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Shinobu's theatre review
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REVIEW

2011年11月29日

SPAC・静岡県舞台芸術センター『オイディプス』11/26-12/04静岡芸術劇場

 カンパニーデラシネラの小野寺修二さんがSPACの俳優とともにギリシア悲劇の『オイディプス王』を演出。上演時間は約1時間45分だったかと。

 小野寺さんはパントマイムのパフォーマーでいらっしゃいますが、振付家、演出家としてもひっぱりだこのアーティストです。マイムの動きから派生したダンス(群舞?)やステージングは見事で、小説や古典戯曲の舞台演出でも高い評価を得てらっしゃいます。※次は新国立劇場(ダンス)で『カラマーゾフの兄弟』を演出されます!

 私が伺ったのは一般向け公演の初日で、その前に中学生が鑑賞するステージが数日間あったそうです。静岡芸術劇場およびSPACが、静岡という街の劇場として存在感を示していかれることを嬉しく思います。

 ⇒CoRich舞台芸術!『オイディプス

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 オイディプスは古代ギリシア・コリントスの王家で育ったが、「両親を殺すだろう」という神託を受けそれを避けるべく旅に出た。その途中、三叉路でとある一行と争いになり、彼らを殺してしまう。やがてテーバイにたどり着き、市民を恐れさせるスフィンクスを退治し、先王を亡くした妃イオカステと結婚する。その頃、恐ろしい疫病が流行し始め、巫女のいるデルポイへ神託を求めたところ「この混乱は先王ライオスが殺されたためである」と告げられる。オイディプスは自ら暗殺者の探索に乗り出す。しかし、三叉路で自分が殺した相手こそライオスであり、ライオスとイオカステが自分の産みの親であることを知るのだった……。
 ≪ここまで≫

 年を取ったせいか身にしみました・・・。「お前は何者なのか、しかと気づけ」と言われているように感じるのです。人間は自分の人生においてどんな無茶も馬鹿もやっていいけれど、全ては自分の体と周囲の人間関係の中に残っていきます。過去は消せないし、逃げられない。終わったことは無かったことにならない。たとえ他人が忘れたとしても、自分(の体)に刻まれた体験、記憶は消えないのだと思います。

 だからといって、自分の欲望や衝動を封じ込めて無難に生きるのは間違いなんですよね。そんな不本意な生き方をしていたら、常に自分の中に言い訳を作ることになってしまいます。日々、自分の心の声に耳を澄ましながら、素直に、正直に行動に起こしていっていいと思います。なんだかきれいごとだな・・・でも本当にそう感じました。自分の信じる善き道を選んで生きていけば、何が起こっても自分のせいだと思えるし、初心貫徹だろうが撤回だろうが、その時、その場で舵を取って、次へと進めると思います。

 こんな風に自分に近づけて考えることができたのは、主人公がオイディプス王という大昔の有名な王様なのではなく、オイディプスという名前の1人の男性だと思えたからでしょう。さらにはオイディプスを数人の俳優が演じるので、私(たち)が主人公の物語だと受け取れたおかげだと思います。

 森川弘和さんの演技、というか、動きに見とれました。時間が止まったような感覚を何度も味わえました。

 ここからネタバレします。

 床を転がったりジャケットを脱ぎ着するなどの、すばやい動きのシーンはさすがの面白さ!ただ、無言のまま立っている場面に、その長さを取る必要性が感じられないことがありました。
 個人的には『異邦人』のような軽快さがもうちょっと欲しかったかも。スーツ姿の男性とその助手が登場する、歯磨き粉の「クリニカ」と「ソルティ(だっけ?)」の場面がもっと観たかったです。
 三叉路に3人のオイディプスがいる場面が良かった!

 最後は装置が全部なくなって、オイディプスがたった一人、舞台中央に立っています。白い照明が徐々に、彼を含む舞台全体を素っ裸にさらすように明るく照らしていき、「これはあなた(観客)の物語なのです」というメッセージを受け取りました。


 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫ ほんのメモ程度です。
 出演(舞台左から):宮城聰(SPAC芸術総監督) 小野寺修二 首藤康之(バレエダンサー)

 首藤「自分の場合はまずバレエの技術があって、その上に感情を乗せる作業に入る。しかし小野寺さんの手法はそればかりではなかった。」

 宮城「舞台のパフォーマンスは繰り返すことが宿命。俳優は矛盾することばかり求められている。繰り返すことにどう立ち向かうのですか?」
 首藤「私は毎日トレーニングをしています。いつもニュートラルにもどす作業が大事。初心が大事。」
 小野寺「(俳優は自分に課された仕事[演技]をまず)分解する。そして嘘をつかないこと。舞台上で俳優が夢中になっていたら、そこには嘘がない。自分にとって嘘じゃないと言えることが大事。」

 小野寺「宮城さんは俳優の感情をどのようにとらえてるんですか?」
 宮城「感情について話そうとすると今から35時間はかかってしまう(笑)。感情はミステリー。ただ、多くの演出家が言っていることですが(ほぼ演劇の前提になっていると思われることは)、悲しみや喜びを表現したいなら、それ自体を表現することを目的にしてはだめだということ。たとえば木を彫って像を作ると、木くずが(ゴミとして)出てくる。演劇における感情は、いわばその木くずである。そして人間は、その木くずに心打たれるものなのです。」

出演:大高浩一、たきいみき、武石守正、舘野百代、仲谷智邦、藤田桃子、三島景太、森川弘和、吉見亮、渡辺敬彦
演出:小野寺修二 作:ソポクレス 舞台美術:高田一郎 テキスト:小里清 舞台監督:浜村修司/演出助手:貴島豪/美術助手:深沢襟/照明:樋口正幸/音響:青木亮介/衣裳:竹田徹/照明操作:神谷怜奈/演出部:市川一弥、武石進衛/制作:鶴野喬子、河尻桂子
http://www.spac.or.jp/11_autumn/oedipus.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年11月29日 11:32 | TrackBack (0)