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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2011年11月30日

Produce lab 89『官能教育 藤田貴大×中勘助「犬」』11/23-27新世界

 演劇ジャーナリストの徳永京子さんが責任者をつとめるProduce lab 89『官能教育』シリーズの第4弾。マームとジプシーの藤田貴大さんが中勘助作の小説「犬」をリーディング公演として構成・演出されます。チケットは完売ですが当日券あり。
 ※公演中にレビューをアップするつもりが、遅れました。ごめんなさい。

 上演時間は約1時間強。壮絶でした。「犬」という小説を舞台化しただけではない演劇作品です。帰宅直後のツイート⇒ 毎回終演後には藤田貴大さんによるトークあり。藤田さんがとても饒舌に語ってくださり、刺激的で内容の濃いトークでした。

 時間的に難しいかもしれませんが、22時の回がおすすめです。客席の空気がいい感じにほぐれて、タブーが起こることを許容する(待ち望む)ムードになる気がするからです。今回のチケット↓はボタンでした。
20111123_inu_ticket.JPG

 このロングインタビュー↓、オススメです!
 ⇒藤田貴大ロングインタビュー「シーンの反復(リフレイン)で蘇る少女たちの心象風景
 ⇒舞台写真
 ⇒CoRich舞台芸術!『官能教育 藤田貴大×中勘助「犬」

 おなじみの反復(リフレイン)の手法は踏襲されていますが(過去レビュー⇒)、原作小説の内容が性的な意味で刺激的で、ストーリーも大っぴらに残酷なので、いつものマームとジプシー公演とは全く違う味わいでした。
 ※私は原作を読んでいません。終演後のトークでの藤田さんの解説によると、大いに変更が加えられているようです。

 舞台から一番近い奈落の中央の席で拝見。下から上を見上げる体勢で俳優に手の届きそうな位置だったのは、私にとってはとても良かったです。俳優を堪能できました。役者さんは皆さん、素晴らしかったです。カーテンコールは2度目があっても良かったと思います。音響(音楽)と照明もセンス抜群。1時間強、舞台に釘付けで全く逃れられませんでした。

 過去と未来を頻繁に行き来するし、場面も目まぐるしく変化するし、役者さんはひっきりなしに動いているので、舞台で起こることを受け取ってついて行くのがやっと。降りそそぐ膨大な情報を浴びるように鑑賞しました。
 鮮やかで残酷でシンプルな反復から、体に、心に、突き刺さるように『犬』の内容(など)が伝わってきます。やがて「もうわかったよ、何が起こったのか、誰がどう感じたのか。だからもう繰り返さないで、悲しくて苦しいから」という気持ちになりました。でも、まだまだ続く反復を観ている内に気づきました。私は全くわかってないということを。何度繰り返されても、じっと穴が開くほど見つめ続けても、人間には他者を「わかる」ことはできない。そして自分が何を見てどう感じ、それが自分にどう作用したのかも、つまり自分自身のことも、本当はわかっていないのです。

 当日パンフレットの藤田さんの文章もこの作品に含まれると思います。何が書かれていても、それが誰の発言なのか、事実なのかなんて、わからない。私たちは「誰にとっても確かなこと」なんて絶対に手に入れることはできない。でも、だからこそ、というのでしょうか、目の前で汗だくになって跳ねる役者さんは確かすぎるほど確かで、「わからない」のに、いえ、もしくは「わからない」からこそ、とんでもなく美しくて豊かで、官能的だと感じました。

 ここからネタバレします。解釈が間違ってたらごめんなさい。

 出演するのは山内健司さん、青柳いづみさん、尾野島慎太朗さんの3人。まずそれぞれが実社会での自分自身として舞台に存在します。そして役人物としても存在します。さらにはその役を演じるために想定した、「役人物の年齢で、役人物と同じ状況にある自分(=役者自身)」としても存在します。つまり「山内さん、青柳さん、尾野島さんが各3人ずつ舞台上に居る」ということになります。これらは全てセリフで説明されます。

 自慰行為もレイプシーンも、抽象的ではあるものの身体表現でしっかり見せて繰り返すので、観ていてとても苦しくなるほどリアル。それが「犬」の中だけでなく、出演者3人の世界でも起こるのです(例:尾野島さんとセックスをした青柳さんが妊娠。青柳さんの恋人の山内さんは激怒して、尾野島さんを殺す。)役者さんは役者同士として会話したり、「犬」の登場人物になったり、登場人物と同じ設定を背負う自分自身を演じたり・・・。藤田さんがおっしゃる“変態”とは、役者さんの“変態”なのだと思いました。

 少女とほぼ無理やりセックスしても、レイプしても、男たちは少女のことを決して獲得することはできませんでした。「獲得」とはつまり「わかる」ということだと思います。舞台で丁寧に、執拗に、何度も同じエピソードが繰り返されても、その物語も、登場人物も、役者さんのことも、私(観客)が獲得することはできないのだと思いました。

 青柳さんの赤いワンピースの裾がひらりとふくらんで、中が見えそうになるチラリズムにどっきどき(見えてもいい下着をお召しなので大丈夫なのですが)。青柳さん(セリフによると25歳)は少女らしい顔つきなので、ロリータ趣味なエロスもあって胸にズキっと来ます。


 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演(舞台に向かって左から):藤田貴大 山内健司 藤原ちから 徳永京子

 青柳さんは台詞を一度聞ただけで憶えられるそうです。「噂には聞いていたけど(大竹しのぶさんとか)、本物を初めて見た!」と山内さんがおっしゃってました。藤田さんは稽古場でクチタテ(口伝)でセリフを役者さんに伝えるとか。なんと・・・驚きました。

 「山内さんは元ワンダーフォーゲル部で、何でも山登りにたとえるのが面白い」という話題になりました。どんな舞台出演も「そこに山があるから登る」という精神で挑んでらっしゃるようです。俳優とは修行僧のような職業だと思います。そういえば「犬」の舞台はインドで山内さんが演じた男性は僧侶なんですね。

官能教育~官能をめぐるリーディング~
出演:山内健司 青柳いづみ 尾野島慎太朗
構成・演出:藤田貴大 テキスト:中勘助『犬』より 照明:明石怜子 音響:角田浩一 WEB:斎藤拓 制作:林香菜 召田実子 責任者:徳永京子
【発売日】2011/10/14 自由席 2,500円+ドリンク代(当日・予約共に)
http://www.producelab89.com/
http://mum-gypsy.com/news/news-105.php

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年11月30日 16:28 | TrackBack (0)