劇作家、演出家の谷賢一さん率いる劇団DULL-COLORED POPが、CoRich舞台芸術まつり!最終選考に残ったのは2度目です(⇒1度目)。東京凱旋公演を拝見。上演時間は約1時間40分。
「CoRich舞台芸術まつり!2012春」審査員として拝見しました(⇒110本中の10本に選出 ⇒応募内容)。※レビューはCoRich舞台芸術!に書きます。下記にも転載しました。
⇒CoRich舞台芸術!『くろねこちゃんとベージュねこちゃん』
≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
父が死に、母は見えない猫を飼い始めた。母・よし子、61歳。くろねこちゃんとベージュねこちゃん。煙草の匂いの消えた実家は発泡スチロールみたいに荒涼として、僕は知らない。僕は知らなかった、幽霊みたいな自分たちの正体を。妹と口をきくなんて、一体何年ぶりだっけ?
くろねこちゃん、どこにいるの? ベージュねこちゃん、どこにいるの?
母さんそれ猫ちがう、それ何だ、何だろうこの素敵な世界は!
──人間の最も暗くグロテスクな一面を、あくまでポップに描きたい、僕たちDULL-COLORED POP。東京、新潟、仙台、京都、大阪、広島、また東京。キッチキチに密度の高い長編新作会話劇を引っ提げ、全国6都市7会場、初のツアー公演。家族の輪郭を問い直す、ノラ猫どもの「戦う会話劇」。
≪ここまで≫
公演終了していますので、ここから少しネタバレしています。
■演劇の特性を活かすアグレッシブな演出
開演前の数十分は2人の女優さんが猫耳や尻尾をつけた可愛らしい衣裳でお茶をふるまい、舞台上でお客様との触れ合いタイムが繰り広げられました。最前列に座っていたのですが、私はちょっと入って行きづらかったです。開演時刻になると会場案内をしていた劇団員の方々も舞台上に出てきて、日常から地続きにお芝居が始まる演出になっていました。会場の空気を和ませ、観客が舞台を身近に感じてきたところで、さらにグっと惹きつける巧みなオープニングだったと思います。
父、母、息子、娘の4人家族のお話でした。父が突然事故で亡くなり、一人になった母は家政夫に家事をまかせ、2匹の猫と会話をしています。母役を男性が演じるので、さっきまでお茶を淹れていた女優さんが猫役を演じても、無理なくファンタジーとして受け入れることができました。
葬儀のために帰ってきた息子と娘には猫の姿は見えません。幻想の猫と堂々と話をして、家政婦に対する態度がコロコロと豹変する母は精神を病んでいるようにも見えるのですが、猫たちが元気に軽快なムードを作るので過度な深刻さは生まれません。娯楽性を重視する演出が成功していたと思います。
亡くなった父も登場する回想シーンでは、猫たちが当時の母を演じ、その回想を母が外から見守る構造でした。ひねりが入った劇中劇で虚構性が増し、家庭内の確執を暴く痛々しい場面でも、冷静に観察できたのが良かったです。
以上のような工夫をこらした演出は刺激的でしたが、谷さんの作品をほぼ10年観てきた者としては、戯曲に物足りなさを感じました。いわばステレオタイプな家族の物語で、私の想像力の及ばない境地へと連れて行ってくれなかったのが残念です。役者さんの演技がおぼつかなくて、私にとっては正視に堪えない場面もありました。私が谷さんの実績と比較してしまうせいなのでしょうが、1人を除き出演者を劇団員だけにしたことで、演技力の未熟さが表面化したようにも思います。
カラフルな照明で空間を派手に、賑やかにしていたのが良かったです。ただ、ある部分だけを照らして空間を分けるような効果も、もっとあっても良かったのではないかと思いました。日本語の歌詞の曲が流れていましたが、邪魔にならずポップなムードになっていたのが個性的で楽しめました。でも音楽が特に印象に残ったこと自体は、作品全体として良かったのかどうか悩むところです。
ここからネタバレします。
多地域ツアー用と思われる身軽そうな舞台美術でしたが、貧相すぎないのが良かったです。折り畳み式ダイニングセットの周囲に、雑誌の紙を撒き散らして演技スペースをつくる演出もいいですね。開演前にタイトルの『くろねこちゃんとベージュねこちゃん』の文字が天井から吊り下がっていたのは、長塚圭史さん演出のミュージカル『十一ぴきのネコ』へのオマージュかしら。可愛らしかったです。
父は税理士でしたが本当は税理士の仕事が嫌いでした。引退したいと言い出した父を母は拒絶。“税理士の妻”という地位に、母はまだまだしがみついていたかったのです。母は息子が演劇を続けることに反対で、一方的に「税理士になれ、父の事務所を継げ」とうるさく言い続けていました。対して受験生の娘には「女なんだから大学に受からなくてもいい。自分のような専業主婦の人生でも幸せなのだ」と、勉強の邪魔をします。言い争いの末には「(あなたは)自分のことばっかり考えて!(ひどい)」と、自分を棚に上げて怒ってしまう、わがままで高圧的な母親でした。見てて本当にイライラしますね(笑)。
遺言書が見つかり、父は伴侶であったはずの母に遺産を残さないほど恨みを持っていたことがわかります。きれいごとで済ませない展開がいいですね。現実はこんなものだと思いますし、家族の話にはこれぐらいの毒があって欲しいです。
でも、この4人家族が“普通の生活”を送ることができていたのは、家事全般を当然のごとく引き受けてきた母のおかげです。大学を中退し結婚後も演劇を続けている息子は、父の遺言書をねつ造して、まるで歌舞伎の「勧進帳」のように、母が悲しまない内容に新創作して読みあげました。真実がいつも正しいわけではないと判断し、嘘(フィクション)の力で人間を救う名場面でした。息子が芸術を志す者として立派な態度を示したことを嬉しく思いました。
父を演じた塚越健一さんの演技が良かったです。長年ギュっと本音を押し込めてきた寡黙なたたずまいに説得力がありました。
≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
出演:谷賢一 詩森ろば(風琴工房)
谷さんのご家族がモデルになっているようでした。父、母、兄、妹の4人家族というのは、谷さんの家族構成と同じなんですね。谷さんがおっしゃるには「一緒ではないけど似ている」とのこと。
質問「なぜ家政夫がいるのか。誰が雇ったのか。」
谷「家政夫を雇ったのは母自身。おそらく父が事故に遭って、やがてお通夜、お葬式と大忙しになる際に、自分では家事ができないと判断して雇ったのだろう。ココス仲間のお友達に相談したのだろう。でも兄がやとったというエピソードも以前の脚本ではあった。」
谷「兄は稼げていない。奥さんがひとりで稼いでいる。彼女はいわゆる総合職。」
谷「父の本当の遺言の内容は、母への恨みごとと、家を2人の子供に残すというものだったのだろう。つまり母には遺産を残さなかった。」
DULL-COLORED POP vol.11 「第2回 芸術のミナト☆新潟演劇祭」参加作品
≪東京、新潟、宮城、京都、大阪、広島、東京≫
「CoRich舞台芸術まつり!2012春」最終選考作品
出演:東谷英人、大原研二、塚越健一、なかむら凛、堀奈津美、百花亜希、若林えり(以上DULL-COLOREDPOP)、佐野功
脚本・演出:谷賢一(DULL-COLORED POP) 演出助手:元田暁子(DULL-COLORED POP) 照明:松本大介 美術協力:土岐研一 宣伝美術:山下浩介 宣伝写真:堀奈津美(*rism/DULL-COLORED POP) 制作:鮫島あゆ&グラマラスキャッツ
前売り 2,500円 当日 3,000円 学生 1,500円(前売りのみ取り扱い/受付にて要学生証提示) プレビュー 前売り・当日ともに500円引き ☆DCPOPはじめて割…劇団初見のお客様は一律500円割引!
http://www.dcpop.org/stage/next.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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