TPTがアレクシ・ケイ・キャンベル作『プライド』を日本初演しました。2008年初演の同戯曲で、キャンベルさんはイギリス演劇批評家協会賞の新人劇作家賞を受賞し、作品はローレンス・オリヴィエ賞を受賞されたそうです。演出は小川絵梨子さん(過去レビュー⇒1、2)。
1958年と2008年を行ったり来たりする四人芝居で、各場面の会話劇の密度が高く、ずっしりとした上品な味わいでした。ストレートプレイを堪能。
⇒TPT公式ブログ「『プライド』について」
⇒CoRich舞台芸術!『プライド』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
教えてよ。あれってデモンストレーション、セレブレーション、それともファッションショー?
1958年、フィリップはシルヴィアと結婚していたが、オリヴァーと恋に落ちた。2008年、オリヴァーは男漁りをやめられず、パートナーのフィリップは家を出た。2人の親友シルヴィアは彼らをゲイ・プライドに誘った。
社会の大きな変化をはさんだ2つの時代の2つのラブストーリー。セクシュアル・アイデンティティと資本主義の危険な関係。ありのままの自分とはなにか? 幸せとはなにか? 愛するとはどういうことか? 欲望、消費、セックス、裏切り、孤独、愛する勇気。眠れぬ過去から、目覚めた未来から届く声。
≪ここまで≫
馬渕英俚可さんの1958年とシルヴィアと2008年のシルヴィアの演じ分けが鮮やかでした。くるりと変身するかのごとく。
谷田歩さんが雇われてコスチュームプレイをする役者や、編集者、医師など、メイン3人の外側にいる人物らを演じ、他者、異物、世間といったものを象徴する役割を果たされていたように思いました。
ここからネタバレします。
フィリップ(須賀貴匡)はシルヴィア(馬渕英俚可)という妻がいるけれど、彼女の仕事仲間の男性オリヴァー(山口馬木也)と恋に落ち肉体関係を持ちます。フィリップとオリヴァーのラブシーンは、じりじりと距離が狭まっていく緊張感にときめきも感じられましたが、最終的にはレイプという最悪の結果を迎えます。その落差が劇的で、苦々しかった。須賀さんの演技がちょっと堅かったですね。怒りの表現が多すぎる気がしました。
1958年という時代にゲイであることは罪、もしくは病気とみなされ、フィリップは病院で過酷な治療を受けてゲイであることをやめようとします。テネシー・ウィリアムズの姉のロボトミー手術を思い出しました。自分で自分の本当の心を殺すことを選ぶなんて、なんというむごい悲劇。
オリヴァーはギリシャに訪れた時の話をよくしていました。たとえばデルフォイの神託についてなど。彼は古代の人々に思いを馳せ、未来へも想像力を広げ、「50年後、500年後には今の自分の気持ちは理解されるだろう」と語ります。
一幕と二幕で装置がガラリと変化したのが素敵。家具を片付けると石造りの空間になり、ギリシャの神殿を思わせます。
2008年ではオリヴァー(山口馬木也)とフィリップ(須賀貴匡)は同棲しているカップルでしたが、オリヴァーの浮気癖に嫌気がさしたフィリップは出て行ってしまいます。2人の共通の友人シルヴィア(馬渕英俚可)が2人を仲直りさせようと、ゲイ・プライド(ゲイのパレード)に誘って引き合わせたところ、2人は徐々に言葉を交わして距離を縮めて行きます。大盛り上がりのゲイ・パレードで、90歳ぐらいと思われる老人カップルが嬉々として踊っていました。それを見つけた2人はほほ笑み合います。
その老人は1958年のオリヴァーだったかもしれません。50年前のあるゲイの思いが、現代に通じたのだと思いました。やがてシルヴィアが女神のような白いロングドレスで登場します。空間がギリシャ時代になり、古代と現在、そして未来が同時に存在するマジカルで感動的なエンディングでした。
TPT81 "PRIDE" by Alexi Kaye Campbell
出演:馬渕英俚可 須賀貴匡 山口馬木也 谷田歩
脚本:アレクシ・ケイ・キャンベル 訳:広田敦郎 演出:小川絵梨子 美術:松岡泉 照明:松本大介 衣裳:桜井麗 音響:藤平美保子 舞台監督:八須賀俊恵
【休演日】2011年12月19日【発売日】2011/10/17 全席指定4,500円 25歳以下&65歳以上(tpt電話予約のみ取扱):3,000円
http://www.tpt.co.jp/aboutus/archive/081.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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