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2012年09月17日

【写真レポート】「フェスティバル/トーキョー~F/T12~記者会見&キックオフ・フォーラム」09/12東京芸術劇場5階コンサートホール・ロビー

 世界から先鋭の舞台芸術作品が集まる「フェスティバル/トーキョー」が来月から開幕します!5回目となる今回は昨年とほぼ同規模の開催で、 F/T主催演目12作品に加え、アジア各地から集まる公募プログラムが11作品
 昨年休館中だった東京芸術劇場リニューアル・オープンしましたから、今年の秋は池袋西口を拠点にして、1ヵ月間みっちり、密な交流ができそうです。

 今回のコンセプトは「ことばの彼方へ」。全演目を紹介する記者会見の後、参加アーティストらが登壇するキックオフ・フォーラムが開かれ、言葉や舞台表現の根本を問う率直なお話を伺えました(⇒一般参加募集告知)。

 【フェスティバル/トーキョー(通称:F/T12(エフティー・ジュウニ)】公式サイト
  会期:2012年10月27日(土)~11月25日(日)
  会場:東京芸術劇場、あうるすぽっと、にしすがも創造舎、シアターグリーン、The 8th Gallery
  チケット一般発売日:2012年9月15日(土)10:00~
  ※券種などの詳細は公式ページでどうぞ。
   F/Tパス32,000円などのお得な券種には販売期限あり。内容チェックだけでもお早めに!
  ⇒facebookページ ⇒公式twitter ⇒公募プログラムtwitter

【出席アーティスト集合写真↓:(C)熊谷篤史 上段左から:三浦基、三浦大輔、神里雄大、松田正隆、村川拓也、勅使川原三郎、高山明 下段左から:鹿島将介、三野新、白神ももこ、川口典成、作者本介、谷竜一(敬称略)】
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【市村作知雄さん(実行委員長)】※質疑応答時の発言も含む。

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市村さん

 市村:今思っていることをお話しさせていただきます。芸術における性的な表現がどうあるべきかについてです。僕の持論なんですが、劇場法もできたことだし、劇場や美術館においては、それが性的であろうと表現の規制をすべきではないと思います。性的な部分は人間が生きていく上で非常に大きなウェイトを占めていますし、芸術的な課題にとっても非常に重要なファクターであると考えます。だからそれを劇場、美術館で規制することには大反対です。かといって日本の法をやぶることはできないので、それは守っていくしかないのですが。
 たとえば「ヨーロッパでは性的な表現に制限がない」というのは不正確な表現でして、ヨーロッパにおいて表現が規制を受けないのは「劇場や美術館において」です。同じこと(性的な表現)を社会の一般的なところでやるのは有り得ない。ところが日本は逆になっている。たとえば電車の中づり広告などに、大手の出版社が異様に無制限に性的内容を載せています。一般的なところでは性が氾濫しているのに、劇場内で規制するという逆転現象を起こしているのです。青少年が性的なものに非常に関心が強い時期を逆手にとって、大手出版社が商売にしようとしていることに対しても、僕は大反対です。日本の社会がネグレクトしてきた課題が、今ここにあらわになっていると思います。
 少なくとも劇場法ができたからには、劇場内で規制すべきことは何なのか、性的な表現はどうやるべきなのかを、芸術界としてかなり時間をかけて討論すべきだと思っています。それが今回のF/T12に携わってきて、僕がもっとも考えたことです。これは演劇界、アート界がさぼってきたことだとしか言いようがない。僕としては今後、シンポジウムなど様々なことをしながら論議を深めていきたいと思っています。


【相馬千秋さん(フェスティバル・ディレクター)】

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相馬さん

 相馬:毎年恒例なのか、F/T記者会見では実行委員長の市村がアドリブで、誰も予想だにしないことをしゃべります。それが面白くもあるのですが、私は大変動揺しております(笑)。性的な表現の規制について、もうちょっと穏便なかたちで言葉をつづけてみたいと思います。
 F/Tは今年で5回目になり、通常の劇場開催に戻ったので初心に帰ってやりたいと思っています。これまで一番大事にしてきたことは、あえて言うのも馬鹿馬鹿しいかもしれませんが、市村の話を受けますと、やはり表現の自由を守るということではないかと思っております。私個人の考えでは、表現はあくまでもそれぞれの個人に立脚した、誰も侵すことができないもので、個人が自分の頭で想像したことや欲求は、誰も規制したり制限したりすることはできないと思います。
 じゃあこの社会で芸術の名のもとに何をやってもいいかというと、当然そうではないわけで、我々としましても社会の様々な制度、文脈の中でどこまで表現としてやるべきかの、ギリギリの線を狙う必要があるんだろうと思います。アーティストも我々も表現と社会とのせめぎ合いのところで日々創作をしています。そのこと自体が尊重されるべきであり、われわれもアーティストの活動を尊敬し、尊重していきたいと思っています。
 F/Tは表現が集まる場ですから、表現の自由をどうやって担保していくかを、初心に帰ってもう一度問い直したい。そういったボーダーをちょっとずつ更新するような作品が新たに生まれれば、それがF/Tという場の現実的な評価につながっていくのではないか。私個人はそのような信念を持ってこのフェスティバルをやっていきたいと思っています。
 表現の自由やそれに基づく多様な価値観がぶつかり合っている状態は、ひいては東京という街の文化的なポテンシャルを向上させることにもつながるでしょう。東京ではこれだけ多様な価値観が認められ、議論が生まれているということを、世界に対してアピールしていく場、それがF/Tです。特に今年はアジアの国々からもたくさん若手の演出家を招聘しています。アジアの人たちとの対話の回路をしっかりと開いた上で、多様な価値観が常に拮抗する場としてのフェスティバルを実行していきたいと思っています。


 ■テーマは「ことばの彼方へ」公式ページ

 相馬:演劇の基本的な要素である“ことば”にフォーカスして、今年のプログラム全体を考えました。演劇というメディアを使って、我々は震災後のリアリティーをどうやってつかみ直していくことができるのか。去年のF/Tの問題意識であった「私たちは何を語ることができるのか」というテーマを引き継ぐものです。今年はことばを媒介に、この問題について考えていきたいと思っています。
 「ことばの彼方へ」と言ってしまうと、ことばを軽視していたり、ことばをスルーしてどこかへ行ってしまうと思われる危険性もあるのですが、全く逆でして、我々としては震災後に発せられた演劇のことばを経由して、新たな現実と向き合っていきたいと思っています。

【キックオフ・フォーラム参加(左から敬称略):三浦基、神里雄大、松田正隆、三浦大輔、村川拓也、高山明】
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 ★以下、キックオフ・フォーラムでのアーティストのご発言も合わせて掲載します。

【F/T12イェリネク三作連続上演】

 相馬:「ことばの彼方へ」というテーマを深める提案といたしまして、オーストリアのノーベル賞作家エルフリーデ・イェリネクを特集いたします。イェリネクは世界の演劇界で今最も盛んに上演されている同時代の劇作家です。日本ではなかなか翻訳が難しかったり、テキストが複雑難解ということで、まだそれほど上演されていません。そんなイェリネクをなぜ今年F/Tで特集するかといいますと、彼女が311を受けて2つの戯曲を執筆したからに他なりません。また、それがF/Tで取り組もうと思っているテーマに呼応するものでもありました。その戯曲を私共の方では林立騎さんという翻訳者に翻訳をしていただきまして、今回は2人の日本人の演出家に演出を委嘱することになりました。


■『光のない。
 作:エルフリーデ・イェリネク [ オーストリア ]
 演出:三浦基(地点) 音楽監督:三輪眞弘 [ 日本 ]
 写真:(C)Naoya Hatakeyama
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 相馬:まずはイェリネクが震災直後に執筆した『光のない。』を、地点の三浦基さんに委嘱いたしました。音楽的な要素が大変重要な戯曲であるため、現代音楽家でメディア・アーテイストである三輪眞弘さんにも音楽監督としてご参加いただきます。

 三浦基:イェリネクの言葉は強い。言葉に強い意味しかないほどに。この戯曲は東電の記者会見やソフォクレスなど、色んな引き出しの題材が一緒になっている。イェリネクは飛行機に乗らないので、ずっと自宅で執筆をしている。それなのに、よくもここまで(日本の震災の)情報を得て、それを咀嚼できているなと思う。分量も多いし視点も多い。鋭い批評眼をお持ちで尊敬している。
 演出家の仕事は「何」を「どうやるか」。この作品の「何」は「震災」だから、「震災を、どうやるか」が問われている。幸か不幸か、私たちにわかりやすい題材。誤解を招くような厳しいメッセージもある。よくもここまで書くなと思うほど。この戯曲は「判決が欲しい」で終わっている。責任をどう考えるのかの指針になれば。問い掛ける作品になればいいと思って作っている。


■Port B [ 日本 ]『光のない Ⅱ
 作:エルフリーデ・イェリネク [ オーストリア ]
 構成・演出:高山明 [ 日本 ]
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 相馬:『光のない。』の続編にあたる『光のない Ⅱ』は、震災からちょうど1年と1日後の2012年3月12日に、イェリネク自身のホームページで発表された戯曲です。発表時は『フクシマ・エピローグ?』というタイトルがついていました。こちらをPort B(ポルト・ビー)の高山明さんに演出して頂きます。
 イェリネクの戯曲というのはト書きもなければ状況設定も非常に少ないので、戯曲をどう解釈するかは演出家の手に大きくゆだねられています。

 高山明:イェリネク戯曲は5年前に『雲。家。』を演出した(⇒F/T09)。実はここ5年ぐらい舞台作品を作っていなかったので、久しぶりに戯曲に向き合っている。三浦基さんのおっしゃるとおり、言葉が強い。これ以上ないんじゃないかと思うぐらい強いという意味で、イェリネクは特殊。その強さだけを信頼できるというか、全面的に受け入れられる。
 震災から1年半経って、自分の中の“福島”が落ち着いてきて、秩序を持ってきた。時間が経ったし、マスメディアの報道もあって整理されてきたのだろう。それがこの戯曲で再起動させられた。この戯曲は『フクシマ・エピローグ?』という題名で、ちょうど311から1年と1日経った、2012年3月12日に発表された。エピローグ化してはいけないという思いを受け取った。
 今回の訳は敢えて、いびつで、おかしな日本語になっている。今、自分の中にある“福島”をいびつな日本語によって掻きまわせるかどうか。


■ミュンヘン・カンマ―シュピーレ[ ドイツ ]『レヒニッツ (皆殺しの天使)
 作:エルフリーデ・イェリネク [ オーストリア ]
 演出:ヨッシ・ヴィーラー [ スイス ]
 舞台写真↓(c) Arno Declair
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 相馬:海外からもイェリネク作品を招聘しています。ヨッシ・ヴィーラー演出の『レヒニッツ』という作品です。ヨッシさんは2005年に『四谷怪談』という作品を日本人キャストと創作されましたので、ご記憶にある方もいらっしゃるかもしれません。本国ではイェリネク戯曲の第一人者とも評されている方です。
 作品の舞台はオーストリアのレヒニッツという村。時代は第二次世界大戦末期。ナチスドイツに協力していた貴族の館において、ある余興の一環として200人ものユダヤ人が虐殺され、今だに遺体の埋葬場所さえわからないという事実に基づいて書かれた戯曲です。極めて凄惨な事件を扱っているのですが、舞台上ではとても魅力的な実力派の役者さんたちが、ニコニコと不気味な笑顔を湛えながら、この状況を報告し続ける、ある種のメッセンジャーとして語り続けるという演出です。
 誰も語り得ないほどの現実を、当事者ではない立場の人間がどう語っていくのかという難問に対して、イェリネクの言語の実験、そしてヨッシ・ヴィーラー独自の解釈、演出というものを是非観ていただきたいと思います。
 今回の目玉作品なんですが、ヨッシさんが大変お忙しいので来日が叶わないため、スカイプを経由したメッセージをいただきました。

 ヨッシ・ヴィーラー:今までにこの作品を上演したのは、ホロコーストの加害者もしくは被害者にあたる人々がいる都市でした。そうでない場所で上演するのは今回が初めてです。議論を呼ぶと思います。遠くに離れていようとも、別のやり分で対話が起こるでしょう。

 ★イェリネク3戯曲連続上演にあたり、白水社より戯曲集↓が発売されました!

光のない。
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 ■マレビトの会[ 日本 ]『アンティゴネーへの旅の記録とその上演
 写真:(C)笹岡啓子
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 相馬:『アンティゴネーへの旅の記録とその上演』は、実はすでに上演が始まっております。WEB上の特設ページで、10人の登場人物たちがそれぞれの立場から物語を紡ぎ、それがfacebookやツイッターなどのメディアでも発表されていきます。現実の世界でも、それらの物語のシーンが都内あるいは福島でひっそりと上演されています。F/Tの会期中には、それらの上演の記録を再現ドラマとして再構成して、毎日7時間かけて上演するという壮大な計画です。さまざまな物語がすでに紡がれていますので、ぜひ特設サイトからもご覧ください。

 松田正隆(マレビトの会代表):なぜアンティゴネーかというと、生きている人の情報のやりとりじゃなくて、死者に向かう言葉を考えたから。そしてメディア(媒体)について。私たちは情報を物語化して安易に流用していく。そこに無力感を感じた。舞台上やウェブ上で、どこから視線が来てるのかわからないような、直接的な眼差しと間接的な視線とをふまえた演劇作品ができないか。
 今も上演をしているので、よかったら観に来てください。
 ⇒マレビトの会公式サイト ⇒マレビトの会facebookページ


 ■村川拓也[ 日本 ]『言葉
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 相馬:村川拓也さんは昨年の公募プログラムで上演された『ツァイトゲーバー』という作品で非常に高い評価を得て、今回初めてF/Tの主催プログラムに出てくださることになりました。タイトル『言葉』はF/Tのテーマにも直接的に呼応してくださっているのかなと思います。震災後の失語状態から対話劇を立ちあげたいということで、その実験的な試みをしていただくことになります。

 村川拓也:私は映像作品も作っていて、被災地に行って出会った人のドキュメンタリーを撮ったりもしている。出演者と被災地を旅をして、勝手に歩きまくって、そこで出会った人と話をしてきてもらった。帰ってきた俳優たちに、どんな話を聴いたのかとインタビューをしたら、全く面白くなかった(笑)。弱っちい言葉ばかりが並んで、本質からずれたことしか出てこない。でも、大きな言葉を並べるより、弱い言葉を並べてそこに何らかの仕掛け、仕組みを作れば、対話の本質が言葉と言葉の間に現れるんじゃないか。


 ■勅使川原三郎 [ 日本 ]『DAH-DAH-SKO-DAH-DAH
 演出・振付・美術・照明:勅使川原三郎 [ 日本 ]
 舞台写真↓:(C)小川峻毅
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 相馬:宮沢賢治作品に想を得た『DAH-DAH-SKO-DAH-DAH(ダーダースコダーダー)』を、勅使河原三郎さんが20年振りにリクリエーションされます。いまなぜこの作品をつくろうと思ったのか。勅使河原さんにF/Tのアーティストを代表してお話をいただきます。

 勅使河原三郎:先ほど相馬さん、市村さんがおっしゃったように、性的なことにしても何にしても、ものを作るということはとても個人的なことだし、ものごとに係わることも、踊る時の体も、個人的なことだと思います。
 『DAH-DAH-SKO-DAH-DAH』は「原体剣舞連(はらたいけんばいれん)」という詩から取ったオノマトペ(擬音)で、風を表現しているのか、人間の鼓動を表現しているのか、そういう「響き」ですよね。「原体剣舞連」という詩の中にあるものは、心と体、物質と精神、それらがぶつかったところにある音、あるいは生と死。「原体剣舞連」にある「剣舞(けんまい)」とは死者を迎え入れる時の踊りで、小学校六年生の男子しか踊らないという、ある種の規制がある民族舞踊なんですね、それに触発されたところもあります。

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勅使川原さん

 別の詩の中に「心臓が3つも4つもなくて、どうして脚本ひとつ書けましょう」という僕の好きなフレーズがあります。ただ生きているだけでも心臓1個じゃ足りない時もあるし、ましてや脚本にかかわる方々は違う人生を取り込みながら、人間を、別人生を大量に見ていくから、生も死も一緒くたになってしまうぐらい激しいものでしょう。だからこのフレーズに同意するわけです。でもこれには続きがあって、「脚本書いて作品をつくって、芸術だとか言ってんじゃないだろうな。そういう気どりこそを叩き潰さなきゃいけない」と言うんです。「アメニモマケズ、カゼニモマケズ」という詩を語っている人だけど、こんな挑戦的な言葉を書いている。根本的に反抗的な、挑戦的な人だということがわかる。僕はそこに共感するところがあります。
 「響く」ということは大事なテーマだと思う。「響く」とは、何によって、何を響かせるのか。言葉の強さを感じながら、響きを体に持ちながら、新しい挑戦をする。これは創作に近い改作になります。そういう態度で臨みたいと思います。


 【ジャーナリズムを越えて 海外の3作品】

 相馬:ジャーナリズムでは伝えきれないような複雑な現実と向き合って、独自の手法を編み出しているアーティストをラインアップしました。

 ■ジャン・ミシェル・ブリュイエール / LFKs [フランス]『たった一人の中庭
 舞台写真↓
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 相馬:フランスのジャン・ミシェル・ブリュイエール率いるLFKs (エルエフケーズ)は、哲学者や詩人などによる表現者集団で、既存のジャンルにとらわれず、社会に対する鋭い問題提起を作品化してきたグループです。この作品では移民収容所を模した空間が広がっており、ある意味美的に、かつ批評的に再構成されています。白い衣裳に身を包んだ複数のパフォーマー、やせ細った黒人のパフォーマーが、上演時間中さまざまなパフォーマンスを繰り広げて行きます。私が海外で拝見した時の上演時間は10時間だったんですが、10時間ずっと衣裳を着てパフォーマンスをしていました。今回の東京バージョンでも、そんなに長時間ではないですが、こういう形でやっていただきます。
 毎日のパフォーマンスの中で何かしらの批評的なアウトプットが行われ、その成果も日々発表されて作品の全体に影響を及ぼしていくという仕掛けになっています。今回の東京公演では、にしすがも創造舎の校舎、校庭、体育館をすべてフルに活用しまして、ひとつの巨大な展覧会形式の演劇として発表されます。
 ⇒2009年のアヴィニヨン・フェスティバルのレポート(岩城京子)
 ⇒F/T12オープニング演目『たった一人の中庭』 エキストラ大募集!!


 ■メヘル・シアター・グループ [イラン]『1月8日、君はどこにいたのか?
 作・演出:アミール・レザ・コヘスタニ [イラン]
 舞台写真↓:(c) Mohammadreza Soltani
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 相馬:コイスタニはイランを代表する若手演出家です。F/T09春の時に、平田オリザさんとフランス人演出家との共同作品『ユートピア?』で来日しています。
 物語の舞台はある大雪の日のテヘラン郊外。4人の若者たちがジャン・ジュネの『女中たち』の稽古をするために集まる中、兵役中の男性が合流して事件が起きます。登場人物たちは携帯電話でひたすら対話を繰り広げます。対話の中にはさまざまな隠喩や嘘が飛び交っています。実はイランの現状を反映したもので、イランではご存じのとおり検閲があって表現の自由が担保されていないため、表現自体が非常に比ゆ的にならざるを得ないという事情があるのです。現地の状況を反映した演劇を通じて、ジャーナリズムでは伝え切れないイランの現実を知っていただければと思います。


 ■クレタクール [ハンガリー]『女司祭―危機三部作・第三部
 作・演出:アールパード・シリング [ハンガリー]
 舞台写真↓:(c) Krétakör - Máté Tóth Ridovics
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 相馬:ハンガリーは東欧諸国の中でも近年多くの才能が花開いて、演劇がとても盛んな国のひとつです。中でもアールパード・シリング率いるクレタクールは社会に対して真摯な問いを続ける前衛アートグループとして、大変な人気を誇っています。
 この作品の舞台はハンガリーとルーマニアの国境地帯にあるトランシルバニア地方。歴史的に非常に深刻な民族問題をかかえた地域です。クレタクールの面々はそこに長期滞在しまして、15人の子供たちとのワークショップを経て、この作品を作り上げました。
  ある都会から元女優だった教師が赴任してきます。彼女は演劇教育のメソッドを通して子供たちと対話しようとするのですが、なかなかうまくいかず葛藤するという物語です。そこには実際のワークショップで起こったことが反映されています。地域格差の問題や地域の宗教など、非常になまなましい率直な問いが、この作品のあいだ中、問い続けられる。それが子供たちのリアルな存在感とともに差し迫ってくる舞台となっています。
 『女司祭―危機三部作』は映画、オペラ、演劇で三部作になってまして、第一部にあたる映画は演劇と合わせて上映しますので、そちらもご覧下さい。


【アジアの3作品】

 ■グリーンピグ [韓国]『ステップメモリーズ―抑圧されたものの帰還
 構成・演出:ユン・ハンソル [韓国]
 舞台写真↓:(C)Hansol Yoon
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 相馬:ユン・ハンソルは韓国の若手の中でも最も先鋭的な表現手法で注目を集めている劇作家、演出家の一人です。『ステップメモリーズ』は2010年にソウルの美術館で初演されました。観客は俳優に導かれながら、館内の複数の空間を巡って作品を体験することになります。
 この作品の中心的な主題は朝鮮戦争の記憶をどう語るのかということ。同じ民族同士が殺し合って今も解決を見ない出来事の記憶を、あえてさまざまな証言をして語り直すことで、被害者と加害者あるいは集団と個人の関係性を明らかにしていく作品になっています。今回はにしすがも創造舎の全館を使って、西巣鴨固有の歴史をまじえたサイト・スペシフィックな作品を創作します。その際に、さいたまゴールド・シアターの女優さんなど日本人キャスト5人にもご参加いただきますので、そちらもご注目ください。


■岡崎芸術座 [日本]『隣人ジミーの不在
 作・演出:神里雄大 [日本]
 ↓(c)神里雄大
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 相馬:神里さんは前回のF/Tで未来の日本の移民問題を扱って、大きな物議をかもしたわけですが、今回は隣人をテーマに、あえて隣国の韓国で稽古を行い、日本の外側から日本を描くという試みをされます。

 神里雄大:映画「ダークナイト」が面白かったので続編の「ダークナイト・ライジング」を観に行ったが、面白くなかった。そういえば「バットマン・リターンズ」も「バットマン・ビギンズ」も面白くなかった。それは“悪の組織”のような大きなものが描かれているからだと思う。個人が埋もれると面白くない。「ダークナイト」ではバットマンやジョーカーの個人的なことが前に来ていた。日本人が、韓国人が、移民がといった大きな話より、ごくごく個人的なことを並び立てて、具体的なものを前に持ってきたい。


■ポツドール [ 日本 ]『夢の城 - Castle of Dreams
 作・演出:三浦大輔 [ 日本 ]
 舞台写真↓
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 相馬:この作品はご記憶に残っている方も多いと思いますが、2006年の岸田戯曲賞受賞直後に上演され、いっさい言葉を使わない作品として大センセーションを巻き起こした問題作と言われています。さきほど市村が申しました性的表現は、この作品でも当然問題になってくる部分かと思います。今回のF/Tでやっていただくのは、2010年から2011年の海外ツアーで絶賛されたバージョンで、その凱旋公演的な位置づけになっています。

 三浦大輔:震災前の作品ですから、震災後の今は逆説的に観てもらうしかない。2006年初演と価値観も状況も変わった中で、皆さんがどう見るのかを知りたい。そこから新しいものが生まれる気がする。
 海外で上演してきたことで、無言でやることと若者たちの無気力、怠慢さをリンクさせたことが、この作品の価値だと自覚した。本質が見えてきた。
 とはいえ俗っぽい作品です。18歳未満入場不可だし問題作だとも言われて、実際、ポツドールの作品は怖がって観に来ない人もいるんですけど(笑)、本当に大丈夫ですよ、わかりやすくてポップな作品です。ちょっと泣いちゃったりするような感動する作品ですので、観に来てください!


公募プログラム
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 相馬:アジアの同世代が一堂に集うプラットフォームとして今年も公募プログラムを行います。今年はアジア全域からなんと180件もの応募がありまして、2年目にしてさらにアジアの若手の間にこのプログラムが浸透した実感を持っております。

・アジアからの6団体:
 シアタースタジオ・インドネシア[インドネシア]『バラバラな生体のバイオナレーション!
 新青年芸術劇団[中国]『狂人日記
 Co-Lab プロジェクト・グループ[韓国]『Co-Lab:ソウル―ベルリン
 WCdance[台湾]『小南管
 ダニエル・コック・ディスコダニー[シンガポール]『ゲイ・ロメオ
 アゲインスト・アゲイン・トゥループ[台湾]『アメリカン・ドリーム・ファクトリー

・日本からの6団体:
 The end of company ジエン社『キメラガール アンセム/120日間将棋
 ピーチャム・カンパニー『美しい星
 ヒッピー部『あたまのうしろ
 重力/Note『雲。家。
 集団:歩行訓練『不変の価値

 今年もF/Tアワードを実施し、新しい価値を創造する優れた作品を表彰します。今年は中国、韓国からも審査員をお招きし、よりアジアの視点を入れた審査が期待されます。政治的には非常にぎくしゃくしたアジア関係ですけれども、こういう時だからこそ若い世代の表現者が、観客が、同じ場を共有して批評し合うことが非常に重要な取り組みになってくるのかなと思います。今年のF/Tでは対話の場を多く設けて行きます。


F/Tモブ
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 相馬:フラッシュモブの手法を使った群衆ゲリラ・パフォーマンスを、週末ごとにしかけて参ります。コアに踊っていただくダンサーを募集したところ、なんと190名の方にお集まりいただきました。飛び入りで参加したい人にはPVをご用意しております。場所は1000人ぐらい参加しても大丈夫なぐらい広いので、自宅で練習してぜひ参加してください。


■質疑応答

 質問:劇場、美術館内での表現の自由が話題にのぼったが、これまでに具体的な問題はあったのか。また今回はどう取り組んでいるのか。

 相馬:これまでのF/Tで上演してきた野外や公共の場での作品では、法律やルールあるいは(行政側の)担当者がはっきりしているので、創作の際にあきらめざるを得ないこともありました。でもそれはそれとして作品に反映されていくものです。それが今の日本という状況であり、自分たちが置かれた状態なのだとして、作品に内在化していくしかない。そういう覚悟でいつもやっているつもりです。
 それよりも私が非常に危惧しているのは、そういった手ごたえのあるものよりも、むしろ手ごたえのないもの、実体のないものなんです。特に震災後に感じていることですが、「世間が」とか「一般の方がこうおっしゃってます」とか、あるいはツイッターやSNSでも、色んな方が上から目線で言いたいことを言うことが、日本のメディアで割と当たり前になってしまっている。実際にリアルに向き合っているわけではない、ふにゃふにゃとした他者の声が、なんとなく我々の表現に対してある種の抑圧的なものに感じられる。このことの方が、私は今の日本での表現にとって非常にマイナスだなと考えております。


主催:フェスティバル/トーキョー実行委員会 東京都 豊島区 東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団) 公益財団法人としま未来文化財団 NPO法人アートネットワーク・ジャパン
フェスティバル/トーキョー:http://festival-tokyo.jp/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2012年09月17日 23:19 | TrackBack (0)