子供鉅人は、益山貴司さんが作・演出・出演される大阪の劇団です。劇団の拠点であるポコペンという名前の長屋に伺いました。
「CoRich舞台芸術まつり!2012春」審査員として拝見しました(⇒110本中の10本に選出 ⇒応募内容)。※レビューはCoRich舞台芸術!に書きます。下記にも転載しました。
⇒CoRich舞台芸術!『キッチンドライブ』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
愛にかまけて愛をなまけてしまった二人の住む小さな家。
男と女は幸せだった頃があまりにも昔のように思えて、
茫然とした生活を送っていた。
男が仕事をクビになり、女が花を活けるのをやめた時、
キッチンからパーティを始める見知らぬ人々の声が響き渡る...。
他人の家々のキッチンを渡り歩いて生きる「キッチン・ドライバー」たちが
巻き起こす不条理な出来事にひきずられながら、
愛の行方を追う男と女の物語。
≪ここまで≫
■古屋の空間を知り尽くした、欲深でやんちゃな演出
会場は築100年以上の長屋でした。作・演出の益山貴司さんのお住まいでもあり、普段はカフェ・バーとしての営業もされています。益山さんが使い慣れた、知り尽くした空間なんですね。
『キッチンドライブ』では、台所と、玄関に面した踊り場の2つを舞台として使用していました。描かれるのは倦怠期の若い男女と、見知らぬ客人たちとの不思議などんちゃん騒ぎ。限定20人の観客は、壁で仕切られた2つの部屋を至近距離から覗くように鑑賞します。
2階へと続く今にも壊れそうな木造の階段を、男性が全力疾走で駆け上がると、階段が大きく音を立てて軋み、本当の意味で生々しくスリリングでした(笑)。台所で所狭しと激しく踊る場面で、陶器の割れた音が響いた時もドキッとしました。破片を踏んで役者さんが怪我をしないかと心配になったのですが、舞台からドバドバと溢れて、飛び出てしまいそうなほど勢いのある演技に引き込まれ、ハラハラしながらも目が離せませんでした。
ずっと台所にいる聡里役のキキ花香さんがとてもエロティックで、関西の女性ならではの大らかでしっとりした色気を感じました。シャツの首周りがよれっとしてるのもセクシー。無論、○○○エプロンは私にもツボでした(笑)。
ここからネタバレします。
33歳無職の雄介とその恋人で21歳のフリーターの聡里が暮らす古い、古い日本家屋。同棲して3年になる2人の貧しい生活は曲がり角を迎えていた。言い訳ばかりして働こうとしない雄介に、聡里は愛想を尽かしかけていたのだ。そこに突然4人の招かれざる客が訪れる。2人だけの狭い世界が乱暴に、でも広く明るく開かれて、未来に希望が持てなくなっていた2人に、ある変化が訪れる…。
おかまのリリーと芸術家のサリーは留守宅の台所を狙って食べ物を盗む“キッチン・ドライバー”。2人が初めて登場する時にしばらく完全暗転し、本当の真っ暗闇になったのは特別な体験でした。路地の奥にある長屋で電気を全て消すと、あんなに何も見えない、静かな暗闇になるんですね。その闇と静寂を破るようにカメラのフラッシュが光るのはお見事。
他人の家の押し入れに勝手に入って高校受験の勉強をする30代のケンゴと、ケンゴを追いかけまわす恋人の大河内もまた、存分に暴れまわって聡里と雄介を翻弄します。2人ともが強烈なキャラクターで、特に1人で勝手にまくしたてるようにしゃべり続け、延々と自己完結する大河内の強引さ、滑稽さには圧倒されました。
壁を隔てた2つの部屋での同時多発会話や、騒然とした台所と静かな踊り場の対比など、舞台空間の絵づくりが巧妙です。リリー役の益山寛司さんが、台所を破壊することも厭わないほどの勢いで、大いに踊って暴れる様は痛快でした。俳優の身体のみで生み出すスリリングで迫力のあるライブ・パフォーマンスとして十分に魅力的でした。
リリーたちが嵐のように去った後、聡里はふらりと冷蔵庫の裏側に行き、そのまま消えてしまいます。聡里はリリーたちを追って家を出て行ったのか、この物語自体が雄介の幻想だったのか(最初から聡里は居なかった)、さまざまな解釈が可能です。玄関の戸が開く音がしなかったので、私は「家を出て行った」という可能性は低いと思います。「人間が消えた」という現実では起こり得ない、不可思議な怪奇現象ともいえる事件を起こすことで、観客に時空の広がり、深まりを体感させる効果があったと思います。
蛇足ですが、物語の外枠が深田晃司監督の映画「歓待」と似ていると思いました。でも聡里が消えてしまうのは、「歓待」とは随分と異なる結末ですね。
「CoRich舞台芸術まつり!2012春」最終選考作品
【出演】聡里(雄介と同居):キキ花香、雄介(聡里と同居):影山徹、リリー(背が高いオカマ):益山寛司、サリー(カメラ所持の芸術家):BAB、大河内(ケンゴの彼女):小中太、ケンゴ(高校受験):益山貴司
脚本・演出:益山貴司 制作:佐々木瑞穂 鳥井由美子 中西由佳 こどちゃ:ミネユキ 写真・web・宣伝美術:橋本大和 デザイン:河村真由美 さくらの
前半:2,000円(1D付) 後半:2,500円(1D付) リピーター割:半券提示で500円引き W割:2作品ご覧いただくと1000円引き(予約時にお伝えください)
http://www.kodomokyojin.com/
http://kodomokyojin.com/stage201203/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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