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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2012年06月19日

劇団青年座『THAT FACE~その顔』06/14-24青年座劇場

 『THAT FACE』は2007年ロンドン初演のお芝居で、英国の若手女流劇作家ポリー・ステナムさんの処女作です。なんと19歳の時に書かれたとか。本邦初演。

 海外のストレート・プレイでキャストも手堅そうなので、期待して伺いました。面白かったです。上演時間は約2時間10分、休憩なし。

 ⇒げきぴあ劇団青年座(舞台写真あり)
 ⇒翻訳家である小田島恒志さん、小田島則子さんのメッセージ(
 ⇒おけぴ稽古場レポ&インタビュー
 ⇒CoRich舞台芸術!『THAT FACE~その顔

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 舞台は現代、ロンドンのアパート
 酒とクスリに依存している母・マーサ(那須佐代子)
 高校を中退した兄・ヘンリー(宇宙)
 全寮制の学校に通う妹・ミア(尾身美詞)
 家族を捨て、今はお金を送るだけの存在の父・ヒュー(横堀悦夫)
 ミアが学校で事件を起こした
 イジィ(髙橋幸子)と共に下級生アリス(橘あんり)にクスリを大量に飲ませ、意識を失わせたという
 学校から連絡があった父が久しぶりに家に戻ってくる
 距離もココロも離れた家族
 それぞれが見せる「その顔」とは…
 ≪ここまで≫

 真っ白な壁三面に囲まれた空間。中央より少し左側に、お盆に載せられた黒かこげ茶色(紺色?)の部屋の装置があり、ゆっくり回って場面転換します。シャープだけれど壁紙が凝った模様だったり、家具や小道具が具象なので、シンプル過ぎないスタイリッシュな美術でした。上手の壁にある2つの出入り口が、抽象的な意味も含めて使われていたのが良かったですね(奥の壁にも1つ出入り口あり)。

 アル中の母を演じた那須佐代子さん。どんなに暴れても乱れても、きゃしゃで可憐なところが残ってるのが、那須さんの持ち味というか、美しさなんだろうなと思いました。
 母親を支える息子役の宇宙(たかおき)さんはいつもながら柔軟で、作品の中心を担うのに不足ない鮮やかな存在感。
 後から登場する父役の横堀悦夫さん。出てきた途端、楽しくなっちゃいました。立ち姿や言葉のはしばしから、父の人となりがバシ!っと伝わってくるので、にやにやしてしまいました。

 ここからネタバレします。

 父が他の女性(アジア系)と浮気をして離婚し、その後アル中になってしまった母の面倒は、息子がずっと見てきました。娘は私立の名門女子校の寮に入れられています。父が金を十分に送らなかったため息子は1年半前に学校を辞めざるを得ず、以来、母と2人っきりのひきこもり生活をしていたことがわかるのは、家族4人が揃う終盤になってから。息子の怒りが爆発し、5年間の厚みが重苦しさとともに伝わってきたのが良かったです。

 父は古い家族を見捨て(父は新しい家族と香港で暮らしているので)、母は娘を毛嫌いして息子だけを溺愛して甘えてきました。その虐待やネグレクトと言えるかもしれない行為が、子供をゆがめているんですよね。かといって息子と娘に非はないかというと、そうでもなくて、やはり自分の人生を大事にしていないので、そのまま子供たち自身にはね返ってきてるんだと思います。

 息子が母を守っているように見せておいて、実は息子こそが母なしでは生きていけない状態になっていたことが最後にわかります。母が自分で病院に行く決心をして自力で家を出て歩きはじめ、何かひとつは解決したような気配が漂いますが、残された息子が母と同じ過呼吸を発症し、終幕。母が病院に片付けられても、今度は息子が母のような病気になってしまうと匂わせた結末だったのだと思います。臭いものに蓋、なんて、不可能なんですよね。

 色んなお芝居を観てきて思うことですが、家族を描く作品だと、問題は“依存”であると思うことが多いです。また、親子の問題ならば、親の方が子供にひどいことをしてる場合が多いようにも思います。子供が親を愛する気持ちは、親にはわからないぐらい大きく深く強いものだと私は思っているので、こういう作品を観る度に、悔しいような腹立たしいような気持ちになります。他人のふり見てわがふり直せ、ですね。勉強勉強。

 後は気になったことを少し。私の席からは回り舞台を回す演出部の方々がよく見えたのが残念。見えてもいいので、何らかの、もっとカッコよく見せるような工夫が欲しかったです。照明は軽々しくペカペカするのはこの戯曲に合ってないんじゃないかなと思いました。説明的な選曲(音響?)もあまり私好みではなかったです。 

出演=那須佐代子、尾身美詞、宇宙(たかおき)、髙橋幸子、横堀悦夫、橘あんり
作=ポリー・ステナム 演出=伊藤大 翻訳=小田島恒志 小田島則子 美術=長田佳代子 照明=宮野和夫 音響=長野朋美 衣裳=半田悦子 舞台監督=安藤太一 製作=小笠原杏緒
【発売日】2012/05/10 一般4,200円 ペアチケット(2枚1組)8,000円 学生(当日学生証を提示)2,500円
http://www.seinenza.com/performance/public/203.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2012年06月19日 22:13 | TrackBack (0)