北村有起哉さん主演の海外戯曲を栗山民也さんが演出という、私にとっては必見の舞台。『SEMINAR』は2011年にニューヨークで上演されたテレサ・リーベックさんの戯曲です。上演時間は約1時間45分、休憩なし。
全席指定7,800円というお値段は少々高い目な気もしましたが、明るく軽快に、体もどんどん使って、会話劇の面白さを細かいところまで丁寧に伝えてくださって、ほぼ満足の域。北村さんと、黒木華さん&玉置玲央さん(『飛龍伝』のお2人)の競演も感慨深いものがありました。センスのいいストレート・プレイを観たい方にお薦めです。
⇒CoRich舞台芸術!『SEMINAR』
≪あらすじ≫ 公式サイトより (役者名)を追加。
有名作家のレナード(北村有起哉)による、10週間5,000ドルの授業。生徒4人それぞれに作品を書かせ、レナードがそれを読んで講評するという形式で授業は進められる。ケイト(黒木華)、ダグラス(相葉裕樹)は散々にこき下ろされたが、たった2枚の原稿のイジー(黒川智花)をレナードは高く評価する。作品ではなく彼女の性的魅力に惹かれているのは誰の目にも明らかだ。そしてマーチン(玉置玲央)だけがいつまでも作品を出さず、レナードから臆病者とののしられる。そんな時、業界筋から聞いたと言ってダグラスがレナードのスキャンダルを暴露する。
レナードの徹底した生徒達への皮肉。そして彼らに対する残酷さが全ての騒動のきっかけとなり、とにかく如何に人間の心が言葉に翻弄されるか、そしてそこに露呈する自分の浅はかさに気づいた時の動揺を絶妙に描く。なぜそこまでレナードは冷徹になれるのか・・・?
≪ここまで≫
ニューヨークで小説家志望の若者たちが有名作家に大金を払い、自分の小説を講評してもらうセミナーですから、小難しそうな言葉が飛び交います。若い男女+大人の男の知的なバトルなんですが、実はかなり堂々とエッチでもあり(笑)、アメリカ人にウケそうだな~と思いました(偏見ですね、日本人も大好きだよね・笑)。講義や討論、執筆といった理知的側面と、恋愛やセックスという動物的側面が、くるくると入れ替わったりグチャっと混ざったりするのがスリリング。
初日ならではの硬さのせいか、前半は少々演技が段取りっぽく見えることもありましたが、ダグラスがレナードのスキャンダルに言及したところからストーリーの面白さに引き込まれ、最後まで集中してじっくり味わうことが出来ました。登場人物間の緊張が増していくごとに、俳優の演技も面白くなっていきました。できれば最初の方からもっと笑いたかったかな~。
緞帳を上げ下ろしして場面転換する会話劇は珍しいなぁと思ったら、ある場面でとても効果的に使われていました。
ここからネタバレします。 セリフは正確ではありません。
レナードは果たしてただの性悪男なのか、何かを企んでいるのか、それとも…。彼の言葉に傷つき、翻弄される若者たちを眺めながら、レナードの正体を知りたくなっていきます。やがて彼は、少なくとも本当のことを、本音を話す人間であったとわかります。今年、「本当のことを言ってください。」というお芝居がありました。とてもとても大切で、残念ながら珍しく、そして難しくなっていることですよね。
セックス大好きのレジーは会ったばかりのレナードとすぐに寝て、レナードがいない間はマーチンを手籠めにし、レナードが帰国したらまた彼のもとへ。ケイトとマーチンはいい雰囲気だったのに、レジーとマーチンがケイトの家の中でいちゃいちゃするものだから、恋人関係には至らず。帰国したレナードがマーチンの小説を絶賛するという事件が起きた後、マーチンがレナードの家を訪ねると、ちょうどケイトとの情事の最中でした。おいおい(笑)。まあ、小説家は芸術家だもんなー(と納得したことにする)。
ケイトが住む豪華アパート(親の持ち物)での講義から、レナードの居間への場面転換は、緞帳を落とすとはいえ、ハっとさせられます。レナードの部屋はアジアやアフリカを旅したことがわかる調度品が並び(日本の人形もありました)、エスニックな雰囲気。ケイトの部屋は現代美術の抽象画のような壁のあるモダンなデザインだったので、ギャップもいいですね。
レナードのスキャンダルとは過去に盗作をしたことでした。でもレナードがマーチンに講義をしていく(ように見せかける)中で、それは事実ではないこと明かされます。マーチンの未来を予言するかのように話しながら、レナード自身の人生を語っていた、その長いセリフは、いわゆるストーリー・テリングでありつつ、自分語りの独白でもあり、北村さんがさすがの演技を見せてくださいました。
マーチンがレナードの書きかけの小説を読んで感動し、「あなたは盗作なんかしない!(そんなことする人じゃない)」と言ったのは、本物の小説家同志だからわかるんでしょうね。こういう直球のセリフも好き。
マーチンの才能を見出したレナードは、マーチンに「パートナーにならないか」と持ち掛けます。ケイトが見抜いていたとおり、レナードはマーチンに過去の自分を見ていたのでしょう。2人の関係がうまく行くのか、成果が出るのかは示されないまま、北村さんと玉置さんがデスクの前で静止し、そこで緞帳が降りて終幕するのが良かったです。
≪東京、兵庫≫ "SEMINAR" written by Theresa Rebeck
出演:北村有起哉、黒木華、黒川智花、相葉裕樹、玉置玲央
作:テレサ・リーベック 翻訳:芦沢みどり 演出:栗山民也 美術:松井るみ 照明:高見和義 音響:高橋巖 衣裳:前田文子 ヘアメイク:鎌田直樹 演出助手:豊田めぐみ 舞台監督:小澤久明 舞台製作:クリエイティブ・アート・スィンク 加賀谷吉之輔 版権コーディネーター:マーチン・R・P・ネイラー 票券:インタースペース 共同制作:栗原喜美子 制作デスク:渡辺葵 制作:熊谷由子(ぷれいす) アシスタントプロデューサー:北原ヨリ子 プロデューサー:江口剛史 企画・製作:シーエイティプロデュース 共同製作:兵庫県立芸術文化センター 宣伝美術:菅原麻衣子 宣伝写真:設楽光徳 宣伝スタイリスト:ゴウダアツコ 宣伝ヘアメイク:高村マドカ 衣裳協力:LUV Timmy / MAKIN JAN MA / arth/arthアトレ恵比寿店
【休演日】12/17【発売日】2013/09/07 7,800円 (全席指定・税込) ※未就学児童入場不可
http://www.seminar-stage.com/
http://www.stagegate.jp/performance/2013/seminar/index.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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