京都の劇団MONOの土田英生さんが演劇集団円に新作を書き下ろされました。演出は前回の『初夜と蓮根』(⇒映画化もされています)に続いて内藤裕子さん。『初夜~』を見逃したので、千秋楽に伺いました。
設定は面白いしオチもさすがだな~と思いましたが、全体的に易しくまとめ過ぎに感じました。上演時間は失念。たぶん1時間45分前後だったかと…曖昧です。
⇒CoRich舞台芸術!『胸の谷間に蟻』
≪あらすじ≫ 公式サイトより (役者名)を追加。
小さな服飾工房から急成長を始めたランジェリー専門メーカー『ゴールドシャレード』。
トップにいるのは実直で社員思いの女社長(谷川清美)。
近年は、女子高生を中心に「ゴルシャレ」と呼ばれる大人気ブランドを作りあげ、雑誌にも取り上げられるほどの話題の社長である。
ある日、社長を訪ねて、ひとりの女性が現れる。彼女は、30年前に生き別れになった社長の末の妹(朴璐美)だった。
雑誌を見て、訪ねてきたというのだ。さらに、同じくして生き別れた次女(岸昌代)と当時赤ん坊だった弟(佐藤銀平)まで現れる。
思わぬ再会に、有頂天になる社長。なにを思ったか、全員を会社で働かせると言い出す。反対する社員たち。
いつの間にか三女が会社を仕切り出す始末・・・うまく回っていたはずの会社が徐々に変化して行く。すべてのバランスが崩れ、それに翻弄される社長。業績も下降し、どんどん姉妹の関係も醜さもあらわになって行く。
突然現れ好き勝手を始めた妹、実は密かな復讐を計画していたのだった。果たしてこの会社は、姉妹の関係は、どうなって行くのだろうか?
姉妹って?血のつながりって?ひとつの思い出さえおぼろであいまいな関係・・・
土田英生のきょうだいという血と人間関係の谷間を見つめる、そんなお話。
≪ここまで≫
上演中は大いに笑いが起こっていましたし、カーテンコールも数回あり、その中で千秋楽の役者紹介もあって、とても盛り上がった回だったと思います。
舞台はある人気下着メーカーの会議室兼談話室。“大企業の社長を採り上げる有名雑誌のインタビュー欄に載る”ほど注目を集めている女社長が経営する会社にしては、ちょっと殺風景に感じました。社長の気質を反映して敢えて地味なデザインにしたのかもしれませんが、劇場空間に対して正直に真四角な舞台美術は、状況を説明する親切な書き割りのように見えたり。
もしかするとこのお芝居全体が“上手な説明”の範囲に収まっているように感じたせいかもしれません。「ここ、笑うシーンですよ~」と観客に教えちゃうぐらい親切な演出で、私には過剰だったんですよね。
土田英生さんの戯曲は、突然、ドロっとした悪意が皮をひんむかれたように顔を出すのが好きです。まるで当然のごとく、えらそうにふんぞり返った悪意なら、なお好み(笑)。それが感じたかったです。
長女役の谷川さんが胸元をさわる(かきむしる)動作をする度に、タイトルがふと浮かびます。三女役の朴さんはスタイルの良さがひきたつ衣裳でかっこ良かった~。おっぱいの大きい女優さんがそろっているから思いついた題材なのかな~などと邪推(笑)。
あらすじにある「姉妹って?血のつながりって?」という問いについて、ひとつの回答が示されていたのが良かったです。私個人としては、親子兄弟姉妹、親戚、他人であれ何であれ、自分と他者との関係については、どんな時間をともに過ごしたかが大切だな~と感じます。「血のつながり」はあまり重要視しない方かも。子供も大人も(幼児も含めて)人間は一人ひとりが自立した個人だと思って接したいと考えています。
ここからネタバレします。
下着メーカー創業者である父は計4度結婚し、妻1人につき子供を1人ずつつくりました。最初の妻とよりを戻す際に長女以外の3人の子供を「捨てた」ため、30年の時を経て、三女が次女に声をかけ、長女に復讐することに。末っ子を名乗る男は偽者で、施設に入られられた長男は10歳の時に死亡していました。まずこの設定がかなり残酷ですよね。
三女の策略で、売れそうにない新作下着“梅子”は大量返品され、社内は在庫のダンボール箱で埋まってしまいます。でもズロースとセットにしたらお年寄りに大ヒット。在庫はすべてなくなり、売れ筋の新商品になっていました。“ひょうたんから駒”な結末はいわゆるハッピーエンドとも受け取れるし、非情な世間および経済の姿にも見えます。
三姉妹の対決場面は、真っ白な下着“梅子”ではたき合う肉体バトルでした。かなりの長時間、3人の女優さんがくんずほぐれつ戦ってました。それが落ちついた後に「お茶でも飲もうか」と、父が好きだった紅茶を淹れて飲む…という流れに。このお茶の時間が3人にとって、姉妹として過ごす大切な時間になったのだと思います。
出演:谷川清美、朴璐美【朴ろ美(パク・ロミ。ろは王へんに路)】、岸昌代、馬渡亜樹、吉田久美、池亀未紘、山崎健二、渡辺穣、佐藤銀平 ※平栗あつみが体調不良の為、降板。代役は岸昌代。
脚本:土田英生 演出:内藤裕子 美術:小池れい 照明:佐々木真喜子 音響:穴沢淳 衣裳:Koco 演出助手:小川浩平 舞台監督:田中伸幸 図案:ナミヘイ 制作助手:宮本良太 制作:桐戸英二
【発売日】2012/03/15 全席指定 4500円
http://www.en21.co.jp/munenotanimaniari.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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