『アトミック☆ストーム 明るい僕らの未来編』は流山児★事務所のオリジナル・ミュージカルです。流山児★事務所のミュージカルというと、私にとっては『ユーリンタウン』。2011年の再演時にメルマガ号外を発行しました。
佃典彦さん(B級遊撃隊)が『アトミック☆ストーム』の脚本を書かれたのは、今から20年以上前。その初演以来、流山児★事務所は時代に合った改訂を加え、上演を重ねてきました。今回の本格ミュージカル化にあたっては、佃さんご自身が脚本を大改訂し、演出の中屋敷法典さん(柿喰う客)が構成に手を加え、完全な新作になったそうです。
タイトルでおわかりの通り、題材は原子力。公開舞台稽古を拝見しました。流山児★事務所という劇団ならではの作品になっていたと思います。上演時間は約1時間50分(休憩なし)。
⇒CoRich舞台芸術!『アトミック☆ストーム 明るい僕らの未来編』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
2011年3月の、あの福島の原発事故からもう何十年経ったのだろうか。
反原発派の大規模デモ、避難民の失われた生活、降り注ぐ放射線の恐怖・・・それらは電力各社及び原子力委員会の思惑通り無かったことのように押し切られ、喉元過ぎれば熱さ忘れる国民性も手玉に取られてアッという間に忘れ去られた日本中の海岸線には威風堂々と原発が増設立ち並び、なんとその数は99基にもなっている。「節電」という言葉が完全に死語となった今、原子力委員会の最大の懸念は溢れかえった使用済み核燃料(原発ゴミ)をどうするかである。それもそのハズ、この年月と100兆円以上もの費用を掛けたにも関わらず、なんと未だ「もんじゅ」は試行錯誤を繰り返すばかりで何のメドも立っていなかったのだ!
日本のとある港町。ここに記念すべき100基目の原発の建設工事が始まったところである。だが、この港にはオンボロの貨物船に住み着いている老婆が一人いる…老婆には還らぬ息子が一人。もう何十年経ったのだろうか…忘れもしないあの大津波。目の前で波にさらわれた息子はまだ生きていると信じ続けて、この場所から一歩も出ない決意でいるのだ。一方、月面クレーター「マリウスの丘」では、増え続ける原発ゴミを月に捨てるという無謀極まる計画が進行中。月は地球にとって巨大なゴミ箱と化していたのである!!
≪ここまで≫
東日本大震災、東電福島第一原発事故から数十年後の日本には、100基目の原発が建とうとしていた…。近未来を舞台に、いわゆる原発推進派と反対派の対立という“今”の問題を皮肉たっぷりに風刺します。政治家と電力会社社員、マスコミ、津波の被害者とその遺族、原発作業員、放射性廃棄物処理係など、あらゆる立場の人々の声を、威勢よく踊り歌って届ける社会派ミュージカルでした。
辛辣な表現や心の傷に直接触れるようなセリフもありますが、フィクションの力で生々しい現実から大いに飛躍していくのが痛快です。そして、その飛距離がとても、とても長い。たとえば舞台が地底世界や宇宙に輝く月へと移り、おとぎ話や古典戯曲の人物が登場します。複数の場所での出来事が1つの時に混ざり合うカオティックな場面は、中屋敷さんの構成で生まれたようです。
高レベル放射性廃棄物は、10万年という単位で放射線を放出し続けます。その殺傷能力の寿命は、人間の人生と比べれば「永遠」と呼んでもいい長さです。「永遠」というフィクションが、ノンフィクションのごとく組み入れられているのが、今、私たちが生きている現実社会なんですよね。『アトミック☆ストーム』は奇想天外なアイデアを含むフィクションの中に、実在の人物や歴史的事実などの明らかなノンフィクションを混ぜ込んでいます。現実と虚構が背中あわせに鏡映するようでした。
公開稽古の時点では、音楽と振付とがかみ合ってない瞬間もちらほら見かけましたが、ささいなことだと思います。個人的に、歌の前奏部分をもっと演技で埋めるといいのではないかと思いました。
ここからネタバレします。
津波に流された息子を、母親は何十年もボロ船で待ち続けます。震災で日本は滅びたと信じて地下にもぐった小学2年生たちは、永遠に10歳のまま。『三人姉妹』のオーリャ、マーシャ、イリーナは月で放射性廃棄物の管理をしています。「地球に帰りたい」と切望しながら。大量の放射線をあびた月の兎は『竹取物語』のかぐや姫の姿の化け物になり、触れた者を瞬間的に殺してしまいます。東京で生まれた双生児はベトちゃんドクちゃんのように体がくっついていて、電力会社の研究室に軟禁されていました。原発作業員は、東電福島第一原発から取りだされた使用済み燃料棒を武器に、テロを企てます。
ボロ船を占拠する母親が見つけた使用済み燃料棒が、劇団主宰者の流山児祥さんだったのには驚きました。流山児さんという演劇人に、「永遠」と「猛毒性」を象徴する燃料棒役を演じさせることで、何があっても人間は生きていかなければいけないこと、人間が演劇を続ける限り演劇は永遠であること、そして流山児さんは死ぬまで今の生き方を貫いていくだろうことを、示したのではないかと考えました。
座・高円寺 夏の劇場06
出演:塩野谷正幸 伊藤弘子 栗原茂 甲津拓平 冨澤力 平野直美 木暮拓矢 武田智弘 阿萬由美 山下直哉 荒木理恵 山丸莉菜 鈴木麻名美 五島三四郎 宮川安利 麻田キョウヤ 浅見紘至(デス電所) 井狩善文 今村洋一 王申冉 大浦千佳 大島雅陽 奥田努(Studio Life) 嘉悦恵都 俣美秋(劇団わらく) 菊池明明(ナイロン100℃) 重岡漠(青年団) 嶋田菜美 遠山悠介 野口和彦(青蛾館) 橋本 葉丸あすか(柿喰う客 三木崇史 森田祐吏 山口ルツコ 山﨑薫 佐原由美 龍昇 流山児祥
※キャスト変更のお知らせ※出演を予定しておりました坂井香奈美は、ケガのためやむを得ず降板することになりました。佐原由美(流山児★事務所 新人)が出演いたします。
【脚本】佃典彦(B級遊撃隊)【演出】中屋敷法仁(柿喰う客)【音楽】斎藤ネコ【振付】北村真実 【企画】流山児祥 【舞台美術】原田愛 【照明】浜崎亮 【音響】島猛 【衣装】木村春子【舞台監督】岡島哲也 金森勝 【演出助手】山口千晴 【歌唱指導】 長野佳代【稽古ピアノ】村井一帆 【宣伝写真】アライテツヤ 【宣伝美術】Flyer-ya 【制作】岡島哲也 米山恭子【主催】有限会社流山児オフィス(流山児★事務所)【提携】NPO法人劇場創造ネットワーク/座・高円寺【後援】杉並区
【休演日】6月4日【発売日】2013/03/10 全席指定・税込 一般 4,500円 学生 3,500円(当日、要学生証提示 流山児★事務所での取扱のみ)
http://music.geocities.jp/ryuzanji3/r-atomic.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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