稽古場レポートを書かせていただいた公演の初日に伺いました。面白かった!前売り3000円は安いと思います。初日の上演時間はたぶん約1時間50分。ちょっとうろおぼえです。
脚本を読ませていただきましたのでストーリーは知っていたのですが、登場人物とともに驚いたり、ドキドキしたり、ハっと気づいたりできました。俳優さんの力だと思います。5人全員が適材適所でそれぞれの魅力を発揮されていました。そして山崎彬さんの色気に参ってしまいました…!いや~驚いた…悪い芝居の公演が3月26日に終わったばかりなのに!
⇒CoRich舞台芸術!『従軍中のウィトゲンシュタインが(略)』
≪あらすじ≫
時は第一次世界大戦中の1916年6月、場所は現在のウクライナ西部地方の戦場。オーストリア帝国陸軍に配属された哲学者ルートヴィヒ(西村壮悟)は、兵営の一室で、戦争について、命について思索を巡らせながら、イギリスにいる大学時代の親友ピンセントに手紙を書いている。そのすぐ隣では、同じ小隊に所属する粗野で乱暴な男たちが、賭けごとや娼婦の話ばかり。
つかの間の休憩中に、小隊長のスタイナー軍曹(榊原毅)がやってきて作戦会議が始まる。今夜、高い哨戒塔に登って敵を見張るのは誰なのか。数十万といわれるロシア軍を前に哨戒塔に登ることは、すなわち死を意味するかもしれない。それなのに、自分が登ると志願する兵士がいて…。
≪ここまで≫
第一次世界大戦中の戦場を舞台にしたどっしりとした会話劇だし、ザ・演劇な演出も刺激的です。こまばアゴラ劇場での作品にしては、メジャー感もアカデミックムードも、ちょっと独特な感じ。とても面白かったです。
主人公とともに、色んなことに気づいていくことができました。普段の生活で特に意識していなかったことを発見・確認して、ふむふむと頷きながら哲学を体験していく、ストレート・プレイでした。こんなに「わかりやすい」と思ってる自分が、ちょっと不安になるぐらい、わかりやすかったです。いや、本当はわかってないのかもしれないけど。自分の理解の境界を広げて行く体験でした。
まさかあんなに笑えるとは!5人の俳優さんも全員良かったです。私が意識し過ぎたのかもしれないですが、ボーイズラブな要素は、もうちょっと控えめになってくれたほうがいいな~(笑)。
ここからネタバレします。
開場時間は暗い照明の中で舞台美術を眺めていました。周囲には金属パイプの粗末なベッドが建て込まれていて、中央には四角いテーブルと丸イスが数脚。テーブルの上にプラスティック製のおもちゃの兵隊の人形や、小さな旗が置いてあり、まず違和感。だって1910年代にそんなものが存在するはずないですよね。開演になると、軍服姿の役者さんが上手奥のエレベーターから登場して驚きました。この時点で「フィクションであることを最初から押し出す演出だったのか~」と納得しました。役者さんが舞台に出てきて横一列に整列し、榊原毅さんの前説がありました。長いタイトルを全部言うだけなんですが、それだけで可笑しくて、客席が温まったんです。いいオープニングでした。
ルートヴィヒ(西村壮悟)が「言葉は世界を写し取ることができる」ことを発見する場面は、私も一緒になって「ここにはソーセージが8本ある」と確認する気持ちになりました。イスをオーストリア帝国と呼び、雑巾をイギリスと呼び、上手奥にはモスクワがあって…と、私も彼らと一緒になって想像して、ヨーロッパが、地球が、宇宙が劇場の中に入ってくる感覚も共有できました。
ランプの火だけが灯る薄明かりの中で、ルートヴィヒとピンセント(イギリスにいるはず)が言葉遊びをします。ピンセントが客席通路にも入ってくるので、劇場全体が宇宙になったように感じました。オルゴールが「星に願いを」を奏でる中で、私も宇宙遊泳。
塹壕の暗闇は観客も戦場にいるような気持ちにさせられました。明らかにパイプを叩いているとわかった時には、フィクションに気づいて緊張が解けましたが、それはそれで私も確信的に演劇に参加できてよかったです。
セリフがNHK教育テレビのような、いわゆる説明的な語りに感じる場面もあって、ちょっと鼻につくというか、集中できなくなることもありました。もっと曖昧にして欲しい、謎を振りまいて欲しいとも思いました。でも解けなかった謎が1つ。ミヒャエル(山崎彬・ピンセントと2役)がランプに火を点ける演技をしました。でもランプには火が点きません。軍曹に「火は点けたか?」と聞かれ「点けました」と会話するのですが、火はやはり点いていませんでした。あれは…何だったのかな…。片方の手だけを使って拍手をして「音は鳴りましたか?」と聞く問いに似ています。
Théâtre des Annales vol.2従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインがブルシーロフ攻勢の夜に弾丸の雨降り注ぐ哨戒塔の上で辿り着いた最後の一行“──およそ語り得るものについては明晰に語られ得る/しかし語り得ぬことについて人は沈黙せねばならない”という言葉により何を殺し何を生きようと祈ったのか? という語り得ずただ示されるのみの事実にまつわる物語」
出演:伊勢谷能宣(ベルナルド)、井上裕朗(カミル)、榊原毅(スタイナー)、西村壮悟(ルートヴィヒ)、山崎彬(ミヒャエル)
脚本・演出:谷賢一 舞台監督:川田康二 照明:松本大介 美術:土岐研一 WEBデザイン:仮屋浩太郎(HiR design) WEB作成:三浦学 宣伝美術:今城加奈子 写真撮影:引地信彦 ドラマトゥルク:野村政之 制作:小野塚央 赤羽ひろみ プロデュース:伊藤達哉 企画制作・主催:テアトル・ド・アナール、ゴーチ・ブラザーズ 協力:DULL-COLORED POP、青年団
【発売日】2013/02/23 整理番号付き自由席 前期(3月31日まで)3000円/当日券 3300円/U25 2500円後期(4月7日まで)3500円/当日券 3800円/U25 3000円未就学児童は入場不可。
http://www.theatredesannales.info/
http://www.komaba-agora.com/line_up/2013/03/theatredesannales/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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