広田淳一さんが作・演出・主宰されるアマヤドリの新作です。ひょっとこ乱舞から改名して初めての本公演になります。上演時間は約2時間15分(休憩なし)。
「CoRich舞台芸術まつり!2013春」審査員として拝見しました(⇒99本中の10本に選出 ⇒応募内容)。※レビューはCoRich舞台芸術!に書きます。下記にも転載します。
⇒CoRich舞台芸術!『月の剥がれる』
■未完成と思わざるを得ない
アマヤドリの前身ひょっとこ乱舞の作品は、「CoRich舞台芸術!2012春」の最終選考10作品に選ばれた『うれしい悲鳴』も含め、幾度か拝見してきました。達者な劇団員と客演の役者さんの躍動感のある演技・群舞によって立体化される、作・演出の広田淳一さんの世界観が、今作『月の剥がれる』でも独自性を保った形であらわされていたと思います。ただ、私が拝見した3月5日(初日)夜のステージは、未完成だと思わざるを得ない仕上がりでした。
まず、劇団固有の持ち味といえる群舞に心が躍らなかったです。言葉では語られない大きな何かを舞台に引き込み吸収して、繰り返す度に作品の熱を上昇させ、空間の密度を増していくような、いつもの効果が感じ取れませんでした。
近未来の日本で、ある平和運動をしている集団のエピソードと、それを劇中劇に見せる枠組みがある脚本でした。その構造には興味を惹かれましたが、冗長な場面が散見されうまく機能しているように思えませんでした。
広田さんはシアタートラムで2月23日、24日に上演された『韓国現代戯曲ドラマリーディングVol.6「朝鮮刑事ホン・ユンシク」』の演出をされており、観た人からとてもクオリティーの高い作品だったと聞いております。リーディング公演終了から『月の剥がれる』のプレビュー初日の3月4日までは、ちょうど1週間です。リーディング公演の稽古と本番が『月の剥がれる』の稽古期間と被っていたため、稽古時間を十分に取れなかったのではないでしょうか…。私は一観客にすぎず、現場のことは知りえない立場ですが、どうしても未完成の原因を見つけたくなってしまいました。
木を組み合わせて丸い孤の形になった大道具が天井から吊さげられ、それにつながる形で舞台面にも孤が描かれた空間でした。上弦・下弦の月を思わせる美しい美術です。ただ、ロフトに続く階段が並んでいるのは『うれしい悲鳴』の印象と被り、群舞ともども既視感がぬぐえませんでした。
カラフルでカジュアルなデザインの衣装はファッショナブルな路線ではなく、登場人物のバックグラウンドを示すわけでもなさそうで…全体的に意図がよくわからなかったです。私にとっては登場人物の年齢がわからないのがネックでした。学生といっても中学生、高校生、大学生で違いますし、大人といってもどのあたりの世代なのか知りたかったです。役者さんが必要以上に幼く見えてしまっていたように思います。
観音開きスタイルの豪華なチラシが目を引きました。毎公演同じ系統のビジュアルなので、一目であの劇団の公演だとわかります。
終演後に出演者および制作さんとお話した際に、当日パンフレットに人物相関図を入れてはどうかと提案したところ、翌日から実行してくださったそうです。ありがとうございました。
ここからネタバレします。
自国の軍隊が人を殺した数だけ自分たちも死ぬという、過激な平和運動を行っている自殺志向集団“散華(サンゲ)”。「命はかけがえがない」「命は何より大切だ」といった言葉はきれいごとだと切り捨て、自らの命を粗末にすることによって、逆に命の尊さを訴えます。捨て身の行為はスキャンダラスでセンセーショナルですし、人殺し(自分殺し)の立場から描いた人間賛歌とも受け取れたのは、ひねりが効いていて面白いと思いました。
散華が存在した時代を“近未来”とすると、散華について学ぶ学校のシーンはその先の“未来”となります。未来には怒りの感情を超越した人々が登場しますが、学校に集まる教師と生徒たちがどういう環境でどういう生活をしているのか等の、いわゆるバックグラウンドがはっきりせず、何のためにこのシーンがあるのかが理解できませんでした。先述の衣装も原因の1つかもしれません。
身体表現で人間の誕生から死を表現し、暗闇では人間の赤ん坊の泣き声だけでなく、犬や猫などの動物の鳴き声も聴こえてきました。宇宙の闇にぽっかり浮かぶ地球や、無数にある孤独な生命体などを想像させます。そんな壮大な空間を作る割に、散華が存在した近未来でも、散華について学校で学ぶ未来でも、登場人物がどうにも幼く感じました。
「自分の命なのだから有意義に使おう」「せっかく授かった自分の命を存分に燃やそう」と言うと、良いことのように聴こえますが、「自分の命は自分のものだから、世の中の役に立つなら自殺してもいい(むしろ何の役にも立たず生き延びるより、役に立つ自殺をした方がいい)」という論理は稚拙です。“稚拙な人々”をあえて劇中劇で描き、物語の外側にある詩的なセリフや宇宙を思わせる身体表現と対比させる意図なのかも…と考えましたが、確信にいたるヒントや効果は見つけられませんでした。
アマヤドリ本公演 座・高円寺 春の劇場27 日本劇作家協会プログラム
世界は初めから完璧に出来ているから僕らが残せるのは傷跡だけ
出演:笠井里美、松下仁、小角まや、稲垣干城、田中美甫、渡邉圭介、糸山和則、中村早香(以上、アマヤドリ)、村上誠基、小菅紘史(第七劇場)、大原研二(DULL-COLORED POP)、一色洋平、榊菜津美、鈴木由里、滝香織、古木将也、高橋悠、菊妻亮太(THE SHAMPOO HAT)、港谷順(劇団→ヤコウバス)、鳥谷部譲、熊谷有芳、川田智美、平野奈都美、百花亜希(DULL-COLORED POP)、小沢道成(虚構の劇団)、ハマカワフミエ、コロ
脚本・演出:広田淳一 舞台監督:橋本慶之 舞台監督助手:佐々木志織(アーティザンステージワークス合同会社) 舞台美術:大泉七奈子 音響:角張正雄 楽曲提供:岡田太郎(悪い芝居) 照明:伊藤孝(ART CORE) 照明操作:矢野一輝(ART CORE) 衣装:矢野裕子 衣装補佐:石澤希代子 小山ごろー 撮影:赤坂久美 奥山郁 和知明 演出助手:城間さゆり 古田彩乃 北川大介(カムヰヤッセン) 大橋秀和(ガラス玉遊戯) 振付協力:スズキ拓朗(chairoiPURIN) 宣伝美術:山代政一 高倉大輔(casane) 是永彩希 Web:堀田弘明 広田淳一 制作:安部祥子 青柳偉知子 木村若菜
【発売日】2013/02/05 プレヴュー 2500円 一般 3500円 学生 2000円 高校生以下 1000円 ペア割 6000円
http://amayadori.sub.jp/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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