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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2012年04月17日

シス・カンパニー『ガラスの動物園』03/10-04/03 Bunkamuraシアターコクーン

 長塚圭史さんがテネシー・ウィリアムズ作『ガラスの動物園』を演出されます(過去レビュー⇒)。上演時間は約3時間(途中休憩1回を含む)。当日パンフレットが700円とお手軽価格なのはありがたいです。

 ダンサーを起用した場面転換の演出や、大道具の配置変えがすっごく面白かった!舞台装置(二村周作)が素晴らしかったですね。でもあの小さな家に集まる4人の人物像が、私の期待していた感じと違っていたのはちょっと残念。4人の俳優さんの相性の問題なのかな~などと想像しました。

 ⇒「どらく Do楽 ~ひとインタビュー 長塚圭史
 ⇒CoRich舞台芸術!『ガラスの動物園

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 大恐慌の嵐が吹き荒れた1930年代のセントルイス。その路地裏のアパートにつましく暮らす3人家族がいた。
 母アマンダ(立石凉子)は、過去の華やかりし思い出に生き、子供たちの将来にも現実離れした期待を抱いている。
 姉ローラ(深津絵里)は極度に内気で、ガラス細工の動物たちと父が残した擦り切れたレコードが心の拠り所だ。
 父親不在の生活を支える文学青年の息子トム(瑛太)は、そんな母親と姉への愛憎と、やりきれない現実への閉塞感の 狭間で、いずれ外の世界に飛び出すことを夢見ている。
 ある日、母の言いつけで、トムが会社の同僚ジム(鈴木浩介)をローラに会わせるために夕食に招待する。
 この別世界からの訪問者によって、惨めだった家族にも、つかの間の華やぎがもたらされたかのようだったが……。
 ≪ここまで≫

 公演終了していますので、ちょっとネタバレします

 舞台は白くて高い壁と天井に囲まれた、だだっぴろい空間。左右に並ぶいくつかのドアがぴたりと閉じられていて、広いけれど閉塞感があります。一番奥の壁には比較的大きな窓があり、その窓に向かって古びたデスクとイスが置かれています。

 「追憶の芝居」であることをあらわす演出がすごく面白かったです。たとえばアマンダとローラの会話を、そこに居るはずのないトムが見つめてたり、家具類を動かすダンサーとトムがアイコンタクトを取ったり、原作には書かれていない(であろう)ことが次々と起こりました。

 意外で鮮烈だったのは、やはりダンサーの衣裳ですね。ひとことで言うと宇宙人みたいな(笑)。色は壁と同化するように汚しが入った白色(灰色?)で、手足は覆わず、お尻の形がブルマみたいに丸くぴったりとしています。首から目の下までを覆う立体的な襟のデザインが独特です。手足を除いた衣裳全体の形は、陶器のお醤油さしのような…。私の想像の範ちゅうに収まらない姿をした奇妙な生き物が、コミカルかつ不気味な動きで、切なさも匂わせながら、上手に家具を動かしていました。

 4人の役者さんは、残念ながら皆さんそれぞれが独自の演技方法でバラバラに存在しており、ぶつかって離れることはあっても、触れたり刺さったり、混じり合ったりしてくれなかったように感じました。一定の距離を保って、離れた関係のままで終わってしまったような。『ガラスの動物園』という作品では、ねっとり、ぐっさりと刺さって交ざって、うねって飛び散って、でも再びもとのさやに戻ったり…といった複雑怪奇な家族間のコミュニケーションを観たいと私は思うので、そういう意味では不満でしたね。

 “ダンサー”という演出は奇抜で面白いですが、『ガラスの動物園』という戯曲に必要だったかというと…どうなんでしょうか、私は迷いなく「YES」とは言えないかな~。でも3時間という長さを感じさせなかったのは、ダンサーによる場面転換のおかげだと思います。長塚圭史さんは、何かしらのチャレンジというか、思いもよらないようなアイデアを実行されるところが、目の離せない演出家だと思います。

 ここからネタバレします。

 トム役の瑛太さんが登場してから最初のセリフまでの時間が長く取られていて、ダンサーが壁からぬるりと出てきた時は戦慄しました。気持ち悪~い、怖~い、でも面白い!
 場面ごとに(もしくは演技中に)イスや机、ソファの位置を変え、部屋の形を敢えて定めないことで、“夢”、“思い出”といった不確かな印象で作品をパッケージしていくようでした。トムと母アマンダが2人で話す場面で(たしか場所はベランダ?)、家具が舞台面側に一列に並んだのがとても美しかったです。長塚さんの演出作品はやはり見逃したくないと思いますね。

 役者さんの演技については、私の期待していたものと違いました。『ガラス~』なのに非常に軽いタッチと言うか、さらりと表面をすくったような印象を受けました。長塚さんは「今の日本で、今の日本の観客に向けてアメリカの古典を上演すること」を重要視されたのかもしれません。

 深津絵理さんは第一声でギョっとしました。なぜこんなに作為的な発語方法を選んだのかしら…とずっと疑問に感じたまま最後まで。ローラは片足が少し不自由で過剰な引っ込み思案ではありますが、あんなにあからさまに醜くゆっくり話し続けなくてもいいんじゃないかと思いました。瑛太さんは柔軟で瞬発力があり、華もあり、目に耳に麗しい存在でした。でも家族に見えなかったんですよね。ぶつかるけど交わらないで、ふらりふらりとかわしてしまう(それが現代日本なのかもしれません)。
 鈴木浩介さん演じるジムはまるで「自己啓発セミナーに通って新しい自分を発見した!」みたいな、ちょっと痛いキャラでした。ローラとジムの2人の場面では意外なタイミングで笑いが起こり、私としては「戯曲の流れからすると、そこは笑うところじゃないのに」とがっかりすることも。立石凉子さんは自由に、色んな振れ幅で恐ろしい母親アマンダを演じてらして、その奔放な存在感がアマンダに重なって見えるのも良かったです。ただ、家族を捨てた夫のことを何度も語るわりには、その男性の姿があまり浮かばなかったんですよね。もしかすると本当は夫は存在しないんじゃないか、アマンダの夢想なのではないかと思うほどでした。

 アマンダは何年経っても夫を恨んで、その呪縛から逃れられていないし、ローラは父親の残したレコードをかけるのが日課だし、最後にジムは父親と同じように家族を捨て、「父と同じになってしまった」という意味のセリフを語ります。この戯曲は登場しない父親が、全編を覆うように存在していると解釈してもいいぐらいだと思うんですよね。なのに父親の影が感じ取れず物足りなかったです。
 でも、もしかしたらそれが演出意図なのかもしれません。人間が家族というシステムに縛られてるのは昔から変わりませんが、家族内の関係性、距離感などは変わっています。長塚さんは『ガラス~』の登場人物を現代日本人にしたのかな、とも思いました。

 ローラの一番のお気に入りだったガラスのユニコーン人形は、ジムとローラがダンスをしていた時に机から落ちて割れてしまいます。角の部分が取れて、普通の馬になってしまったユニコーン。そこで私ははっきりと、作者ウィリアムズの姉のロボトミー手術を思い出しました。折れた角は切除された脳の一部というわけです。とてもロマンティックな場面なのに、こんなに冷静に分析できてしまって少し残念だったのですが、今まで気づいていなかった重要な要素を発見できて良かったです。

SIS Company "The Glass Menagerie" by Tennessee Williams
【出演】アマンダ・ウィングフィールド:立石凉子 ローラ・ウィングフィールド:深津絵里 トム・ウィングフィールド:瑛太 ジム・オコーナー:鈴木浩介 【ダンサー(プロジェクト大山)】境真理恵 長谷川風立子 松岡綾葉 三浦舞子 三輪亜希子 菅彩夏 政岡出衣子 松井萌香
作:テネシー・ウィリアムズ 演出:長塚圭史 翻訳:徐賀世子 美術:二村周作 照明:小川幾雄 衣裳デザイン:伊藤佐智子 音響:加藤温 ヘアメイクデザイン:勇見勝彦 振付:古家優里 舞台監督:瀧原寿子 演出助手:坂本聖子 プロデューサー:北村明子 提携:Bunkamura 企画・製作:シス・カンパニー
【休演日】3/14,21,28【発売日】2012/01/14 S席9,000円、A席7,000円、コクーンシート5,000円
http://www.siscompany.com/03produce/37glass/index.htm


※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2012年04月17日 00:49 | TrackBack (0)