先日、福島県のあさか開成高校の作品を拝見してレビューを書いたところ、顧問の先生から直接お誘いをいただき(→ツイート)、観に行きました。『この青空は、ほんとの空ってことでいいですか?』に出ていた方々にまたお会いしたい、そして彼らの伝えたいことをまた聴きたいと思ったからです。
「東日本大震災および福島第一原発事故の被害に遭っている子ども達の声を届ける」ことをメインテーマとしつつ、貧困ゆえの人身売買やアフリカの少年兵の問題など、海外における子どもの虐待についても描かれていました。「CARE-WAVE AID」はVol.4ということなので、そういう慈善活動を継続されているんですね。
休憩15分を含む約3時間という長丁場で、私が最も心動かされたのは、福島県で音楽活動をされている浪江町出身バンド「涼風」の歌でした。⇒twitter上にお写真がありました。
ロビーでは、Youth United (高校生ボランティア)が、福島県の子供の絵を缶バッチにして1個100円で販売していました。⇒facebookページ 宮城・岩手には1295人の震災遺児がいて、福島では1000人以上の子供の甲状腺から放射性ヨウ素が検出され、約10人に甲状腺機能の変化が見られるほど子供たちの健康が脅かされているとのこと。
⇒CoRich舞台芸術!『被災地の子ども達による平和宣言3.11』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
「怒りの巨人」が練り歩くその足音は、連日のように日本全土に鳴り響いた。
しかし、その足音に怯える大人たちの中にいて、子ども達は
「巨人」の目に一滴の「涙」を見た・・・・
子ども達はその「涙」をそっとすくい上げ、「涙」の「真理」を読み取った。
そして・・・・今・・・・子ども達は静かにそして力強く立ち上がった!!
『日本よ、目を覚ませ!』
『僕らの声に、心の扉を開け!!』
ミュージカルや演劇を愛する、被災地3県の子ども達と徳島の子ども達が心を一つにし
『使命』を持って集まりました。「日本の未来」「世界の平和」のため、
東日本大震災が私達に投げかけたメッセージとは何か。大人たちは何を学ぶべきか。
をプロの俳優やミュージシャンと共に、子ども達の目線で鋭く訴えます。
≪ここまで≫
チャリティー公演なので奮発してS席5000円を購入。開場中、受付にはチケット予約者の長蛇の列ができており、さまざまな不手際もあって、当日券受付に並び直しました。すぐに差し出された前売券と同額の当日券を買ったところ、舞台にごく近い前方とはいえスピーカーの目の前の下手端の席・・・(涙)。他にも空席はあるのに、なぜこんな席を先に売るのかなぁ等々、開演前に気持ちが萎えてしまったのですが、なんとか気を取り直して観劇しました。
被災地の子供たちの言葉は実体験そのものなので、あらがいようのない説得力がありました。あさか開成高校演劇部の生徒は6人出演されていて、先日の小劇場での公演に引けと取らない堂々とした演技をされていました。出番も多くてびっくり。高校演劇経験者は大きなステージに慣れているのかなぁ~などと考えつつ、感心しました。
第二部のアフリカの医療、少年兵問題を採り上げる場面は本格ミュージカルらしい完成度があって、作品としてじっくり鑑賞できました。
まあ、予想はしていましたが“啓蒙目的のミュージカル”は苦手なので、入って行けない時は気持ちをそらすようにしました。「なぜ気づかないの?!」と叫ばれても・・・。少なくともこの会に集まった観客は、気づいてる方の人が多いんじゃないのかしら。
ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。
【第一部】
劇場が暗くなるなり、ゴゴゴ・・・という低い音と爆発音で開幕。この時点で私とはセンスが合わないと思いました。チェルノブイリ原発事故の被害者たちが、歌と演技で「放射能は何年も先に私たちを襲う」と激しく訴えます。そして福島の子供たちが出て来る演出でした。
あさか開成高校の今野健太さんが長袖長ズボンに、N95マスク、ゴーグル、ニット帽をかぶって登場し、「これが僕の通学スタイルです。笑われても、やめない。だって目に見えなくても、におわなくても、放射能はここにあるから」と述べました。「学校の風景も空の色も変わらないけれど、設置された線量計はいつも振り切れている」「私たちの体は時限爆弾を抱えてしまったのかもしれない。でもその時限爆弾の時間を遅らせることはできるんです」など、10代の子供たちが語りかけます。死が予想よりも早く訪れるかもしれないと覚悟した、いえ、無理やりその覚悟を強いられた子供たちの堂々とした姿、言葉は、硬い岩のような重量感を持って、ずしりと届きました。首都圏に放射性物質が到着した昨年3月15日、私は外にいましたから、他人事ではありません。
映画「アレクセイと泉」についても語られました。ベラルーシのある村に、チェルノブイリの放射能に汚染されない湧水があり、今もそこに人が住み続けているそうです。
「私は福島で生まれ、育ち、福島で子供を生み、育て、福島で眠りにつく」と憂いを含んだ知的な笑顔で、ゆるがない存在感でもって語られたのは香西佳奈子さん。凛として美しくて目が釘付けになりました。先日のお芝居での、今野さんとの2人の場面も素晴らしかったんです。
宮城県の気仙沼の子供たちと四国の徳島県の子供たちが、昨年夏に合同ミュージカルを発表したそうで、その紹介がありました。作品は苦手なタイプでしたが、遠く離れた地域に暮らす子供たちが一緒に舞台をつくって、交流したことには大きな意味があったのだろうと思いました。
岩手県の大船渡の少年が「なぜ今、首相を交代してるんだ!政府は何もしてくれなかった!」と怒りの声を上げました。私もそのように感じてはいましたが、実際に津波の被害に遭われた方の、生の、本気の言葉を受け取って、怒りの核の部分を体で感じることができました。私にできることは何か。まずは正しいと信じられる情報を入手し、声を上げることだと思います。
【第二部】
100ウォンで自分の娘(幼女)を売ろうとする父親の話。そしてタイで起きた水害のこと。「同じ肌の色なのに、こんなに近くの国なのに、同じアジア人なのに、なぜ無視するの?!」と、子供たちに言わせるのはおかしいと思いました。肌の色や国の地理的近さ、人種などは関係ありません。
続いてアフリカの難民、医療、少年兵について、わかりやすくドラマティックに伝えるミュージカルが上演されました。非道な反政府軍を演じる大人の男性の演技が生半可なものではなく、本当に恐ろしいと思わせてくれたので、彼らに襲われ虐待される子供たちにも感情移入できました。
一部の人間が富を搾取し、全てを奪われた人々が難民になり、赤ん坊は飢餓と病気で長くは生きられず、少年・少女は反政府軍に拉致・誘拐され、洗脳されて前線の兵士にされます。強姦されて子供が生まれ、2人の子育てをしながらも人殺しをさせられ続けた少女マリア(三宅文子)、両親と妹を自らの手で銃殺させられた少年ポール(今野健太)のエピソードなど、実話であることをにわかには信じられないほど悲惨なものでした。
アフリカのミュージカルの後はソロ・コンサートのように1曲ずつ聴かせて、やがてフィナーレ。「希望の種をまこう」「夢をあきらめずに」的な、おおざっぱなセリフや歌詞には閉口せざるを得ませんでした。ジョン・レノンの「イマジン」は名曲ですが、安易に使わない方がいいと思います。偏見かもしれませんが、ミュージカルによくある、観客を無理やり引き込む祝祭ムードも苦手でした。
フィナーレ直前に男性デュオ“涼風”の演奏がありました。いわば犬猿の仲だったミュージシャンのお2人が「自分たちが対立していても仕方がない、むしろ協力しよう」とデュオを結成し、避難所ツアーを経て現在は仮設住宅ツアーなども行っているそうです。舞台に向かって左側の門馬よし彦さんが、「負けていられない、とみんな思ってる」とおっしゃいました。2人の男性によるギターの弾き語りで、曲目は「願い」。最初の歌詞が(正確かどうかわかりませんが)「夢だったらいいのにと思って、毎晩目を閉じるよ」でした。私が泣いても仕方がないのですが、どうしても涙がこらえられませんでした。
門馬さんご自身も市営の仮設住宅にお住まいです。門馬さんは原発で働いた経験があり、お父様はもともとの職場だった福島第二原発で今も働いてらっしゃいます。
門馬「一番注目して欲しいのは、現場の人たちだと思います、僕は。」
CARE WAVE AID Vol.4
出演(子供):福島県あさか開成高校演劇部(香西佳奈子、富永直樹、今野健太、鹿又由菜、坂路心、成山絵里香)、岩手県大船渡高校演劇部(佐藤夢乃、泉田あずさ、三浦昴)、宮城県気仙沼演劇塾『うを座』(白幡真菜加、千葉杏奈、阿部絵梨香、畠山沙樹、畠山光穂、畠山芽依、畠山友依、鈴木沙耶、鈴木隆斗、斎藤芽衣、鈴木麻優、鈴木菜々)、徳島県阿南市民劇団『夢創』(仁木萠々香、伊藤心、伊藤碧、久保脇真子、三村拓海、田中風花、豊栖麻鈴、神崎麻衣、松﨑瑞貴、三村悠莉、片山怜菜)
出演(大人):KAZZ(三ツ星キッチン)、高橋和久、惠須川ひろし、岡田雄一、山本悠生、森雄基、佐藤靖朗、木村雅彦、篠原辰也、山本真嗣、村松直浩、小島久人、阿川雄輔、西村壮悟、馬場礼可、五東由衣、井科瑠美、美咲歩、磯貝麗奈、三宅文子、富田裕子、二木咲子、中山理沙、吉井宇希、佐藤志穂、星かおる、妹尾里映子、三原理佐、矢吹周子、中井奈々子、清水由希、町島智子、二本松広子、関根佐和子、窪田春加、竹崎梢、高井渚沙、小林あい子、小松真美、田川光希、小野寺詩織、杉原由梨乃、吉田・ファティマ・愛樹
ゲスト:相川七瀬、涼風(浪江町出身バンド)、
ミュージシャン:JEYSKE(キーボード)、ウスマン・ジェジュ(パーカッション)、辺見康孝(バイオリン) 三間早苗(チェロ)、入吉玲羽(キーボード)
演出:鎌田眞由美 舞台美術:朝倉摂 照明:服部基 作曲:玉麻尚一 衣装:西原梨恵 音響:秀島正一 舞台監督:佐藤卓三 チラシデザイン:本田雅也 Webデザイン:福田圭介 プログラムデザイン:片山毅 撮影:井島健至
【発売日】2012/02/17 S席 5,000円 A席 4,000円 B席 3,000円 学生チケット2,500円(高校生以下全席共通) 特別寄付チケット 10,000円【特典】S席でお席をご用意しています。終演後キャストとの懇親会。パンフレット贈呈
http://cgi.geocities.jp/carewavejapan/stage/cwa4/cwa4.php
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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