fringeプロデューサーの荻野達也さんが「短すぎる公演日程や早すぎる開演時間の演劇は公共性がない」(⇒1、2)という提言をされました。荻野さんらしい挑発的なタイトルをはじめ、熱のこもった内容だったためか、ツイッターやブログなどで異論、反論が次々と出てきました。
私は激烈な反論をする方々の感情的なツイートにひるんでしまい、一時はこの議論に参加する気持ちを失ったのですが、「平日夜の開演時間を遅くして欲しい」という思いは荻野さんと同じなので、自分の思うところを書いてみました。
※公演期間については、観客の立場としては長い方がありがたいです。申し訳ないのですが作り手側の事情までちゃんとわからないです。
⇒Togetter「演劇公演や美術館の公共性について」
⇒Togetter「舞台公演に平日19時半開演、20時開演の回を増やしてほしい」
⇒Togetter「短すぎる公演日程や早すぎる開演時間の演劇は公共性がない?」
いわゆる都市部の観客である私の個人的感覚なんですが、東京で行われる公演は近県の住民も観客だと想定していることが特徴で、そうなると劇場と自宅が遠く離れている観客が多くなります。その人たちにとっては「終演時刻」がとても重要なんです。
また都市には会社勤めの人が多いですよね。私の経験上、19時や19時半開演に間に合わないのは自分の仕事のせいかな~と思えるんですが、18時半開演だと「サラリーマンは平日には観に来なくていいですよ」と言われているような気がしてたんです。
そこで、開演時刻について考えてみたんですが↓
■「開演時刻を遅くして欲しい!」と思う観客
・会社が終わってからだと平日18時半開演には間に合わない(19時台なら会社を出られるけど、18時台は出づらい!)。土日しか観にいけないので劇場から足が遠のく。土日公演はチケット取りづらい・・・。
・会社が終わってから公演関係者への差し入れを買って劇場に行きたいので、その余裕が欲しい(18時台はつらい)。
・そもそも夜遅くまで働くのが当たり前の首都圏の状況をどうにかして!
■「開演時刻を早くして欲しい!」と思う観客
・終演が遅いと観劇後の食事など、語らいの時間をゆっくり楽しめない。
・自宅が劇場から遠いので、終電に間に合わないと困る。
・てか、早く家に帰りたいの!夜遅いのはイヤ!
■劇場・公演主催者(作り手)
・終演時刻が遅くなると劇場職員が家に帰れなくなる。
・「上演時間が長くならないように」と気にして作品をつくるなんて本末転倒。
・住宅街にある劇場だと深夜の騒音は迷惑。→閉館時刻が決まっている。
・開演時刻に多様性を持たせると、開演時刻を間違える観客が多くなる。
・どんな上演時刻にしても必ず観客から文句が出る・・・(ある公共ホールの方に聞きました)。
むむむ・・・難しいですね(汗)。何事も「あちら立てればこちらが立たぬ」「慣習を簡単には変えられない」「今の法律のままだとその変革は難しい」・・・となるものなんですね。でもあきらめるのは悲しいし、突破口が全然ないわけじゃないんじゃないかな~とも思うんです。
首都圏(主に東京)の公演に限りますが、たとえばポスト・パフォーマンス・トークなどの終演後のイベントが当たり前のように開催されるようになったのは、この数年のことで、少なくとも10年前は「当たり前」じゃなかったです(私の経験上)。小劇場公演での託児サービスも今は珍しくなくなりました。平日マチネも増えましたよね。最近気になってるのは朝11時開演の回。お子様がいらっしゃるお母様方に好評だったようです。「どんなことでも、実行する団体が多くなれば当たり前になるかもっ!」という楽観的な気持ちを糧に、観客の方からも「これが欲しい!」「こうしたい!」と声に出していくのは無駄じゃないと思います。
では・・・たとえば1日だけ、金曜日の夜だけ、19時半開演にしてみるとか、どうですか?ハナキン(←死語?)だけ特別に!・・・わがままだけど言ってみた!!
※「じゃあ、平日の開演時刻を19時半や20時にしたら、本当に劇場に観客は増えるの?」といわれると、申し訳ないことに私にはイエスともノーとも答えられないんですけどね・・・。
金曜日のソワレというと今でもよく思い出すのが、2009年10月に新国立劇場で開催されていたFRIDAY PUBです(毎週金曜ソワレ終演後の20:45~21:30に開店 ⇒公式ブログ ⇒公演レビュー ⇒体験談)。こんなイベントも合わせてやっていただきたい!私は3回あったうちの1回に参加して、すっごく楽しかったんです♪次もあったらお友達を誘おうと思ってたぐらい。チケットがなくても自由に入れたので、初台で働くスーツ姿の方々もフラリといらしてたそうです。「金曜日の夜は楽しそうなことやってるよ~」というアピールと、実際に足を踏み入れた時の、あの解放感のある語らいの場は、外の世界に届くんじゃないかしら(騒音や立地の問題があると難しいですが)。
開演時刻問題からFRIDAY PUBの話を書いてるうちに、Ort-d.dの演出家・倉迫康史さんが書かれている『「招き入れる」もしくは「迎え入れる」態勢を整えること』に近い気がしてきました。アウトリーチ活動のようによそいきの顔を作って出て行くのではなく、楽しい演劇の現場をみんなでシェアできるような場を設けること。ありのままで、その場で歓待することにヒントがあるのかもしれません。そういえば1月24日に開幕する『ヌード・マウス』で、ちょうど公開稽古があったばかりです。「ただ稽古を見て帰ってくれ、ってだけのイベント」なんですね。1/15、18にまた実施されます(⇒紹介エントリー)。
どんな地域のどんな環境の公演でもアクセスはしやすい方がいいです。その方法はそれぞれに違うと思います。でも、アクセスしてくれた時に、どんな顔で、どんな状態で、迎え入れるのか。その方法・態勢は共通するんじゃないでしょうか。まずは私自身が“演劇の観客”という世界に、多くの人を「招き入れる」「迎え入れる」態勢でいること、それが見える状態にすることを心がけたいと思います。
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