ごまのはえさんが作・演出・出演される京都の劇団ニットキャップシアターの再演ツアーです。福岡、京都を経て、最終地の東京へ。上演時間は約1時間50分。
昨年4月にザ・スズナリで上演されていたんですね。演劇関係の友人が、昨年観た舞台作品中のNo.1戯曲に選んでいたので観に行きました。面白かったです。日本の創世記と、ある町の誕生を重ね、悠久の時間があらわされていました。
⇒京都公演の舞台写真
⇒CoRich舞台芸術!『ピラカタ・ノート』
≪あらすじ・作品紹介≫ CoRich舞台芸術!より。
病弱な青年が昏睡状態の中で死んだ母を訪ねる夢の話。シャガール好きの少年が、団地の子供たちとなじめずに孤独を深める話。団地のある夫婦と水槽の魚たちの話。いくつもの物語が1995年1月17日に団地で起きたある交通事故の話へと向かい……。
第12回OMS戯曲賞特別賞を受賞した『ヒラカタ・ノート』(2004年)に続く、ヒラカタシリーズの傑作舞台。高度成長のころ生まれた架空の街「ピラカタ」の歴史と今。ごまのはえの出身地、大阪府枚方(ひらかた)市の団地が並ぶ街並みをモチーフに、日本のクニツクリの物語「古事記」を援用して、語り・音・芝居で「ニュータウンの神話」を綴ります。
≪ここまで≫
舞台の床にはプラレールが丸くつながって、レゴの建物も並んで、ちょっとした町のジオラマができています。全体としては少々雑然とした抽象美術。客席はステージをほぼ四方からぐるりと囲む形に設置されています。劇場内の階段や柱のあるスペースもフルに使っていました。
日本の神話のエピソードと、1995年あたりの大阪のとある地域の住民の暮らしぶりを重ねて、夢と現実、あの世とこの世、人間界とそれ以外の生き物(?)の世界も行き来します。役者さんは複数役を演じ、登場しない時は小さな楽器を演奏したり、口や声で効果音を発したり。身体表現も積極的にとりいれた演出でした。汗だくになる激しい動きもあって、カオティックな空気が良かったです。マイクを通した大きすぎる声は苦手でしたが。
笑いのネタも多いですが、全体的には諦念の感が強かったかも。命が生じる瞬間の興奮と、今、自分が生きてる実感と、やがて消滅するであろう人類と…そんな個人的なノスタルジーから遥か遠くにある、宇宙の果ての空虚な何か…まで想像させてくれました。欲を言うと、そういう空虚さと好対照になる刺激や官能、うきうきやワクワク、ドキドキがもっと欲しかったかな~。
ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。
ピラカタとは大阪の枚方(マイカタと書いてヒラカタと読みます)をモデルにした架空の町。大阪で生まれ育った私は、お芝居の冒頭で松下電器と京阪電鉄(=神々・イザナギとイザナミ)がひらかたパークや菊人形を生み出したというくだりに爆笑しちゃいました。「団地」が産み落とされて、そこに暮らすちょっと変わった人たちの日常が、断片的に演じられます。
母が早くに亡くなり、父、兄、妹の3人暮らしの家庭。兄のヤマトタケルはどうやら重度の障がい者で、知能レベルが低く、しゃべることができません。いじめられて竹藪に落ち、タケルは植物人間になってしまうのですが、夢の中では自由に動いてしゃべることができ、ヤマタノオロチを退治したり、イザナミ(ここではタケルの母)を探す旅に出ます。ヤマタノオロチの正体は掃除機で、首1つごとに違う電器メーカーの製品名が付いていました。タケルはもちろん松下製(笑)。
子供を産めない夫婦が、魚を飼っている水槽の中にピラカタの町のジオラマを作ります。舞台の床にも、水槽の中にも小さなピラカタが生まれ、幾層もの入れ子構造になりました。水槽に沈んだ町はアトランティス大陸みたい。劇場空間全体が水槽であると想像させる音の演出(役者さんがぶくぶく…と言う)もありました。
すぐにプロポーズする男と、彼から逃げる女は、実は水槽の中の2匹の魚でした。トラックに轢かれた全身ボロボロになったのに、死なずに歩き続ける女性の歩き方が良かったです。神(尿神さま)を作ろうとした少年のモデルはサカキバラなのかな。
各エピソードがあまりに広々と散らばっていくので、ごまのはえさんが「この芝居、収集つくの?」と言ったのは、ちょうど中盤あたりだったでしょうか。たしかにあの時は不安になりました(笑)。
絶滅種の動物たちとヤマトタケルがあの世で出会って遊んでいるのを眺めて、人類もいずれ絶滅するんだよなぁと、遠い未来のことを自分の身に引き寄せました。夕方の団地にいつも響いていた讃美歌(のような歌)と、「ゴハンよー」と子供たちを呼ぶ母親らの声は幸福の象徴ですね。そう考えると、世界の“たそがれどき”のようなお芝居だったなぁと思います。
第31回公演 ≪福岡、京都、東京≫
出演:門脇俊輔、高原綾子、澤村喜一郎、市川愛里、織田圭祐、藤田かもめ、ごまのはえ
脚本・演出=ごまのはえ 舞台美術=西田聖 照明=葛西健一(GEKKEN staffroom) 音響=三橋琢 衣裳=市川愛里 小道具=織田圭祐 絵=竹内まりの 宣伝美術=大庭佑子 宣伝映像=本郷崇士 制作=高原綾子、澤村喜一郎、藤田かもめ プロデューサー=門脇俊輔 企画・製作・主催=ニットキャップシアター 共催=京都芸術センター(京都公演)
【発売日】2012/05/21 前売=3,000円 当日=3,300円 [学生] 2,500円(前売・当日とも/当日要学生証) [高校生以下] 1,500円(前売・当日とも/当日要学生証)
http://knitcap.jp/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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