岡田利規さんが作・演出されるチェルフィッチュの新作です。早々に前売り完売し、神奈川では2回の追加公演が実施されました。上演時間は約2時間弱。
「今回はフィクション」とのことで、いわゆる物語のあるお芝居なのかなと想像して伺いましたが、物語はあるものの、“いわゆるお芝居”ではありませんでした。
⇒日経新聞劇評「心の不安をドラマ化した実験劇」(内田洋一)※舞台写真あり!
⇒CoRich舞台芸術!『現在地』
≪あらすじ≫
ある村。光る雲を目撃した住民たちが、あれは悪の兆しだと噂する。対して、そんなたわごとは信じないという立場の住民もいる。
≪ここまで≫
架空の村を舞台にしたフィクションで、現実ではありえないほど率直な会話がつぎつぎと交わされていきます。簡潔な言葉に「~~だわ」という、いかにも作りものらしい語尾がつくので、現代口語劇ではありません。この特徴的な口調によって、「フィクション(架空)」であることははっきりします。カジュアルな普段着姿の若い女優さんが舞台上にいますが、日常っぽさは全くなく、観客は物語にのめりこまずに冷静に受け取ることになったと思います。
劇中劇の構造で、多層になっていくのが面白かったです。ある村の話ではあるものの、誰から、いつ見聞きした話なのかは場面ごとに変化します。
シャープで、センスが良くて、全体のグレードが高くて、芯のとおった作品を見せていただけた満足感がありました。ただ演技にもストーリーにも起伏が少ないためか、途中で少々眠くなったりも…無念。
不穏な雲に神経質になっている女性を演じた伊東沙保さんの、じりじり、イライラした女性らしいしぐさ、感情の高まりを努力して抑えたような声の出し方が印象に残りました。
ぶっきらぼうな妹を演じた青柳いづみさんが恐ろしかった~。すごく良かったです。
ここからネタバレします。うろおぼえです。引用文などは正確ではありません。
美術は二村周作さん。テーブルとイスが並ぶ空間。教室のようで、会議室のようで。途中から色が塗られていない(?)柱。奥にそそり立つ大きなパネル上部には四角い穴があいていて、スクリーンにもなって宇宙や空などの映像が映し出されます。
原発および昨年の事故由来の放射能汚染が題材になっているのは明らかです。汚染やそれゆえの健康被害等についての情報(ニュース)を、信じる人、信じない人、その他の人などに分断された今の私たちの気持ちを、登場人物が代弁していきます。でもあくまでも、架空の村のお話なんですよね。
朝日新聞の劇評で徳永京子さんが指摘されていた「自然(神)の視点」「天皇制の隠喩」などに、すごく納得。気づかなかったな~。なぜあのシーンだけ女性3人がテーブルの上に登ったのか、それは神の視点だったのだろうと思います。
殺人シーンの青柳さんにシビれました!殺人後の姉(山崎ルキノ)との会話も怖くて良かったです。殺人シーンなんて、チェルフィッチュの作品では初めてじゃないかしら。『わたしたちは無傷な別人であるのか?』で山縣太一さんが倒れているシーンはありましたが。
最後に客席に照明が当たる演出は、観客の“現在地”を示したのかなと思いました。宇宙だろうが村(地球、日本、神奈川、劇場)だろうが、人は自分が存在する“現在地”を消す(そこから逃げる)ことはできない、そこに居ることを選んだのは自分である…といった意味を受け取りました。
≪公開リハーサル4月13日@グリーンホール相模大野、神奈川、福岡≫
出演:山崎ルキノ 佐々木幸子 伊東沙保 南波圭 安藤真理 青柳いづみ 上村梓
脚本・演出:岡田利規 美術:二村周作 音楽:サンガツ ドラマトゥルグ・演出助手:セバスチャン・ブロイ(快快) 舞台監督:鈴木康郎 照明:大平智己 音響:牛川紀政 映像:山田晋平 舞台監督助手:尾崎聡 映像助手:須藤崇規 宣伝美術:松本弦人 大道具制作:C-COM 録音・ミックス:大城真 美術助手:谷口綾 企画・製作:KAAT神奈川芸術劇場、precog アフタートークゲスト:松井周
【休演日】4/25【発売日】2012/02/18 前売一般 3,500円 当日一般 4,000円 ※ほか各種割引有り(チケットかながわのみの取扱※一般発売日以降・電話予約のみ)
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※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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