岡田利規さんの岸田國士戯曲賞受賞作である、チェルフィッチュ『三月の5日間』の100回記念ツアーです。2004年の初演以来、日本と海外でツアーを重ねています。13カ国27都市での上演にあわせて7ヶ国語に字幕翻訳され、フランス語と韓国語では戯曲が出版されました。本日12/16より神奈川公演が開幕します。どうやら完売続出との噂が・・・。
私は初演から追いかけて、これまでに計6回観ています(過去レビュー⇒1、2、3)。この戯曲名の由来でもあるバンド“サンガツ”の生演奏にも惹かれて、熊本公演初日(99回目のステージ)に伺いました。⇒サンガツのブログに写真あり
上演時間は約1時間30分(途中15分の休憩を含む・その間サンガツの生演奏あり)。終演後には記念パーティーが催されました。
岡田さんは今年7月に神奈川県から熊本県にご家族と移住(避難)されました。御自身が暮らしはじめた街での初めての公演になったんですね。岡田さんは悲劇喜劇2012年1月号の「特集 2011年の回顧、2012年の抱負」に寄稿されています。チェルフィッチュの2011年の活動記録は演劇関係者必読かと。“小劇場すごろく”ではない道がこうやって具現化されてきたんですね。
⇒オシャレでもスタイリッシュでもなく『三月の5日間』の最新形
⇒CoRich舞台芸術!『「三月の5日間」100回公演記念ツアー』
岸田國士戯曲賞受賞作『三月の5日間』は白水社から出版されています。
書籍「わたしたちに許された特別な時間の終わり」は第2回大江健三郎賞受賞作です。小説版「三月の5日間」と、「わたしの関係の複数」という2つの短編(中編?)が収録されています。
山縣太一さんと松村翔子さん以外の役者さんは全員、私が『三月…』では観たことのない方々で、松村さんも今までとは違う役を演じてらっしゃいましたから、また新しく『三月…』と出会えました。ストーリーや演出はほぼ変わっていませんが、役者さんが違うと全然違いますね。登場人物の性格や背景が違うから。
イラク戦争が私にとって「懐かしい昔」になっていることにショックを受けました。初演から7年を経て、この戯曲は重みも、悲惨さも増したと思います。ある場面でボロボロと涙があふれてしまい、最前列桟敷席だったので、恥ずかしかった(汗)。
サンガツの生演奏に惹かれて熊本公演を予約しましたが、岡田さんがこの度の原発事故の影響でご家族と避難せざるを得なくなって、これから暮らす街として選んだ熊本という土地に、私も伺ってみたいと思ったからでもあります。飛行機に乗ってバスに乗って、テクテク歩いて到着した古い木造日本家屋。そこでチェルフィッチュ、サンガツ、スタッフの方々、そして観客の皆さんと出会って、一緒に2004年に生まれた現代日本の傑作舞台を味わった・・・。2011年3月11日を境に日本人は変わらざるを得なくなり、すでに大きく変化したことを実感しました。
終演後のパーティーでは福岡、愛知から来た方々と歓談。とっても寒かったので熊本県産焼酎のお湯割りをいただきました。ケータリングのお食事も美味しかったです。最後には100回公演記念のケーキが振舞われました。
ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。
ユッキーさん(松村翔子)とやりまくったミノベ君(山縣太一)が、「ホテルから出たら、(イラク)戦争は終わってるんじゃないか」と話すところ。山縣さんがお尻を板張りの床にドン!と落として、大きな音を鳴らしたんです。その後もしゃべりながら、四つん這いになってうずくまるようにして、足や手などで床をドン、ドン、と打ち付けました。怒りとあきらめ、悲しみの塊が、体と音とであらわされたように感じ、涙がぼろぼろあふれました。
あれから、サダム・フセインが処刑され、ウサーマ・ビン・ラディンも殺害(?)され、六本木と渋谷を含む東京には放射性物質がまき散らされました。今、原発事故の被害者になってやっと気づいたのですが、恥ずかしながら私にとってイラク戦争は対岸の火事だったのかもしれません。
ミノベ君は「英語話せるっていいよね」「アメリカに留学してたって、なんかいいよね」とユッキーのことを褒めます。これまでは「まあそう思うよね」とすんなり受け入れていたのですが、今回初めてひっかかりました。彼はアメリカがイラクを襲撃した戦争が早く終わって欲しいと思っているのに、「アメリカいいよね」と言っているんです。
最後はミノベ君(鷲尾英彰)が銀行から戻って、ユッキー(松村翔子)にお金を渡して、2人で渋谷駅へ向かう場面です。その前に、この公演でたった1度だけの短い暗転がありました。裸電球の明かりがじんわり点くと、それまでよりちょっと暗い目の、赤みがかった空間になりました。いきなりレトロなムードになり、まるで夢の再現、または過去の回想のようでした。木の壁と床も良かったですね。
サンガツには「5日間 (Five Days)」(⇒視聴できます ⇒ライブのレビュー)という曲があります。『三月…』とのつながりは一目瞭然ですよね。岡田さんはこの戯曲を執筆しながら「Five Days」をずっと聴いていたそうです(サンガツの小泉篤宏さんとのトークショーより)。六本木公演では途中休憩直前に流れていました。今回は休憩時間にライヴで堪能。山縣さんはその休憩中、音楽に合わせてずっと踊ってらっしゃいました。
終演後のパーティーはとっても心地よかったです。寒かったけど(笑)。ホテルに滞在するミノベ役を演じ続け、これまでの全99ステージに出演したのは山縣さんだけ。記念ケーキのろうそくを吹き消されました。
おまけ写真。帰りの空港で撮りました。熊本県のゆるキャラ「くまモン」です。私はかなり好き。
"5 days in March" 100回公演記念ツアー
≪熊本、神奈川≫
出演:山縣太一、松村翔子、武田力、青柳いづみ、渕野修平、鷲尾英彰、太田信吾
脚本・演出:岡田利規 広報(熊本):古殿万利子 記録写真:伊藤菜衣子 主催:チェルフィッチュ 企画・製作:precog
【発売日】2011/10/15 前売一般3500円、当日一般4000円 シルバー割引3000円、U24チケット1750円、高校生以下割引1000円
http://chelfitsch.net/next_performance/
http://www.kaat.jp/pf/chel35.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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