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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2013年05月07日

東京グローブ座『ストレンジ・フルーツ』05/03-26東京グローブ座

 ジャニーズ事務所の増田貴久さんが主演されるお芝居です。脚本に小栗剛さん、演出に谷賢一さんという、どちらかというと小劇場で活動されている演劇人が抜擢されています。“衝撃のラストシーン”から過去へとさかのぼっていき、物語が始まる最初のシーンで終幕するという構成だと知り、余計に観たくなりました。

 そして、その期待を裏切らない脚本でした。面白かった~!…ネタバレを恐れると、何も書けないタイプのお芝居です(笑)。オープニングがすごく大切なので、遅刻厳禁。上演時間は1時間45分弱。
 劇場入口の大きなポスター↓ いつもの撮影ポイントです(笑)。

20130506_strangefruits.jpg

 ⇒CoRich舞台芸術!『ストレンジ・フルーツ

 ≪あらすじ≫
 古びた校舎のような建物が並ぶ、鉄格子で隔離された空間に、一人の若者(増田貴久)が、居る。
 ≪ここまで≫

 場面が時系列に逆行していくことについて行けるのか?という不安があるかと思いますが、場面転換中に流れる映像で、意味がわかるようになっています。わざわざ野外で撮影した映像、贅沢だった~。

 アート(芸術)に取り憑かれ、創作のためには命さえいとわない人が登場します。その精神状態に至った経緯が、時をさかのぼりながら明かされていきます。結果的にテーマがアートではなかった(と私は思いました)のが良かったです。

 増田貴久さんのことを舞台で拝見するのは初めてでした。私はコンサートの生中継で目にしたり、街なかのポスターで拝見したことがあるだけなのですが、いわゆる「可愛らしいキャラ」のアイドルでいらっしゃるんですよね。でもこのお芝居では冒頭から怖~い感じだし、なぜか常に尖がってて、誰に対してもとげとげしい、ヤな奴なんです。終盤に近づくに従って…(書けない)。柔らかい存在感が良かったです。主役に納得。
 私が観た回は、ヒロインの花奈を演じた南沢奈央さんが弱すぎたかな~。追い詰められている上に、背負っているものも多い難役だと思います。

 ここからネタバレします。これからご覧になる方は読まないで下さいね。いろいろ間違いあると思います。 

 上手側の壁に描かれた心臓(実は、首がない菩薩の胴体)や、上手側の壁上部に設置された拡声器のようなスピーカー、下手の木々などに掛けてある派手なドレスたち、下手の壁にくっつけられた白いドーム型のオブジェ、地面に置かれた犬小屋のような物体、そして木に引っかけた綱で首を吊った、白いドレスの女の子の死体。それら全てを素材として利用した、舞台全体を彩る躍動的な映像は圧巻。かっこ良かった~。冒頭から何の前情報もなく、いきなりこれを見せられるので、幻想的なお話が始まるのかなと思いきや、千葉(増田貴久)が1年かけて作り上げたプロジェクション・マッピングの作品そのものだったんですね。あぁもう一度観たい……。

 「ストレンジ・フルーツ」とは、プロジェクトの首謀者である久良間(山本亨)が、最愛の妻の死体でつくったアート作品のタイトルです。久良間は自分に似ている弟子の千葉(増田貴久)が、再び「ストレンジ・フルーツ」を作ってくれると期待します。1億円の賞金を餌にして、千葉を含む7人のアーティストを廃校に1年間拘束したのは、そのためでした。最初は同じ場所で暮らすアーティスト仲間として交流していた7人ですが、“ピクニック”と称される講評会で脱落者が出ることになり、敵同士になってしまいます。

 インスタレーション・アーティストの美晴(井端珠里)が、高い足場から落ちて負傷した原因は、足場に“腐食剤”が撒かれていたせい。つまり誰かの陰謀かもしれないと匂わせます。観客は“腐食剤”を手にしていた人物が犯人だろうと思いますから、過去をさかのぼる間の“腐食剤”の行方を探るのですが、市職員の海老沢(小栗剛)、美晴、そして千葉と、犯人が判明するまで3段階ありました。凝ってる~!
 画家の章雄(古山憲太郎)が妊婦の美晴に優しく接するので、章雄と美晴は夫婦なのだろうと思っていたのに、お腹の子の父親は章雄ではなく、海老沢だとわかります。美晴は「久良間に口をきいてやる」と言ってきた海老沢に体を売ったんですね。さらに海老沢には妻がいることも判明。キッツイわー。

 中でも、冒頭で首つり自殺をした花奈(南沢奈央)と千葉の関係が徐々にわかっていくのが肝です。孤児だった花奈が、施設を抜け出して夜の公園で出会ったのが少年時代の千葉でした。千葉にカメラを貸してもらった時から、花奈のカメラマン人生が始まります。撮れば全て傑作という天才カメラマンだった花奈ですが、徐々にシャッターを押す勇気がなくなっていき、心臓病を抱え、生きる意欲も失っていきます。千葉と花奈は恋人同士でしたが、同じアーティストとして絶対に花奈に勝てないことに耐えられず、千葉は彼女のもとを去っていました。久良間の企画で何年か振りに再会した2人は、愛を確かめ合うと同時に、「ストレンジ・フルーツ」を共作(?)することを決心するのです。それがお芝居の最後の場面でした。

 花奈の期待にこたえて“本物のアーティスト”になるために、千葉は自分の性格を変えて行きます。本当は気が弱くて優しいし、勝てないという理由で恋人から逃げ出すようなダメ男なんですよね。心を殺して「ストレンジ・フルーツ」を完成させるけれど、彼のプロジェクション・マッピングには7人全員の作品が入っていました。やはり仲間を大切に思っていたことがわかります。お棺に入った花奈の遺体(=「ストレンジ・フルーツ」)を見て、誰か(美晴か森下)が、「きれい…」と小さく感嘆の声を上げたところで、千葉から「カット!」の声(たぶん)。1年間ずっと定点録画をしてきたビデオカメラを止めたのです。千葉は自分のプロジェクション・マッピングも含め、廃校での1年間のすべてを収めた作品を完成させたことになります。必ずやり遂げる男、千葉。私はここにアーティストの矜持を感じます。

 たとえば「蘇生」など、この戯曲が持つテーマや空気感をあらわす単語が、色んな人物のセリフに散りばめられていて、ストーリーを追う以外でも、なぞなぞを解いていくような面白さがありました。「悪魔に魂を売って凄いアートを生みだす力を得た代わりに、27歳で早死にする」エピソードも楽しかった。ジャニス・ジョプリンも27歳で亡くなった歌手ですよね。

 時間をさかのぼるに従って弱みを見せて行く千葉(増田貴久)の演技が良かったです。甘えん坊で、よれよれで。こういう崩れた姿を見せられる俳優が好きですね。

 蛇足ですが、「3度目のカーテンコールでスタンディング・オベーションをする」のが振付みたいだったな~。東京グローブ座演劇公演のお約束のようで、皆さん慣れてらっしゃるようでした。(勘違いかもしれませんが)

≪東京、大阪≫
【出演】千葉(プロジェクション・マッピング):増田貴久、花奈(カメラマン):南沢奈央、針替(アイデアマン):川岡大次郎、美晴(インスタレーション):井端珠里、森下(服飾デザイナー):深谷由梨香、海老沢(市職員):小栗剛、章雄(画家):古山憲太郎、犬飼(音楽家):加藤啓、久良間(キュレーター/フィクサー):山本亨
脚本:小栗剛 演出:谷賢一 美術=長田佳代子 照明=倉本泰史 音楽:義川正己 音響=藤森直樹 映像=横山翼 松田秀紀 衣裳=ゴウダアツコ ヘアメイク=大宝みゆき 演出助手=長町多寿子 舞台監督=田中絵里子 宣伝美術=永瀬祐一 宣伝カメラマン=筒井義昭 宣伝スタイリスト=松野宗和 宣伝ヘアメイク=KEIKO 田有伊 宣伝PR=ディップス・プラネット 票券:後藤まどか 大野純也 制作助手=嶋田聖奈 古閑詩織 制作=時田曜子 キャスティング=明石直弓 プロデューサー=山下秀樹 伊藤達哉 エグゼクティブプロデューサー=藤島ジュリーK. 主催/企画製作=東京グローブ座 制作協力=ゴーチ・ブラザーズ 運営協力=キョードー大阪(大阪公演)
【発売日】2013/03/03 S席 8500円 A席 7500円 B席 5500円
http://www.strange-fruits.jp/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2013年05月07日 01:53 | TrackBack (0)