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REVIEW

2012年05月03日

ヤングヴィック劇場・キャサリン・ハンター一人芝居『カフカの猿~フランツ・カフカ「ある学会報告」より~』05/02-06シアタートラム

 『THE BEE』『The Diver』で野田秀樹さんと共演されてきた、英国女優キャサリン・ハンターさんの一人芝居です。キャサリンさんの、ぐにゅっと反り返る腕が美しくて、その手を、ずっとずっと見つめていました。お芝居もとても面白かったです。

 上演時間は約55分。英語上演・日本語字幕付。前売り完売ですがトラムシートは日によって空席あり。今日も立ち見のお客様が数名いらっしゃいました。短いお芝居ですし、立ち見に挑戦も悪くないかと。※毎公演終了後10分の休憩後に30分ほどのトーク開催。

 ⇒CoRich舞台芸術!『カフカの猿

 ≪あらすじ≫
 学会出席者(=観客)の前に、一人の男(?)が登壇した。
 「私がかつて猿であった時代の生活についてご報告申し上げます。」
 ≪ここまで≫

 たった一人の俳優が登場した瞬間からカーテンコールまで、劇場空間全体を掌握する…まずそれが感動的です。役者さんに観てもらいたいな~と思いました。キャサリンさんは背が低いし、体も小さいですが、リア王、リチャード三世、そしてクレオパトラも演じたことがあるそうです。
 ※2004年に菊池凡平さんが演じてらっしゃいました⇒『アカデミーへの報告書

 キャサリンさんは「むかし猿だった男(?)」を演じています。動き方はいかにも動物の猿らしいのですが、言葉が流暢に話せるので人間なんですよね。私は猿でも人間でもない得体のしれない“生き物”として見ていました。それって凄いことだと思います。
 最前列から数列は、ステージと同じ高さの地続きの桟敷席になっており、キャサリンさんがどんどんアドリブで客いじりをします。自然で、自由で、愛嬌があって、最高。
 約1時間、1人で出ずっぱりの話しっぱなし。魅せる動きをするとか、セリフをちゃんと伝えるとか、そんなことは全て朝飯前!な状態まで持って行って、その上で、舞台で遊ぶ。観客とコミュニケーションをする。きっと毎ステージ、新しい挑戦、新しい出会いを楽しんでいらっしゃるのだろうと思います。

 舞台中央に大きな白いパネルがそびえ立っていて、猿の写真が映写されています。その上部に字幕が投影されるのですが、文字が大きくて読みやすいです。パネル上に映るので、「講演に使うスライドの文字」だとも受け取れました。字幕のためだけの字幕ではなく、作品に溶け込む演出になっていたのが良かったです。特に青い照明が当たって、文字が白く浮かび上がるのがきれいでした。

 ここからネタバレします。 セリフ等は正確ではありません。

 キャサリンさんは上手のドアから登場し、いかにも“猿”らしい動きで舞台に上がって頭を下げました。どういう意味なのかな…と思ってたら、3度目でようやく観客が拍手をしだして、私もそこでわかりました。“講演をする前の礼”だったんですね。拍手が起こるまで礼をし続けたキャサリンさん、どういうお気持ちだったのかな(笑)。

 こちらの記事にありますように、ロンドンでは「アフリカから船で強制的に連れ去られた動物たち」=「大航海時代の奴隷貿易」という解釈もあったようです。言われてみれば納得!全く思いつきませんでした。私は捕えられて牢に入れられた猿を、「望んでいない社会に生まれ、残酷なシステムの中に放り込まれた人間」と解釈した…かもしれません。とにかく私は「ピーター=私」と見ていましたね(←いつもの自意識過剰発動)。

 ピーターは猿だった時に人間に酒の飲み方を教えてもらい、苦労の末、ビンごと一気飲みができた時に「Hello」という言葉を初めて発します。「酒と言葉を覚えたら人間だ」というセリフもあったような。講義の最中にたまに胸ポケットから出して飲んでいたのはお酒なのかしら。もしそうならアル中になってるんでしょうね。

 「“自由”が欲しいんじゃない、“出口(wayout)”を求めていたんだ」とピーターは言います。“自由”は肉体があることが前提で、「行きたいところに行ける」「食べたいものが食べられる」といった自由のことかと。対して“出口”は、肉体からの精神の開放かな~と思いました。

 そしてピーターは「孤独だ」とも言います。動物だったら感知しなかっただろうけど、人間になって知恵をつけたから気づいてしまったんでしょうね。すなわち人間(=観客)は一人一人が皆、孤独なんだってことだと思いました。
 猿から人になったという点では、類人猿からヒトになった人類も同じです。ステージから客席が地続きになっているのも、劇場全体が牢獄だとみなせることからも、人間=ピーター(猿)だと解釈できると思います。われわれは皆“出口”を求めて生きている、ということでしょうか。


 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演:野村萬斎 徳永京子

 萬斎さんはロンドンでキャサリンさんのワークショップを受けたことがあるとのこと。キャサリンさんはシアタートラムには3度目のご出演で、ご縁も深いようです。

 徳永さんが「ピーターは最後に非常口から退場しました。非常口とはつまり“出口(wayout)”と読みとれます。シアタートラムはこの作品にぴったりの劇場ですね」というご指摘をされました。なるほどー!たしかに劇場そなえつけの重たいドアから出て行ったので、ばっちりですね。

出演:キャサリン・ハンター
翻案:コリン・ティーバン 演出:ウォルター・マイヤーヨハン 舞台美術:シュテフィ・ワースター 衣裳:リチャード・ハドソン 照明デザイン:マイク・ガニング 音響デザイン:ニコラ・コジャバシア ムーブメント指導:イラン・レイチェル 演出助手:ミア・シール・ハヴ 帽子パフォーマンス指導:ステュワート・ペンバートン ダンス振付:テムジン・ギル 【日本公演カンパニースタッフ】プロダクションマネージャー:ドミニク・ビルキー 舞台技術:ナディーン・ウィートリー 演出助手:ミア・シール・ハヴ カンパニーマネージャー:フランチェスカ・フィニー 
【日本公演スタッフ】字幕翻訳・字幕操作:谷賢一 技術監督:熊谷明人 プロダクションマネージャー:福田順平 プロダクションマネージャー助手:木村光晴 舞台:鈴木章友 照明:三谷恵子 柘植幸久 音響:小笠原康雅 阿部史彦 大道具製作:水森利明(SePT舞台美術) 衣裳:奈須久美子(SePT舞台美術) 技術通訳:松村佐知子 法務アドバイザー:福井建策 北澤尚登(骨董通り法律事務所) 宣伝美術:秋澤一彰 プロデューサー:穂坂智恵子 制作:宇都宮萌 票券:営業:鶴岡智恵子 広報:宮村恵子 [主催]公益財団法人せたがや文化財団 [企画制作]世田谷パブリックシアター
ポストトークゲスト:5/2 出演:野村萬斎 5/3 出演:池内紀 5/4 出演:谷賢一 5/5 昼 出演:西岡智(西岡兄妹) 5/5 夜 出演:ケラリーノ・サンドロヴィッチ 5/6 出演:白井晃
【発売日】2012/03/16 全席指定 一般 5,000円高校生以下 2,500円 U24 2,500円 友の会会員割引 4,500円 友の会会員早割は特別割引4,000円 せたがやアーツカード会員割引 4,700円
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2012/05/post_275.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2012年05月03日 16:26 | TrackBack (0)