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Shinobu's theatre review
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REVIEW

2011年12月11日

スペースクラフト・エンタテインメント『成河1人パフォーマンス』12/04青山~渋谷~駒場

 演劇ぶっく&演劇キック主催「第2回東日本大震災チャリティオークション」にて落札された『成河(ソンハ)1人パフォーマンス』を拝見して参りました・・・!

 成河さんの所属事務所がある青山から渋谷、駒場へと散策しながら、成河さんの即興演技および朗読を鑑賞するツアー。ご本人とスタッフの方々を含め合計8名でのお散歩となりました。⇒参加者の感想ツイートまとめ ⇒私の感想ツイート
 ↓お散歩中の写真
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 まずは13時に事務所会議室に集合して歓談。成河さんはユーモアとサービス精神にあふれ、パっと周囲を明るくする開かれた姿勢で、参加者と1対1で対等に会話をしてくださいました。なんと参加者自己紹介も含めて約1時間半という長時間でした。

 お買い物が苦手とおっしゃる成河さんのコンビニ迷子のエピソードには仰天(笑)。目的に向かって集中して直進するお人柄がよく表れていました。ギターの弦をどこに買いに行ったかというお話から、お父様の勧めでクラシックギターを長くお稽古されていた経歴も披露。ソロ・パフォーマンスで使用したイトミミズ入りバランスボールのお話は、示唆に富み非常に刺激的でした。コントラバス奏者の齋藤徹さんらと出演された、superdeluxeでの即興公演の裏話は、成河さんの俳優人生に大きな影響を与えたようです。特に「俳優が即興をすること」については、私もちょうど気になっていたところだったので興味深く拝聴しました。
 参加者が大の舞台好きばかりだったこともあり、劇場で入手するチラシやパンフレットの保存方法など、ファンならではのコアな話題にも花が咲きました(笑)。「大きな決断」というお題についての暴露話はここでは触れません(ウフフ)。

 じっくり話をして全員の距離感が気持ちいいバランスに縮まってから、散歩開始。青山から渋谷へテクテクと歩き出し、大勢のお客さんでにぎわう国連大学前のFarmer's Marketに寄り道しました。成河さんはオーガニックコットンのお店でしばし立ち寄り。お肌がデリケートなんですね。
 渋谷のスクランブル交差点を経て文化村方面の坂を登り、成河さんが大学時代の演劇仲間とよく集まったパスタ屋さんを確認。昔ほどではないとはいえ、今も激安価格でした。Bunkamuraの正面を通って松涛方面へ抜けて、鍋島松濤公園へ。子供たちとお母様方が遊ぶ静かな池のある公園では紅葉も見られました。

 山手通りの方から東京大学駒場Ⅰキャンパスに入りました。いわゆる裏門からですね。構内は成河さんにとって懐かしい風景ばかり・・・のはずでしたが、かつての劇団綺畸の部室だった小屋「バク」があった場所には新しいガラス張りのビルが建っており、小屋は消えていました。平台を運ぶ頑丈な台車「ポチ」は、陸上部などが利用中のグラウンドの脇で、朽ちていました。

 「ポチ」の近くで、成河さんが学生時代に励んでいた身体訓練(肉体訓練)の『T(ティー)』を披露してくださいました。私も東大内の劇団にいた経験があり(成河さんより何年も前にですが)、一緒に『樽枝(タルエダ)』をやらせていただきました!障害物を避けながら走る(動きをする)訓練です。全力で走るマイムをして、「樽!」と言われたら前方から転がってきた(空想の)樽を飛び越える!「枝!」と言われたら上半身に降りかかってきた(空想の)木の枝をよける(しゃがむ)!成河さんと並んで『樽枝』をやった観客は私だけだろうてっ!ウッシッシ!!(←ドヤ顔で) しかし、俊敏な成河さんと比べて私がどれほど不恰好だったかと想像すると・・・恥ずかし過ぎる・・・(汗)。優しく見守ってくださった皆様、ありがとうございました。お目汚し失礼いたしました。

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東大のイチョウ並木。右下に『レ・ミゼラブル』の看板↑


 構内にある劇場、駒場小空間では東大ESSによる『レ・ミゼラブル』が上演中でした。ちょうど客出しのタイミングで、きちんと本物らしい衣裳を着た俳優さんがぞくぞくと劇場の外に出て来たところ。そこから成河さんが北区つかこへい劇団の入団オーディションで『レ・ミゼラブル』の1場面を演じたという話になり、1分間ほどのパフォーマンスを披露してくださいました。物語の最初の方で、ジャベールに囚人番号で呼ばれたジャン・バルジャンが、「俺はジャン・バルジャン!」と返事をする場面といえばわかるでしょうか。成河さんは歌いながらジャベールとジャン・バルジャンの2役をくるくる演じ分けます。迫力のある声に演技がピタリと乗っていて素晴らしいです。なぜいきなりこんな演技ができちゃうんでしょうか・・・だって入団オーディションって、もう何年も前ですよね。俳優って(成河さんって)やっぱり凄いな~と感心しきり。

 東大を出て駒場東大前駅から線路の向こう側へと移動しました。成河さんが子供のころ、親戚のおじ様に『ミス・サイゴン』に連れて行ってもらったという話になり、駒場野公園へと続くゆるやかな坂道を歩きながら、『ミス・サイゴン』の「命をあげよう」を歌ってくださいました。まっすぐ、どこか(何か)に向かう力が込められた歌声は、薄暗くなってきた公園内の、木々が連なる優しい景色に轟きました。近所にお住まいの方は絶対驚いてるよね・・・とドキドキしつつ(笑)、味わいました。

 坂を登りきったところで、四角いテーブルを囲むベンチに全員で腰掛けました。バーベキューができるスペースもある、小さな丘のような場所です。成河さんはそこで宮沢賢治の絵本「どんぐりと山猫」の朗読をしてくださいました。NHKで放送されたもののフルバージョンです(関連ページ⇒)。人間、動物などの演じ分けが安定していて、声を聞いているだけで穏やかな満足感がありました。外灯の光を頼りにしなければならないほどの暗さでしたが、全て暗記されていたそうで問題なし。さすがです。
 ちょうど物語の終盤で、なんと公園に本物の猫が出現!(出演?) にゃあにゃあと鳴きながら私たちのそばを通ったのです。絵本を読み終えた成河さんはサっと四つん這いになって“猫”になり、通りがかりの猫と見つめ合いました。しばしの間があって猫が去った後、成河さんは立ち上がって(おそらく“猫”のまま)木に登り、「聞こえますか?」と空に向かって叫びました。ここで終幕。「聞こえますか?」は荒野に響くようで、俳優のストイックな探究心と、孤独を感じました。猫出現は奇跡的なサプライズでしたね。参加者に猫好きな方が多かったので、「呼んだ」のかもしれません♪

 朗読の後、まだ17時ぐらいだというのにとっぷりと日が暮れた夜道を歩いて、駒場東大前近くの喫茶店に入りました。コーヒー、紅茶をいただきながら、成河さんが一緒にお仕事をされてきた演出家や俳優、最近観た面白かったお芝居、次の出演作(りんご企画『やぎの一生』、東宝ミュージカル『ハムレット』)などが話題にのぼりました。参加者も演劇やミュージカルに詳しい方ばかりでしたので、内容の濃い歓談になりました。
 私はこの喫茶店までで失礼しましたが、皆さんは渋谷の韓国料理屋さんに行かれたようです。うらやましい!
 ※韓国料理ではなくイタリア料理だったそうです。韓国料理は次の約束だったのかしら♪(2011/12/27加筆)


 【旅を終えて】

 成河さんと事務所のスタッフの皆さまが、東日本大震災のチャリティーとしてこのような企画を立ち上げてくださったことに、心から感謝申し上げます。オークション落札者さん(1名)のご厚意により、落札を試みた全員が招待されました。本当にありがとうございました!

 成河さんとのお散歩は一観客としてとても贅沢で幸福な時間であり、1人の俳優との邂逅でもありました。即興(エチュード)と演技の差とは何なのか、俳優とは一体何を仕事とする職業なのかなど、考えをめぐらせました。即興には「インプロビゼーション」という表現ジャンルがありますし、演劇好きの私は基本的に「即興はお稽古だ」と考えるタイプです。舞台で起こることは脚本通り(予定どおり)だけれども、それをその場で起こっているように見せる、感じさせるのが、俳優の技能だと思います。でも目の前の俳優の動作が即興なのか演技なのかを、観客が厳密に見分けられるかというと・・・非常に難しいですよね。

 ・・・などと考えながらこのレポートを書いていく内に、ハっと気づきました。これは成河さんがつくった「脚本の実演」だったのではないか、と。成河さんは事務所の会議室で参加者に「渋谷にまつわる思い出」を尋ね、街を題材に演劇創作をしている岸井大輔さんのことを話されました(⇒過去レビュー)。歩いている時には、渋谷の地下を流れている水路のこと、2009年の百軒店商店街での演劇フェスティバルのことも話題にされました。※成河さんは柵の上を渡り歩くパフォーマンスをされました(⇒関連動画リンク ⇒公式ブログの写真)。

 私たちは東大で上演中だった『レミゼ』の、ちょうど客出しのタイミングで駒場小空間にたどりつきました。成河さんはその流れで、北区つかこうへい劇団入団オーディションで先輩に「(そんな声じゃ)聞こえねえよ!」と言われたエピソードを披露してから、『レミゼ』の1分間パフォーマンスを実行。それに呼応するように、「命をあげよう」の歌の途中で「聞こえねえよ!」というセリフを挟み、朗読の最後は「聞こえますか?」で終幕しました。これは・・・間違いないですね・・・この日のために成河さんはどれほど計画を練って、どれだけの時間をかけてお稽古されたのでしょうか・・・!
 
 私は成河さんと他の参加者の皆さんと一緒に渋谷を歩き、昔の渋谷を思い出しながら、今の渋谷を味わいました。そうやって私にとっての渋谷は更新されました。今度渋谷を歩く時は、きっとこの特別な一日を思い出し、幸せを再体験するでしょう。私1人だけの渋谷ではなくなったことも大きいですね。
 あと、ごく個人的なことですが、私は大学時代のトラウマがなくなっていたことを確認できました。人間の忘却力ばんざい!(笑) もうこれからは東大、駒場といえば“成河”です!

 ⇒web dorama de songha「あとがきにかえて


※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年12月11日 16:50 | TrackBack (0)