毎年『少年口伝隊一九四五』が上演されてきた新国立劇場演劇研修所の朗読劇ですが、今年は新作になりました。ミヒャエル・エンデ作『ハーメルンの死の舞踏』です。演出は同研修所アソシエイト・ディレクターの田中麻衣子さん。上演時間は約1時間10分。
全くの偶然ですが、今週末は神奈川県民ホール・オペラ『ハーメルンの笛吹き男』も観に行きます。
パンフレットの田中さんの言葉によると、“『モモ』で「時間」を問うたエンデが、亡くなる前に絶えずその思考を巡らせたのは「お金の正体」でした”とのこと。
ちょうどこの本↓を読んだところだったので、物語の舞台である1820年代も、今も、私たちは同じ境遇にあるのだと、じっくり考えながら観ることができました。
⇒CoRich舞台芸術!『ハーメルンの死の舞踏』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
ものがたり にかえて
市長ら支配者たちのひそかにあがめる「大王ねずみ」が金貨をひり出すたびに町中にねずみが氾濫し、市民は死の影におののく。そこに不思議な笛をもつ男が現れ、ねずみ退治の約束を交わすのだが……。
1284年 聖ヨハネ・聖パウロの祝日
すなわち 6月の26日
道化の衣に身を包んだ笛吹き男に誘われ
ハーメルン市に生をうけた子ども 130名
カルヴァリーの丘に入り 行方知れずとなる
ドイツの有名な民話『ハーメルンの笛吹き男』、そのねずみ取り伝説にまつわる謎を、オペラ台本として新たに読み解いたエンデ晩年の作。
≪ここまで≫
ステージには3段の黒い台が重ねられて、上に金持ち(支配者層)、下に貧乏人(被支配者)という具合に役者さんが並んで座り、適宜入れ替わります。主要な役柄はキャストが固定されているのでストーリーもわかりやすく、舞台奥の壁に大きく映像が映し出され、場面の変化も明快でした。“笛吹き男”の奏でる笛の音などの音響効果も凝っており、この朗読劇のために作曲された歌もありました。
先ほどご紹介した本の話なんですが、私たちが銀行に預けたお金は、ほんのわずかですが利子がついて、時間が立つと増えることになっています。でも預けたお金がずっと銀行の中にあるかというと、そうではないですよね。だって銀行は私たちの預金を他の人(会社)に貸したり、運用したりするのですから(その利益が私たちの利子となって還元される)。でも実はこの“信用創造”というシステムは、銀行が、私たちの預金と同じの額だけの新たなお金を、無の状態からつくり出すものなのだ…と指摘していました。たしかに、私の預金は本当は銀行の中にはないのに、通帳の数字という形で存在していることになっています。目からウロコでした。
ここからネタバレします。
金持ちの支配者層は、街を致命的に汚染するネズミと金貨とを、同時に排出する「大王ねずみ」を神とあがめる宗教に入信し、それに支配されています。地下の秘密の礼拝堂でいかがわしい儀式が行われる…という、いわゆる物語らしい設定が明晰な言葉で語られ、映像や音響でさらに鮮やかに立体化されるので、入り込んで行けました。
笛吹き男は言葉を話さないが、笛の音を聴いた者は、彼が何を言っているのかをわかってしまう。私たちは本当は何が正しいのか、自分たちの何が間違っているのかを知ってるのに、見ないふりをしている。物欲、名誉欲、独占欲などに支配された人間は、すべて滅びてしまう。そういうった教訓をスっと素直にくみ取ることができました。
【出演:6期生】笛吹き男:□□□□ 二人組の子供:森川由樹、野口雄作 ハイナー・グルールホート、市長:田部圭介 アテーラ・グルールホート、その妻:池田朋子 マグダレーナ・グルールホート、その娘:横山友香 ゴットフリート・ヴェレゲジウス、司祭・預言者:細川慶太 アメルング・ライッケ、代官:頼田昂治 ランベルト僧院長:森下庸之 市民、乞食、修道僧、市参事会員、富豪、傭兵、死刑執行人その他の役人、男女の召使、子どもたち:沖田愛、落合千恵、木村圭吾、杉山みどり、玉田裕太、西井裕美、南名弥
脚本:ミヒャエル・エンデ 訳:佐藤真理子/子安美知子 上演台本・演出:田中麻衣子 音楽:国広和毅 照明:矢場拓史 音響:黒野尚 映像:井口雄一郎 衣裳コーディネート:田中光子 演出助手:吉田妙子(第2期修了生) 舞台監督:米倉幸雄 舞台・照明・音響操作:新国立劇場義呪物シアターコミュニケーションシステムズ レンズ 制作助手:岡本はるか 長川原秀美 演出助手:鈴木麻美 堀本宗一郎(8期生) 演劇研修所所長:栗山民也 制作:新国立劇場
【発売日】2012/08/04 全席指定 1,000円
http://www.nntt.jac.go.jp/training/20000660_training.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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