東日本大震災からちょうど1年目の2012年3月11日に、アメリカ各地77か所で“SHINSAI Theaters for Japan”というリーディング企画が行われました。震災支援を目的としたチャリティー公演で、朗読されたのは日米劇作家による震災にまつわる19本の短編。
日本劇作家協会が、同企画で上演された戯曲を(必要なものは日本語に訳して)、ほぼそのままにドラマリーディング上演をしたのが『SHINSAI Theaters for Japan in Tokyo』です。第一部、第二部ともに鑑賞しました。上演時間はともに約2時間。些少ながら募金させていただきました。
企画事業部担当の谷賢一さんのブログ⇒1、2
⇒CoRich舞台芸術!『SHINSAI Theaters for Japan in Tokyo』
≪公演概要≫ PLAYNOTEより
SHINSAI Theaters for Japan in Tokyo
2012年、3月、アメリカ。
東日本大震災の報に触れたアメリカの演劇人たちが、互いに声をかけあって立ち上げた、短編戯曲のドラマリーディング企画があったことをご存知ですか?
一人の俳優の呼び掛けから始まったこの企画には、アメリカの著名な劇作家のみならず、坂手洋二、鴻上尚史、平田オリザ、鈴江俊郎、岡田利規など日本の劇作家からも作品が提供されました。
「日本の震災支援の義援金とするため、1日のみ著作権フリー」
とされたこの作品群は、2012年3月11日、ニューヨークの主要劇場から大学の演劇部まで、アメリカ各地70ヶ所を超える場所でリーディング上演され、大きな反響を呼びました。
まったくのボランティアで企画され上演されたこのアメリカからの「絆」に応えるため、提供された日米の劇作家の作品すべてを、日本語でドラマリーディング上演します。
≪ここまで≫
まず「アメリカでこんな企画があったとは…!」と、とても驚きました。しかも77か所も!英語で上演されたものを、ほぼそのまま日本語のリーディングで再現してくださったことに感謝します。ラインアップも出演者も豪華なので、一般発売開始直後に予約しました。
日本、震災というテーマでアメリカ人が何を発想し、何を上演すると決めたのか。そこも興味深かったですし、坂手洋二さんの戯曲を前川知大さんが演出すると、イキウメらしい日常に地続きのSFサスペンス風になるなど、演劇ファンとしてコアな楽しみ方もできました。
第二部の最後にミュージカルの訳・演出をされた青井陽治さんが、「震災チャリティーの企画で祝祭的な作品を上演することに疑問がないわけではない」といったことをおっしゃっていて、やはり演目全てを素直に肯定できるわけではないのだとわかりました。そういうズレもあるのが国際交流なんでしょうね。私自身、共感も疑問もありました。そんな摩擦を感じ取って考える機会になって良かったです。
この公演は被災地の演劇人の支援を目的としており、第一部、第二部ともに、朗読後に岩手と福島の演劇人のお二方(特別講師のくらもちひろゆきさん、大信ペリカンさん)が舞台上でお話をされました。聴き手は坂手洋二さん。
あらためて、「地震が起きて津波が来たのが、たまたま自分の暮らす町だった」「福島第一原発の放射性物質が飛来してきたのが、たまたま自分の家の近くだった」だけなのだと思いました。どこに暮らしていても、演劇をしたい人が演劇を続けられるように、演劇人同士が支え合うのは尊いことだと思います。観客もその仲間に入れていただけることを嬉しく思います。
ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。間違っていたらすみません。
【1】第1部 15:00~
1.『残された人』
作・演出:鴻上尚史
出演:長野里美、三上陽永、鴻上尚史
震災後行方不明の夫を待っている妻。小さな息子にも話しかけるが、来訪者の男性2人にはその姿は見えない。
家族を失ったままになっている人の気持ちを、お芝居を観ることで考える。そういう機会は何度あってもいいと思います。些細な部分なんですが、夫の部下の「海岸近くを回る営業を代わってもらったばっかりに、僕でなく先輩が行方不明になってしまった…。この話は当然、誰にも言ったことないです」というセリフが、どうにもひっかかってしまいました。だったらなぜ初対面の人に言えちゃったのかな。
2.『少数の屈強な人々』
作:ジョン・グワー 訳:小田島恒志 演出:成島秀和
出演:片桐はづき(箱庭円舞曲)、永山智啓(elePHANTMoon)、蓮根わたる、廣瀬友美(こゆび侍)、宮崎雄真
天皇とアメリカ軍の上官(?)が登場。アメリカ人にとって「日本と言えば昭和天皇」なのかと思うと、興味深かったです。透明ビニール傘に赤いセロハン(?)を貼って日本国旗を表現したのはいいアイデアですね。
3.『さようならII』(抜粋)
作:平田オリザ 演出:谷賢一
出演:荒井志郎(青☆組)、川村紗也(劇団競泳水着)
若い女性型ロボットは新しい仕事を依頼される。人間が立ち入られなくなった場所で、死者を弔う詩を詠み続けること。アンドロイドが登場する必然性もあり、今を描いてもいる、とてもいい戯曲だと思いました。アンドロイドが「椰子の実」を朗読し、男性に「それ何?」と訊かれて「島崎藤村です」と答える。泣きそう。「10㎞圏内は俺たちは入れないから、君(アンドロイド)の仲間が連れていくからね」とか。泣く。
演技も演出も丁寧で、1つの演劇作品として味わえました。私は「アンドロイド演劇」のアンドロイド(ジェミノイドとか)を見るのが苦手なので、人間の女性(川村紗也)がアンドロイドを演じていることが、さらに良かった。荒井志郎さんは電話で話すのも、ロボットに話しかけるのも、伸び伸びと自然でした。
4.『子は人の父』
作:フィリップ・カン・ゴタンダ 訳:吉原豊司 演出:土田英生
出演:高阪勝之(男肉 du soleil)
亡くなった父親についての1人語り。舞台奥の白い幕に写真や映像を映してわかりやすくしていましたが、朗読がおぼつかない印象。
5.『北西の風』
作:篠原久美子 演出:関根信一
出演:伊藤めぐみ(青年劇場)、犬塚浩毅、坂東七笑(劇団だるま座)、藤あゆみ(座・コスモス)、山本悠生、吉村直(青年劇場)
福島県の飯舘村の村民の証言集。劇作家の篠原久美子さんは飯舘村に何度も行かれています。この「SHINSAI Theaters for Japan」も、昨年3月11日にアメリカで鑑賞して来られました。
6.『あの頃の私たちの話』
作:リチャード・グリーンバーグ 訳/演出:谷賢一
出演:木下祐子、渡邊亮
登場するのは日本人とアメリカ人のハーフの男性、そして彼の母。日本人の父の故郷が被災したのだ。
台本を載せる譜面台を俳優が移動させて、相手役との距離に変化を出すのが良かったです。
7.『一時帰宅』
作:坂手洋二 演出:前川知大
出演:有川マコト、加茂杏子、川添美和、工藤佑樹丸、西山聖了、猫田直、藤井びん、安井順平
放射線量が高いせいでずっと避難所にいた家族が、「一時帰宅」で長らく留守にしていた我が家に戻る。空き巣に入られていたり、勝手に居候をしていた人物(安井順平)がいたことがわかります。理不尽すぎてやるせない。言葉を失います。
8.『この劇の長さはウラニウムの半減期』
作:スーザン=ロリ・パークス 訳:常田景子 演出:河原その子
出演:新井純、松浦佐知子、山像かおり(文学座)、
3月11日の体験を語る女性3人。どこで地震を感じ、どうやって帰宅したかなど。なぜか決まった動作とともにその体験談を繰り返す。
ト書きも含めて戯曲そのものが仕掛けのような面白い作品でした。
9.『指』
作・演出:瀬戸山美咲
出演:つついきえ、山森信太郎(髭亀鶴)
昨年12月の『日本の問題』で上演された2人芝居を同じキャストで朗読。2人が定位置から動かない朗読だからこそ、クスリと笑えたり、じっくりと風景や動作を想像できて胸がしめつけられたりも。ラストに2人が手を合わせるところは、実際には手を使わずに、表情や体のこわばり方で表現されていて、とても良かったです。そのままじんわりと暗転して終幕するのも。
【2】第2部 18:00~
1.『太平洋序曲』からの2曲 (SHINSAIのための特別脚色版)
作詞/作曲:スティーヴン・ソンドハイム 脚本:ジョン・ワイドマン 訳/演出:青井陽治
出演:東京藝術大学の池田泰基・尾川詩帆・瀧本真己・本多都・松原凛子・川崎龍(ピアノ伴奏)。
「NEXT」には疑問炸裂。「さあ次だ!進め!」とそんなに朗々と歌われても…と思ってしまいました。翻訳のせいなのか、もともとそういう歌詞なのか。
2.『はっさく』(抜粋)
作:石原燃 演出:小笠原響
出演:内田龍磨・木村万里(いずれもPカンパニー)
被災地で暮らしている女性。男性が「岡山で一緒に暮らそう」と言うが…。2人はかつての夫婦で、生まれた子供が無脳症だった。その原因はもしかしたら広島での被ばくのせい?
「死なばもろともよ!」という女性の言葉は、ヤケになっているようでいて、実は固い信念も感じられて、部外者(=私)には何も言えなくなってしまう強さがあります。
3.『消えたイザベル』
作:ナオミ・イイヅカ 訳/演出:河原その子
出演:岡田栄美、須藤翔、山像かおり(文学座)
人力車の運転手とアメリカ人女性との昔の恋。現代の国籍の違う恋人たちにも続く。
セリフや演技がいかにも英語の翻訳劇っぽくて、私には合わなかったです。
4.『ゾウガメのソニックライフ』(抜粋)
作:岡田利規 演出:赤澤ムック
出演:牛水里美・芝原弘・升ノゾミ・山下恵(いずれも黒色綺譚カナリア派)
オフィスで働く日本人女性の白昼夢。電車に乗ってどこまでも。「アメリカの言いなりになってたら滅びるよ」的なつぶやきがサラリと。
なんと役者さんが全員着物で登場!がっつり引き込まれました。中央でイスに座って口をぼんやり開けっ放しだった芝原弘さんが、主人公の女性(寝てる)だったんですね。
5.『日本流エチケットの手引き』
作:ダグ・ライト 訳:常田景子 演出:坂手洋二、常田景子
出演:坂手洋二(燐光群)、常田景子
日本人のエチケットを語る男性(坂手洋二)。その男性や周囲の人の動きを説明するト書きを、翻訳者である常田景子さんが朗読。
「だまってにっこりコトナカレ主義」でいる内に、どんどん放射能のせいで体調が悪化していく男性。ブラックユーモアが際立つ、とても面白い短編でした。昨年はこれをアメリカ人が演じたのだから、もっとブラックだったんだろうなと想像。
6.『ふるさとを捨てる』
作:鈴江俊郎 演出:樋口ミユ
出演:安達修子、小椋毅(モダンスイマーズ)、佐々木琢
どうやら「放射能汚染された地域に住む女性に、避難するよう説得する話」だったようですが、口論(?)している人たちの演技から、どういう意味を受け取ればいいのかわからなかったです。
7.『海の風景』
作:エドワード・オールビー 訳:鳴海四郎 演出:鈴木聡
出演:鈴木聡(ラッパ屋)
普段は舞台に上がらない鈴木さんが出てこられただけでドキっとしたのですが、体力が尽きたのか眠気が…。ごめんなさい。
8.『血の問題』
作:坂手洋二 演出:前川知大
出演:菊池明明、安井順平
白衣の女性と、うつらうつらしながら座っている男性。ここは献血用の車両。やがてその男性は女性を人質にして、車内に立てこもっていることがわかります。サスペンスタッチですごく面白かったです。
「原発の近くで働いていた」と言うなり、献血を断られた男性。車を売って遠くに旅に出ようと思っていたら、車の線量が高かったせいでディーラーに「買って引き取れ」と言われ、どんどんと悪い方向に。
9.『水の中』 “キャロライン、オア チェインジ” より
作詞/作曲:トニー・クシュナー、ジャニーン・テゾーリ 訳/演出:青井陽治
出演:東京藝術大学の池田泰基・尾川詩帆・瀧本真己・本多都・松原凛子・川崎龍(ピアノ伴奏)。
水中にいる女性と陸上の女性が語り合う歌(?)。おそらく…溺死した人の霊が、生きている友人に語りかける歌だったのかと。
10.『危機一髪』 ミュージカル “危機一髪” より
作曲:ジョン・カンダー 作詞:フレッド・エブ 脚本:ジョセフ・スタイン 訳/演出:青井陽治
出演:東京藝術大学の池田泰基・尾川詩帆・瀧本真己・本多都・松原凛子・川崎龍(ピアノ伴奏)。
日本語の文法的に違和感のある歌詞で戸惑いました。たとえば「たとえ危機一髪だったとしても~」の意味がわかりません。ミュージカルには疑問ばかり浮かんでしまいました。
【発売日】2012/07/09 5日(日)[*全席指定]【1】第一部 ¥1,000 【2】第二部 ¥1,000 【5日通し券】¥2,000 *4日のみ劇作家協会会員・杉並区民割引あり
企画事業部担当:坂手洋二 谷賢一 前川知大 樋口ミユ 舞台監督:川前英典 スライド:清水弥生 制作:まつながかよこ 宣伝美術:奥秋生 劇作家協会事務局:勢藤典彦 国松里香
文化庁委託事業「平成24年度 次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」 主催:文化庁/一般社団法人 日本劇作家協会 制作:一般社団法人 日本劇作家協会 協力:座・高円寺 / NPO法人 劇場創造ネットワーク
http://www.jpwa.org/main/content/view/161/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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