男優集団スタジオライフの『LILIES』が開幕しました。4度目の再演になる劇団の代表作です。⇒製作発表レポート 以下、大原薫さん(⇒ツイッター)によるゲネプロ・レポートです。記事と舞台写真は劇団よりご提供いただきました。
『LILIES』はカナダ人劇作家ミシェル・マルク・ブシャールさんの戯曲で、「百合の伝説 シモンとヴァリエ」というタイトルで映画化もされています⇒映画「Lilies - Les feluettes」
舞台写真を拝見したところ、文学座の乗峯雅寛さんによる新しい舞台美術で作品は一新されているようですね。主役に抜擢された若手キャストにも注目です。
●Studio Life『LILIES』⇒公演公式サイト
2013年11月20日(水)~12月8日(日)@シアターサンモール
※Sebastiani(セバスティアヌス)、Marcellien(マルケリアヌス)、Erigone(エリゴーヌ)チームのトリプルキャスト。
Erigoneチームのヴァリエ役は公演当日(11/27)にキャスト発表。
⇒CoRich舞台芸術!『LILIES』
■珠玉の名作『LILIES』待望の再演 遂に開幕!
男性だけの劇団スタジオライフが4年ぶり4度目の公演となる『LILIES』を開幕。緊張感ある舞台は一瞬たりとも目を離すことができない。繰り広げられる人間ドラマを繊細に描きながら骨太にテーマを伝えて、スタジオライフの代表作というべき傑作となった。
『LILIES』はカナダの戯曲家ミシェル・マルク・ブシャールの作品で、『百合の伝説 シモンとヴァリエ』という題名で映画化され、世界各地で上演されている名作。1952年、カナダ郊外の刑務所を訪れたビロドー老司教は突然、看守や囚人たちに監禁される。そして囚人シモンの指示によって、ビロドーの目の前で囚人たちの芝居が繰り広げられる。その内容は40年前のシモン、ビロドー、そしてシモンを愛するヴァリエをめぐる事実を再現するものだった。40年前彼らに何が起きたのか、そしてシモンはなぜ40年も収監され続けたのか……。隠された過去が明らかになる。
上演台本・演出を担当する倉田淳の、作品世界の奥底まで追い求める姿勢は初演時から変わらない。だが今回は美術デザイナーの乗峯雅寛氏を迎えて新たな美術デザインに変更し、主役のシモンとヴァリエに若手キャストを抜擢するなど、演出を一新した。閉ざされた監獄を思わせる、黒を基調とする舞台空間。舞台右手側の桟からはわずかな光が透かし見える。空間上方に見える木枠は天窓を象徴するものだろうか。息詰まる状況の中でもはるか彼方には「希望」や「愛」が存在するのを感じさせる、イメージ豊かな舞台美術が『LILIES』の世界観を確かに映し出す。
作品の構造は1952年の囚人たちが40年前の出来事を演じるという劇中劇の形を取る。囚人たちが「真実を知りたい」という老シモン(1952年のシモン)の熱意に打たれて、彼が演出する一世一代の「芝居」に出演するという形だ。この構造を舞台で体現できるのはプロデュース公演でなく、劇団として演劇活動をしているスタジオライフならではだろう。老シモン役をベテラン役者が演じて若手をリードしていくことで、「老シモンの元に結束する」という劇中構造が現実のものとなった。出演者が小道具などを手作りし、舞台転換も行っているのは、劇中の囚人たちと同様だ。出演者たちがまさに一丸となって取り組むことで、力強くメッセージを伝える舞台となった。
作品の根幹を担うのは、シモンとヴァリエの純愛だ。当時のカナダはカトリックの戒律が厳しく、同性愛は教義に反するものとして固く禁じられていた。様々な障害や偏見に押しつぶされそうになりながらも、二人は魂と魂が求めるようにして激しく結びつく。そして、彼らに嫉妬する少年ビロドー。トリプルキャストのうち、筆者が観劇したSebastiani チームではシモン役を仲原裕之、ヴァリエ役を松村泰一郎、ビロドー役を鈴木智久が演じている。今までの上演時とは違って同年代の役者を揃えることで、3人が織りなすトライアングルがより明確になった。4年前の上演時に4回だけ演じたシモン役に再び取り組む仲原は確かな成長の跡を見せて、閉塞された土地から抜け出したいという思いやヴァリエへの揺れ動く心情を細やかに表現した。前作『カリオストロ伯爵夫人』でアルセーヌ・ルパン役に抜擢された松村が再び大役に挑む。まっすぐな愛情を見せるヴァリエを瑞々しく演じた。鈴木のビロドーは複雑な心理描写を見せる。ポケットに手を入れる姿に本心を人に見せまいとする彼の心理が浮かび上がる。
シモンとヴァリエの純愛を中心に描きながらも、彼らを取り巻く人間たちのドラマをより深く描き出しているのが今回の上演のポイントだ。老シモンをSebastiani チームで演じるのは笠原浩夫。『DRACULA』『PHANTOM』など様々な作品で主演する笠原は輪郭のはっきりした芝居で、シモンの越し方を映し出す。老ビロドー司教を演じるのは3度目となる船戸慎士。ビロドーの口には出さない心情がつぶさに伝わる演技が作品に奥行きを与えた。そして、女性役の二人。シモンに恋する年配女性、リディアンヌの曽世海司とヴァリエの母、ティリー伯爵夫人の青木隆敏。男性でありながらここまで赤裸々に女性の心理を描写できるのは、女性である倉田の演出のたまものだろうか。曽世は自分を愛さないシモンを愛してしまった苦しみからほとばしる暗い情念を、青木は現実を直視できず、嘘をつかないと生きていけない女性の哀しみを、それぞれ浮き彫りにする。特に、最後の覚悟を決めたティリー伯爵夫人とヴァリエが「狐狩り」に行く場面は親と子という人間の根源の関係を深く、そして衝撃的に描いて、激しく心揺さぶられるシーンである。曽世、青木の二人がこれまで演じてきた女性役の経験が生きて、近年流行の「オール・メール」(男性キャストのみ)の舞台とは一線を画する「男性が演じる女性役」の新たなメルクマール(指標)となった。
今回の『LILIES』上演はトリプルキャストでの上演となる。上記のSebastianiチームの他に、2012年入団の鈴木翔音と藤森陽太がシモンとヴァリエを演じるMarcellienチーム、そして仲原がシモンを演じ、ヴァリエ役が公演当日のキャスト発表となるErigoneチームがある。稽古もチームごとに別々に行い、異なる演出が見られるなど、それぞれのチームの特色が明確に出るトリプルキャストになっている。緊密に作り上げられた舞台からは、マイノリティとして虐げられた者に優しく寄り添う倉田の視線が感じられる。愛とは何か、そして、自分たちが持つ常識や規範が本当に正しいものなのかどうか……見終わった後に深い余韻を残す舞台だ。(文/大原 薫)
ご覧になった知人のツイートをご紹介。カナダ戯曲に詳しい方です。
スタジオライフ『LILIES』重なり合う話のレイヤーが互いに共鳴し、力強い愛のメッセージを訴える実に美しく、清廉なドラマだった。核となる劇中劇の使い方が素晴らしい。男優だけで記号的に表現することで、戯曲の魅力をしっかりと伝える密度の高い芝居を構築していた。
— 片山 幹生 (@camin) 2013, 11月 25
やはりブシャールはやはり優れた劇作家だ。端正で安定感あるドラマの構築には、古典戯曲のような風格がある。スタジオライフの『Lilies』、役者の技量はばらつきがあるけれど、戯曲のよさはしっかり引き出されていた。同性愛ものに関心がない私が見ても、説得力のある愛の形が表現されていた。
— 片山 幹生 (@camin) 2013, 11月 25
劇作家ブシャールのページで『Lilies』の紹介ページがあって、2002年のスタジオライフ上演の写真と映像もアップされていたけれど、スタジオライフ版、見た目はやはりきれいだな、他の上演と比べても。 http://t.co/eQzfEjr914
— 片山 幹生 (@camin) 2013, 11月 25
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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