マーティン・マクドナー作『ピローマン』(⇒過去レビュー)を小川絵梨子さんが翻訳・演出というだけで、私的には必見の舞台です。上演時間は約3時間10分(途中休憩10分を含む)。
期待通り、とっても面白かったです。暗い暗いお話なのに、最初からあんなに笑えるなんて!『ピローマン』という戯曲の面白さを、再びかみしめました。
「劇」小劇場に入るなり対面式の舞台美術に驚きました。これだけでも一見の価値あり!5日間6ステージしかないなんて、もったいない…。
⇒小川絵梨子さんを招いたレクチャーのレポート
⇒CoRich舞台芸術!『ピローマン』
≪あらすじ≫ チラシより
「むかしむかし、あるところに・・・」
とある時代の、とある全体主義国家。作家のカトゥリアンは、理由も分からないままに警察に連行され、そこで二人の刑事の取り調べを受ける。カトゥリアンには、ある連続殺人事件の容疑がかけられていた。彼の書く「お話」は、どれも不幸な子供たちが残酷で悲惨な運命を辿る話ばかり。その「お話」をそっくり模倣した児童連続殺人事件が起きていたのだった―――。
≪ここまで≫
普段はプロセニアムで使われることが多い劇場が、変形の対面式客席になっていました。2筋の細長いステージが、劇場を交差するように斜めに横切っています。劇場中央が2本の筋の交差点になるのですが、1つは劇場の隅っこまで伸びずに、交差点までで止まっています。つまり、上から見たらカタカナの「ト」みたいな形。「ト」の最も小さい角に当たる空間には、客席はありません。贅沢な使い方です。
俳優が、演じる役人物として自然に舞台上で生きていれば、それだけで何もかもがある。説明的な演出なんていらないんですよね。メインの4人の男優さんの献身的な熱演によって、「私が観たい演劇(ストレート・プレイ)」に限りなく近いものを見せていただけました。欲を言えば、物語を語る演技はもう少しブラッシュアップされるといいなと思いました。あとは、得体のしれない後ろ暗さ、恨みのパワーみたいなものを、もっと感じ取りたいなと思いました。
ドアが壊れてしまうなど初日らしいハプニングやミスはありましたが、私は気にしませんでした。そこは俳優と一緒にハラハラして楽しめばいいので(笑)。俳優さん、楽しんじゃってごめんなさいね。
長時間だし内容も暗くて重たいです。でもカーテンコールの拍手がとても温かかったんですよね。ダブルコールがあっても良かったと思います。
ここからネタバレします。
劇場入り口に近い方を上手、その反対側を下手とします。上手に半透明のビニール生地のカーテンがあり、カトゥリアンとミハイルの不幸な幼少時代のグッズが隠されています。下手にはベッド。カトゥリアンが、寝ている両親の顔にまくらをかぶせて殺害する時、ベッドとともに電球が揺れて、小刻みにカチ、カチ、カチと金属がぶつかる音がするのが良かったです。
「小さなキリスト」の劇中劇では、主人公の少女をマネキン(上半身だけで顔のないトルソ)で表現。ゴムひもにつりさげてブラブラと揺らしたり、マネキンの脇を槍で突き刺すと赤い砂が落ちてきたり。ライブ感を出す演出がいいですね。実際ハラハラしました。
カトゥリアンの処刑直前に全身緑色の女の子が登場。ミハイルは「小さなキリスト」を真似したと言ってましたが、本当は「緑の子豚」でした。でも実は、マネキンに着せていた胸に青いコサージュのついた白いドレスと、緑色の女の子が着ていた緑色のドレスが同じデザインだったんですね。脚本の指定なのかどうかは私にはわかりませんが、かっこいいな~と思いました。
"THE PILLOWMAN" by Martin McDonagh
現代英米演劇連続上演シリーズ第1作 Open the Gateway for...
【出演】カトゥリアン:寺十吾 トゥポルスキ:斉藤直樹 アリエル:田中茂弘 ミハエル:渡辺聡 母:保科由里子 父:松﨑賢吾 女の子:伊藤瑞姫
脚本:マーティン・マクドナー 翻訳・演出:小川絵梨子 演出助手:平野拓也 井上陽介 伊邉成樹 美術:深瀬元喜 照明:桜井真澄 照明操作:鈴木啓子 音響:井手比呂之 音響操作:坂本柚季 衣装:樋口藍 手話指導:行谷敦子 舞台監督:市川兵衛 制作:栗原暢隆 上演権協力:ネイラー、ハラインターナショナル プロデューサー:名取敏行 主催:名取事務所
全席指定 前売:4,000円 当日:4,500円 学生:2,500円
http://www.nato.jp/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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