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しのぶの演劇レビュー
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2013年11月10日

鳥の劇場『「セールスマンの死」(日中韓俳優出演・3ヵ国語版)』11/09-10新国立劇場小劇場

BeSeTo_20th.JPG
総合パンフレット

 第12言語演劇スタジオ『多情という名の病』に続いて、第20回BeSeTo演劇祭の国際共同制作作品を拝見しました。

 アーサー・ミラーのピュリッツァー賞受賞作『セールスマンの死』を、鳥取を拠点に活動する鳥の劇場の中島諒人さんが演出。2012年初演で、今回は中国、韓国、日本の俳優が出演する3か国語版となります。上演時間はカーテンコール込みで約1時間40分。

 私なんかが今更言うことではないですが、『セールスマンの死』は本当にいい戯曲ですね。今年2月に文学座で観たばかりだったので、比較できたのも良かったです。

 ⇒CoRich舞台芸術!『「セールスマンの死」(日中韓俳優出演・3ヵ国語版)

 《作品解説》 公式サイトより
アメリカ現代演劇を代表する劇作家アーサー・ミラー(1915-2005)が、ピュリッツァー賞を受賞した戯曲です。鳥の劇場で2010年12月に初演された作品を、国際共同作品として再演します。約60年前にアメリカで書かれた戯曲を通して、グローバル経済が席巻する今の世界を見つめ、働くことの意味、生きることの意味、家族の意味を問いかけます。
 《ここまで》

 下記は鳥の劇場公演の舞台写真です(公式サイトより)。装置は今回も同じ。

20131110_death_of_a_salesman_tori1.jpg

 登場人物を減らし、エピソードも多数カットされていますが、戯曲の芯の部分はしっかり伝わってきました。父ウィリィは中国語、母リンダは韓国語、息子ビフは日本語というように、異なる言語で話すけれど言葉が通じているように演じます。1949年初演のアメリカ戯曲を中国人、韓国人、日本人が演じ、しかも資本主義のシステムによって崩壊していく家族を描いた作品なので、現在の世界情勢、日本の社会問題などが自ずと頭に浮かんできて、お芝居と重なってきます。
 
 「最初っからタイトルでネタバレしてるやんっ!」と突っ込む関西のおばちゃん2人組が、ちょくちょく出てきてちょっかい出してくれるのが楽しいです。息抜きとしても大いに機能していました。それにしても全体的に暗すぎたと思いますね(おばちゃんたちも「暗い!」って言ってたけど・笑)。私の場合、暗い話を暗くやると、その暗さを暗さそのものとして受け取りづらくなります。暗さを舞台上で過剰に表すことはせずに、観客の心の中で形作られるよう誘導する作品の方が、演劇体験としては好みです。

 ここからネタバレします。

 お金持ちになりたい、有名になりたい、特別な存在でいたいという欲望から逃げられない男たちと、その夢に依存する女(母リンダ)。そんな図として観ていました。功名心って今も昔も変わらないなぁと思います。「金持ち=有名人=勝利者」と洗脳されてしまうと不幸せだなぁとも。中島さんはこの戯曲について「資本主義という物語の魔力的側面を的確に捉えている」とパンフレットで評されていました。

 ウィリィは息子との関係が少し回復したことで、会社をクビになったものの、前向きに生き直そうとしているかのように見えました。でも一攫千金に成功した兄の姿が脳裏にちらつき、やはり保険金目当てで自殺してしまいます(自分の車で事故を起こして死亡)。葬儀に誰も来なかったということは、ウィリィは他人が喜ぶことをしてこなかったんだろうな~。

 よく流れた日本語の歌は「ひらいたひらいた」(UA)と「月の砂漠」。選曲や鳴るタイミング、音量がSCOTっぽかったです。


第20回BeSeTo演劇祭 鳥取公演プログラム
出演:高橋等 王衛國(東京公演のみ) ユン・ジンヒ 葛岡由依 中垣直久 赤羽三郎(鳥取公演のみ) 村上里美 中川玲奈 声の出演:榊原毅 中島諒人
原作:アーサー・ミラー 翻訳:倉橋健 演出:中島諒人 舞台美術:来間直樹 タカマスヨシコ 照明:田中陽一郎 音響:石井俊祐 舞台監督:岩崎健一郎 山本朋幸 通訳(鳥取公演のみ):田川智子 チャン・ウンジン
前売・当日共 一般:3,000円 学生:1,500円 *全席指定
http://www.birdtheatre.org/engekisai/program/salesman.php
http://www.beseto.jp/20th/program/tottori_prog01.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2013年11月10日 19:28 | TrackBack (0)