新国立劇場演劇研修所第7期生のはじめての試演会です。演出は鈴木裕美さん。新国立劇場演劇研修所で演出されるのは5期生の『ゼブラ』以来2度めですね。
アユーブ・カーン=ディン作『ぼくの国、パパの国』は、1996年初演時にローレンス・オリビエ賞コメディ賞にノミネートされた作品です。1999年に映画化され、英国アカデミー賞の英国作品賞を受賞しています。
私が拝見したのが3ステージ目だったからか、初めて観客の前に出る研修生の皆さんがのびのびと演技されていて、昨年よりも作品自体を楽しむ感覚で観られました。面白かったです。上演時間は約2時間強。⇒舞台写真
ほぼ満席でした。出演者のお知り合いが多いのか、受験を検討している俳優が多いのか、新国立劇場小劇場にしては客層があまりに若くて驚きました。これを機に、新国立劇場での他の演目も観に来てくれたらいいなと思います。
⇒CoRich舞台芸術!『ぼくの国、パパの国』
≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
『ぼくの国、パパの国』の原題は《EAST IS EAST》。キップリングの「東は東、西は西、二つが共に出会うことはない」という詩から発想されたそうです。1996年にバーミンガム・レパートリー劇場にて初演され、その年のローレンス・オリビエ賞コメディ賞にノミネートされた作品です。
1970年、英国マンチェスター近郊に住むカーン一家。
パパはパキスタン人で誇り高きイスラム教徒。子どもたちにも立派なイスラム教徒になってほしいと思っている。でも、子どもたちは、イギリス生まれ。頑固なパパと子どもたちの間のカルチャー・ギャップとジェネレーション・ギャップは深まるばかり。そんな家族を、イギリス人のママは悩みながらも愛情深く支えているのだが、とうとう、パパは、パキスタンのしきたりに沿って、息子の結婚を決めてしまう……。
≪ここまで≫
美術が凝ってましたね~。回り舞台で居間、店舗、石炭置き場、応接間と場面転換します。贅沢!回り舞台の円形の床には、1970年代の空気をあらわすカラフルな絵(写真?)がコラージュされていて、回り舞台の周りの床は、鮮やかな緑色一色に統一。舞台全体がとても鮮やかな色彩です。
パキスタン人の父親とイギリス人の母親から生まれた混血の7人兄弟は、父に似ていたり母に似ていたり、それぞれに性格も考え方も異なります。イギリスで生まれ育ってもイギリス人としては扱ってもらえないし、決してパキスタン人でもない。ジレンマを抱えた子供たちは、父親の横暴に対して各々の決断をしていきます。アニメ映画「おおかみこどもの雨と雪」を思い出しました。
7期生は11人なんですね(入学時は12人だったような?)。人数が少ないせいもあるかもしれませんが、皆さんがのびのびと個性を発揮されていたので、全員の顔や雰囲気を覚えることができました。野坂弘さんが演じた父親はこのお芝居だと嫌われ役ですが、どんなに怒鳴っても暴力をふるっても、憎みきれない可愛さ、弱さが表現されていたのが良かったと思います。
↓舞台写真は公式facebookページより
ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。
母親の命令(お茶を入れろ、タバコ買ってこい、掃除しろ、店手伝え等)に、子供たちは嫌々ながらも必ず従おうとします。父親は暴力を振るうので、子供たちが彼に従うのも無理ないと思えたのですが、母親の場合は不自然に感じられました。現代の常識から考えると、横暴な父親より理性的に見える母親でも、家族観は既に古いんですよね。40年以上前のイギリスのある家庭における、圧倒的に強固な親子関係があれば、観客に疑問を挟む余地はなかっただろうと思います。
次男と三男が無理やり婚約させられ、婚約者の父親シャー氏が一家を訪れる場面で、兄弟たちのほぼ全員がパキスタンの民族衣装をまといました。それまでのカジュアルなヒッピー・ルックと対比されて、兄弟の置かれている複雑な環境がよくわかりました。
父親は子供にいい暮らしをさせたかったから、金持ちの婚約者を見つけてきたんですね。母国愛とイスラム信仰をひたすら主張していたけれど、本当のところは金になびいたということです。「息子を高値で売ろうとした」という母親の指摘は痛烈でした。でも、それぐらい父親はイギリスで苦労をしてきたんですよね。子供たちに本気で反抗されて、父親が泣きだす場面でもよくわかりました。
一番好きだったのは、父親が応接間でお祈りをしているのを、次男が見つめて涙する場面です。美しかった。
新国立劇場ドラマスタジオ公演第7期生試演会①
【出演 新国立劇場演劇研修所第7期生】ジョージ(父親):野坂弘 エラ(母親):デシルバ安奈 アブドゥル(二男・真面目):寺内淳志 タリク(三男・不良):吉田健悟 マニーア(四男・真面目・白い帽子):長谷川直紀 サリーム(五男・芸術学科):大塚展生 ミーナ(長女・兄弟で紅一点):岩澤侑生子 サジット(六男・コートを脱がない少年):押田栞 アニーおばさん(お店のお手伝い・葬儀屋):山下佳緒利 シャー氏(二男、三男の嫁候補の父)・医師:峰﨑亮介 女医:安藤ゆかり ラジオの声:坂川慶成(第8期生)
作/アユーブ・カーン=ディン 翻訳/鈴木小百合 演出/鈴木裕美 美術/中西紀恵 照明/田中弘子 音響/内田誠 衣裳/前田文子 ヘアメイク/片山昌子 演出助手/井上沙耶香(第5期修了) 舞台監督/村田明 演出即/谷肇 殿岡紗衣子 高圧優子 (第8期生):木村彩花 鈴木麻美 薄平広樹 坂川慶成 永澤洋 大道具/俳優座劇場舞台美術部 石元俊二 小道具/高津装飾美術 中村エリト 衣裳/東京衣裳 本多あゆみ 山野辺雅子 吉野真理子 市橋由規子 滝沢亮子 履物/神田屋 霞弘明 舞台・照明・音響操作/新国立劇場技術部シアターコミュニケーションシステムズ レンズ 塩見なぎさ(舞台)/麻生輝樹(照明)/河原田健児(音響)/大洋拓(大道具) 制作助手/内海咲紀 協カ/プロメイク舞台屋 世田谷パブリックシアター 演劇研修所長/栗山程也 制作/新国立劇場
【発売日】2013/04/06 A席2,500円 B席1,500円 学生割引(高校生以下)1,000円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/30000096_play.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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