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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2011年11月20日

青年団『ソウル市民1939 恋愛二重奏』11/03-12/04吉祥寺シアター

 平田オリザさんが作・演出される青年団ソウル市民五部作連続上演(過去レビュー⇒)。私は新作2本を観ることにしました。2006年の三部作連続上演の時も凄いと思ったけど、新作2本を追加して五部作連続って・・・どうやってお稽古して、どうやって本番を回しているんだろう・・・って素人の私が考えても仕方ないことですが、想像を試みただけで途方に暮れそうです(汗)。

 まずは『ソウル市民1939 恋愛二重奏』を日曜日13時から拝見。上演時間は約1時間55分。
 日曜日の早い時間のマチネ客席は目測9割ほどの入り。客層は若者よりも中高年の男女が多い印象です。アゴラ劇場および青年団の固定客はもちろん、『ソウル市民』シリーズも人気なのでしょうね。

 12/4まで公演は続きますが、各作品の上演回数はそれほど多くありません。終盤は完売続出になると思われますので、ご興味ある方は今のうちのご予約をお勧めします。

 ⇒日経新聞「青年団『ソウル市民』5部作 日常のさりげない光景から歴史の全体像とらえる」(内田洋一)
 ⇒CoRich舞台芸術!『ソウル市民五部作連続上演

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 1939年11月、ソウル。日中戦争からすでに二年が経過し、日本国自体は、長期にわたる戦争状態という泥沼にのめり込んでいた。一方、30年代中盤から始まった好景気、軍需景気の影響を受け、満州への中継点としての役割を担う京城は、虚構の繁栄を謳歌する。国家総動員法の制定、欧州での世界大戦勃発、迫り来る軍靴の音に耳を澄ましながら、篠崎家の人々はつかの間の恋愛に身を焦がす。
 ≪ここまで≫

 舞台は大きなテーブルとイスのあるリビング。一家そろって食事をする場所であり、お客様を迎える場所でもあります。一族の暮らしの中心となる場所で、ごく自然に交わされる日常会話にこそ、差別や選民意識などが生々しくリアルに現れるんですね。

 歌を歌う場面が多くて、私にはそれが良かったです。戦時中の軍歌や流行歌には、気持ちを高揚させ思考を麻痺させる意図が感じられて、頭がむずむず、胸がひりひりします。登場人物たちが何も考えず、周囲に流されるままに明るくはしゃぐほど、それを見つめる私の心は静まり、より深く考えることができます。

 ここからネタバレします。セリフは不正確です。

 長女(能島瑞穂)の夫で入り婿の昭夫(古屋隆太)は、戦地(中国)から帰って2ヵ月ほど放蕩生活を送っています。人命がゴミのように扱われる戦場を知った人間と、それを知らない人間(篠崎家の人々)との間には、決して埋められない溝が出来ていました。「東京ラプソディ」(東京を京城と替えて歌う)を大勢で合唱するのを、昭夫たった一人だけ歌わずに見つめる場面が良かったです。

 かつての篠崎家の書生で、志願して日本兵となった高鉄(大竹直)がつぶやく「ありがたいことだ」というセリフが一番耳に、目に残っています。たとえば京城が美しい都市になったは日本人のおかげもあるかもしれませんが、ありがた迷惑なんですよね。でもそれに乗っかっている自分自身に対する憤りとあきらめの気持ちが、高鉄の表情、声色から受け取れました。大竹直さんは『眠れない夜なんてない』でも素敵だったんです。あの官能的な場面を思い出しました。

 高鉄のために朱源(キム・ミンソ)が日本の軍歌を歌う場面で落涙。朝鮮なまりの日本語の軍歌が痛々しくて、胸が詰まります。『ソウル市民 昭和望郷編』の発音を直される場面もそうでした。たしか「モテたい理由」という本で読んだのですが、発音を厳しく指導するのは植民地政策の効果的な手段だそうです。被支配者のプライドを簡単に打ち砕くことができますものね。

 奥ゆかしいのだろうとはいえ、高鉄(大竹直)と朝鮮人女中(富田真喜)が恋をしているように見えなかったのは残念。あ、本当は恋してないのに、周りが盛り上げちゃっただけなのかな。

青年団第64回公演「ソウル市民五部作連続上演」10/29-12/04吉祥寺シアター
出演:のべ約100名の青年団俳優陣
『ソウル市民1939 恋愛二重奏』出演:松田弘子 兵藤公美 高橋縁 大塚洋 能島瑞穂 古屋隆太 大竹直 河村竜也 佐藤誠 キム・ミンソ 海津忠 木引優子 佐山和泉 鄭亜美 中村真生 小瀧万梨子 富田真喜 ブライアリー・ロング ※出演を予定しておりました宇田川千珠子は、体調不良のため休演させていただくことになりました。
脚本・演出:平田オリザ 舞台美術:杉山至 照明:岩城保 音響:泉田雄太 衣裳:有賀千鶴、正金彩 衣裳協力:着緑 JEANNE VALET 舞台監督:中西隆雄 舞台監督補佐:播間愛子 宣伝美術:グリフ(工藤規雄+村上和子) 京(kyo.designworks) 宣伝写真:佐藤孝仁(Beam×10) 宣伝美術スタイリスト:山口友里 パンフレット:太田裕子 Web:斎藤拓 制作:青年団制作部 西山葉子 林有布子 木元太郎 服部悦子 石川景子 野村政之 [企画制作]青年団/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 [主催]青年団/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 [提携](公財)武蔵野文化事業団 [後援]駐日韓国大使館 韓国文化院
【休演日】11/1(火)、8(火)、15(火)、16(水)、24(木)、29(火)【発売日】2011/09/02 日時指定・全席自由席・整理番号付き 前売・予約:一般3,500円 学生・シニア2,500円 高校生以下1,500円 当日券:一般4,000円 学生・シニア3,000円 高校生以下2,000円 ※3演目以上ご観劇の方は、こまばアゴラ劇場支援会員へのご入会でお得にご覧いただけます。
http://www.seinendan.org/seoul5/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年11月20日 21:38 | TrackBack (0)