13時開演の『ソウル市民1939 恋愛二重奏』に続いて、16時開演の『サンパウロ市民』を拝見。上演時間は約1時間50分。2006年の三部作連続上演のレビュー⇒1、2、3
『恋愛二重奏』が終わって劇場から出る前に、予約済みの次の作品のチケットを受付で受け取りました。それから30分ほどで整列入場です。吉祥寺シアターの階段や2つの入り口をうまく振り分けて、整理番号順にスムーズに誘導してくださいました。快適~。
終演から次の開演まで1時間しかないんですよね。観客にとってはありがたいですが、役者さんやスタッフさんは休みなしですね・・・。
⇒CoRich舞台芸術!『ソウル市民五部作連続上演』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
1939年11月、ブラジル・サンパウロ。移民開始から三十年を経て、成功者も登場し始めた日系移民。その代表格である寺崎家は、サンパウロで文房具店を営んでいる。欧州での大戦勃発による、日本人学校の閉鎖など、遠い戦争の影響はないわけではないが、それでも寺崎家の日常は平穏である。そこにやってくる相撲取りや、写真花嫁と呼ばれる新移民たち。『ソウル市民』四部作の地球の裏側で展開する、もう一つの「植民」の物語。
≪ここまで≫
パンフレットで平田オリザさんはマームとジプシーの藤田貴大さん、そしてチェルフィッチュの岡田利規さんについて言及し、「大きな交響曲の中で執拗に繰り返される主題」をイメージして取り組まれたと書かれています。『ソウル市民』『ソウル市民1919』『ソウル市民昭和望郷編』にあったエピソードが、1939年のサンパウロに暮らす日本人移民家族の物語に移殖されていました。
パっと見た感じでは、木箱が撤去されたこと以外、『ソウル市民1939 恋愛二重奏』の舞台装置とあまり変わらないのですが、実は食器棚の中のグラスや器が入れ替えられています。照明も違っていました。
青年団の作品についてこういうツイートがあり、なるほどと思いました。劇団所属の役者さんよるアンサンブルには、これぞ青年団という独自性があるのでしょう。役者さんだけでなく演出の平田さんの手腕ももちろんあると思います。
青年団には市井の人々の日常をリアルそうに作り上げる技術と知性を持っている、10代から50代という様々な年齢の役者さんがそろっています。層の厚い役者陣のおかげで、どのセリフをどの感覚でどの間合いで言うか、どう動くか等の数々の要素をぴたりと合わせる、高度で緻密なアンサンブルを作り上げることができるのだと思います。
きちんと稽古を積んだ役者さんが、声や気持ちを含む身体をコントロールしているのが透けて見えるので、私は1人の役者さんから役者さんご自身と役人物との両方を観ている状態になり、常に冷静に、舞台で起こることを見つめて思考をめぐらすことができます。それが私にとっての青年団本公演の見方ですね。
度々言ってることですが、私は感情が小刻みに、生き物のように動いて、役者本人にもその先どうなるのかわからないぐらいの不安定な状態をさらすような、「舞台で生きている」という種類の演技が好みです。だから青年団団員以外の出演者による『ソウル市民』や『東京ノート』を観てみたい気持ちはありますね。本家本元を超えるのは難しいと思いますが。
ここからネタバレします。
もともとサンパウロにはブラジルの原住民が暮らしていたのですが、今では彼らは原住民(先住民?)居住区に押し込まれています。そして日本人は原住民のことを蔑視しつつ“ドジン”と呼びます。日系移民が今の繁栄を築く前には搾取がありました。
ボサノヴァ(のような曲)を日本語の歌詞で歌う場面が良かったです。誰もが輪になってつながって、テーブルの周囲を踊って回り、楽しそう。その後にラジオから日本の戦況報道が流れますが、聞き取れないのに「勝ったはず」とお祝いムードに。歌を歌っている時と同じような浮かれ具合です。「ブラジール、ブラジール♪」と歌うけれど、そのブラジルにもともと住んでいた人々を無理やり押しのけた上にある幸せなんですよね。その考えが頭から離れませんでした。
関取と興行主のペアはとっても可愛いんだけど、あまりエピソード自体に興味を持てなかったな~。
青年団第64回公演「ソウル市民五部作連続上演」10/29-12/04吉祥寺シアター
出演:のべ約100名の青年団俳優陣
『サンパウロ市民』出演:山内健司 志賀廣太郎 たむらみずほ 天明留理子 小林智 島田曜蔵 古屋隆太 鈴木智香子 石橋亜希子 井上三奈子 大竹直 熊谷祐子 髙橋智子 村井まどか 山本雅幸 堀夏子 村田牧子 齋藤晴香 石松太一 井上みなみ ブライアリー・ロング
脚本・演出:平田オリザ 舞台美術:杉山至 照明:岩城保 音響:泉田雄太 衣裳:有賀千鶴、正金彩 衣裳協力:着緑 JEANNE VALET 舞台監督:中西隆雄 舞台監督補佐:播間愛子 宣伝美術:グリフ(工藤規雄+村上和子) 京(kyo.designworks) 宣伝写真:佐藤孝仁(Beam×10) 宣伝美術スタイリスト:山口友里 パンフレット:太田裕子 Web:斎藤拓 制作:青年団制作部 西山葉子 林有布子 木元太郎 服部悦子 石川景子 野村政之 [企画制作]青年団/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 [主催]青年団/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 [提携](公財)武蔵野文化事業団 [後援]駐日韓国大使館 韓国文化院
【休演日】11/1(火)、8(火)、15(火)、16(水)、24(木)、29(火)【発売日】2011/09/02 日時指定・全席自由席・整理番号付き 前売・予約:一般3,500円 学生・シニア2,500円 高校生以下1,500円 当日券:一般4,000円 学生・シニア3,000円 高校生以下2,000円 ※3演目以上ご観劇の方は、こまばアゴラ劇場支援会員へのご入会でお得にご覧いただけます。
http://www.seinendan.org/seoul5/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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