので、すれ違う様は愚かで悲しいけれど、美しいとも思いました。
役者さんは皆さん、長いセリフとの格闘の跡があらわれていました。苦しい稽古を重ねた成果を見せてくださったように思います。
“何もしない”朱雀侯爵役の國村隼さんが素晴らしかった~。何もしないことを選び、周囲が何を言おうと、どうなろうと、それを実行するのは簡単に言うと頑固です。國村さんは柔らかなたたずまいをキープしつつ、その元にある意志が決して揺らがないことをあらわされていました。現代の女性である私からすると「バカ!ひどいよ!」と言いたくなる気持ちにもなったのですが、ある世界が崩壊する時に、その世界とともに生きて、ともに滅ぶと決めて添い遂げる姿には、「私ごときには敵わないな」と、首を垂れるしかありません。
女中であり母であるおれい役の香寿たつきさんは、休憩前と後では別人!(物語上必然なのですが) 激昂しても過剰に、はしたなくならないので、セリフをじっくり味わうことができました。朱雀侯爵の弟役の近藤芳正さんは、計算された演技で緊張をうまく緩和する間を作ってくださり、ワハハと笑えてホっと一息つけました。若いお2人はやはりまだこれからという印象でしたが、ひたむきさ、必死さに打たれました。そしてお2人ともきれい。
ここからネタバレします。
空襲で焼けおちた朱雀邸。大きなダイニングテーブルが客席の方向に傾き、描かれていたのが朱雀の絵だったことがわかりました。権威と伝統の象徴のような豪華なテーブルが壊れて、華麗に飛び立つ朱雀の姿が浮かび上がります。皮肉だけど美しいです。
私が一番共感したのは、廃墟で一人生き残った経隆のセリフ。※上記文庫本の248ページ
大意を「お上に心酔していた(今もしている)自分は確かに狂気だったかもしれない。でもその時は鳥のように飛べた。だが今の日本人のように正気に戻ったとすれば、翼があるように見えても決して飛ぶことはできない」という風に受け取りました。ストーリー上は「お上=天皇」ですが、「お上=美意識」としていいと思います。
最近、如月小春著「俳優の領分」を拝読しました。
『朱雀家の滅亡』初演で朱雀経隆役だった中村伸郎さんが、同役をどう演じられたか、そして当時三島由紀夫さんが何をおっしゃっていたのかを語られています。如月さんの『朱雀家…』についての作品解説を読み、私はやはり女性(自分の性)の視点からしか受け取っていなかったのだなと反省。的を射た鋭い解釈に目からうろこが落ちる思いの連続でした。明治時代以降の日本の演劇の変遷にご興味のある方にはぜひともにお薦めしたい名著です。
2011/2012シーズン【美×劇】―滅びゆくものに託した美意識─Ⅰ
出演:國村隼 香寿たつき 柴本幸 木村了 近藤芳正
作:三島由紀夫 演出:宮田慶子 美術:池田ともゆき 照明:室伏生大 音響:上田好生 衣裳:半田恵津子 演出助手:松森望宏 舞台監督:澁谷壽久
【休演日】9/26 10/3【発売日】2011/07/16 A席6,300円 B席3,150円 Z席1,500円 三作品特別割引通し券16,600円(正価18,900円)
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000435_play.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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