オスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』を平野啓一郎さんが新訳され、宮本亜門さんが演出。タイトルロールは多部未華子さんです。多部さんは私の2010年No.1女優(⇒参考エントリー)。夏には松尾スズキさん作・演出の『ふくすけ』にも出演されます。舞台出演をぜひ続けていただきたいです。
劇場に入るなり大がかりな美術に期待が高まりました。これでもか!ドーン!ダーン!とビジュアル的に攻めてくる演出で、上演時間が約1時間40分と短く、一気に観られて良かったです。知人4人と帰り道で感想を話し合ったところ、賛否は真っ二つ。私は「賛」の方でした。
新訳の文庫本を買っていたので舞台を観てから読んでみたんですが、半分以上が注釈と解説で、すっごく充実しています。平野さんはここまで調査して翻訳されたんだなと、とてもありがたく思いました。
私も大学時代に岩波文庫版(福田恒存訳)を買い、ビアズリーの挿絵に魅せられた一人でした。あの文庫の影響がとても大きかったんだなと、この舞台でも新訳本でも気づくことができました。
⇒CoRich舞台芸術!『サロメ』
≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
舞台はイェルサレム、ヘロデ王の宮殿。サロメ(多部未華子)は王妃ヘロディアス(麻実れい)の娘で、ユダヤ王ヘロデ(奥田瑛二)は義父。ヘロデはサロメの実の父である兄を殺し、ヘロディアスを妻としていた。
宴の席で、ヘロデ王に見つめられていたサロメがテラスに逃れていくと、その地下の井戸から不気味な声が聞こえてきた。ヘロデ王に幽閉されていた預言者ヨカナーン(成河)の声。サロメは興味を持ち、親衛隊長に命じて、ヨカナーンを井戸から外に出してもらう。
ヨカナーンはヘロディアスの近親婚の罪をとがめるが、サロメの誘いには目もくれず、また、井戸へ戻っていく。
サロメを追って、ヘロデ王、続いてヘロディアスがテラスに出てくると、地下からはヨカナーンの声が聞こえる。
踊って見せよと命ずるヘロデ王。サロメはその代わりにヨカナーンの首を要求する。
≪ここまで≫
シャープなデザインの白い家具が並ぶ白い舞台。天井にはそのステージを映す巨大な鏡が吊り下がっています。舞台中央は居間で、その奥はダイニング。舞台面側はバルコニーで、その直下(地下)には水がたまっている牢があります。牢の周囲は細い通路が丸く囲み、形としては宝塚歌劇の銀橋よう。
置かれている家具も有名なものばかりで、そこにヨージ・ヤマモトの服を着た人々が登場しますから、「かっこいいでしょ」「おしゃれでしょ」という主張が“いかにも”なんですよね。それがちょっとした滑稽さも漂わせて面白かったです。
初日だったせいもあると思いますが、アンサンブルにぎこちなさを感じましたし、セリフを思いっきり間違うメインキャストもいたんですが、最期に向かってサロメの愛にグッと絞られていったのがとても良かったです。私もサロメに対して漠然と「官能的」「ファム・ファタル」といったありきたりなイメージを持っていて、ワイルドが示した究極の(命がけの)恋をわかっていなかったんだなと思いました。
ここからネタバレします。
ヨカナーン(成河)はサロメのことを「呪われた(近親相姦の)娘」としか見ていません。サロメが本気で彼に接しても、ヨカナーンは彼の宗教上の信条にのっとって、彼女を徹底的に無視します。男女の恋愛という1点から見れば、サロメは生まれや地位などをかなぐり捨てて彼が欲しいと告白したのに、ヨカナーンは彼の固定観念から自分を開放することを拒否したと言えます。両想いじゃないけど『ロミオとジュリエット』に似てますよね。
人種、言語、宗教などの違いは戦争の原因でもあり、人と人の間にある最重要と言える障壁です。その壁を無邪気に飛び越え、無心に迫ってくるサロメに対して、ヨカナーンが少し迷いを見せるのが良かったです。
帰り道に友人が指摘したので私もなるほどと思ったんですが、ヘロデ王のことがよくわからなかったですね。彼は何かに追い詰められていて、不安や恐怖を抱いているようでしたが、何だったのか想像できませんでした。不穏な音響と照明は何だったのかな~。でも私はスルーしちゃってましたね、残念。※歴史的背景に関係があるようです。
最後は床を血が覆い、天井の鏡がその赤を映すので、舞台全体が真っ白から真っ赤に変貌。実はチラシのデザインに演出がしっかり示されていたんですね~。ヨカナーンの首を手に入れてからの、多部未華子さんの長い独白が良かったです。
[JAPAN MEETS… ─現代劇の系譜をひもとく─]Ⅴ
出演:多部未華子 成河(ソンハ) 麻実れい 奥田瑛二 山口馬木也 森岡豊 櫻井章喜 植本潤 池下重大 谷田歩 内藤大希 鈴木慎平 平川和宏 水下きよし ヨシダ朝 戸井田稔 水野龍司 春海四方 神太郎 遠山俊也 星智也 漆崎敬介 坂本三成 右門青寿 斉藤直樹 ベータ 西村壮悟 原一登 川口高志 林田航平
脚本:オスカー・ワイルド 翻訳:平野啓一郎 演出:宮本亜門 美術:伊藤雅子 照明:西川園代 音楽:内橋和久 音響:渡邉邦男 ヘアメイク:川端富生 演出助手:山田美紀 舞台監督:瀬崎将孝 衣裳協力:株式会社ヨウジヤマモト 芸術監督:宮田慶子
【発売日】2012/03/17 S席7,350円 A席5,250円 B席3,150円 Z席1,500円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000442_play.html
http://www.nntt.jac.go.jp/play/salome/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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