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2013年12月14日

DULL-COLORED POP『アクアリウム』12/05-31シアター風姿花伝

 谷賢一さん率いる劇団DULL-COLORED POP(ダル・カラード・ポップ)はシアター風姿花伝のプロミシング・カンパニー。新作はなんと1か月のロングラン公演で、多地域ツアーもあります。お得価格のプレビュー公演初日に伺いました(プレビューは12/8まで)。上演時間は約2時間弱だったかと思いますが、すみません、うろ覚えです。

 若者が集団で暮らすシェアハウスを舞台に日常を描く会話劇…ではあるのですが、あからさまにファンタジーだったり、いわゆるストレート・プレイの枠組みをしらっと飛び越えたりします。ご縁があってこの劇団の作品はほぼ全て拝見してまして、今作は『完全版・人間失格』とはまた違った方向に挑戦した野心作だと思いました。最後の劇場との一体感は独得でした。

 3~6日ごとにゲスト出演者が変わります。プレビュー初日は清水那保さんでした。私は明日の山崎彬さんの回も観に行きます。ワークショップや年末のイベントの内容が…どうぞチェックしてみてください(笑)。東京公演は12月31日まであります。

 谷賢一さんが『最後の精神分析』で小田島雄志・翻訳戯曲賞を受賞されました!(2013年12月11日)

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 ≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
 “グラスフィッシュという魚がいて、透明なその魚を、アクアリウムに飼っているのね。
 直射日光はダメだから、夕方、日が沈む直前の、一番赤い西日がさす頃に、すこしだけカーテンを開けてやる。そうすると。水槽も、水も、グラスフィッシュも、淡いオレンジ色にきらきらする。
 夜が来ると魚たちは、蛍光灯に照らされて、青白く止まっている。魚は、浮いたまま眠るの。”

 とあるシェアハウス物件。男女数名、組んずほぐれつ暮らしている。鳥とワニが逃げ出し、一人の青年が戻ってくる。ふとっちょとガリの刑事二人が部屋を訪れ、静かに警察手帳を見せた。先日起こった殺人事件の、犯人を探しています。部屋にはとても美しい、アクアリウムが置かれている。赤い西日に貫かれて、オレンジ色にきらきらと光っている。
 住人の一人が、ふと気づく。私たちの共通点。もう一人が思い出す。17年前に起きた、14歳の殺人事件。もう一人は考え続ける。逃げ出した鳥とワニの行方を。

 今を生きる僕たち私たちは、何にのっとって生きていこう? キレる14歳、あるいはキレる17歳、あるいはもっとストレートに酒鬼薔薇世代と呼ばれた僕が改めて問い直す、「おれたち一体、何だっけ!?」ものがたり。
 ≪ここまで≫

 舞台が黒幕で覆われているため、美術については後で書きます。

 シェアハウスに暮らす現代の若者たちの、いわゆるだめっぷりが徐々に明らかになっていきます。自然そうに振る舞う会話劇でありながら、たまに常軌を逸するのが、スパイスが効いていて楽しいです。好きなものは好きと無邪気に主張して、演じる側も存分に楽んでいるのは、小劇場劇団らしくもあり、谷さんらしくもあります。また、ご自身を「酒鬼薔薇世代である」とおっしゃる谷さんが、プライベートを惜しみなくさらしているようにも感じました。それでいて、もやもやとしたものをスッキリとわかりやすく説明しないようなところもあります。戯曲も演出もさまざまな方向性と無数の選択肢がありますが、思い切って挑戦することを選び、飛び込んでみた…という作品ではないでしょうか。荒削りだとか中途半端だとかわかりづらいとか言われるかもしれない、それでもこれにした、という。プレビュー初日の感想ですので、今はもっと変わっているかもしれません。

 最後の最後に作品(=アクアリウム)の中に吸い込まれ、全身がその世界に覆われたように感じました。1970年代から2013年までの、谷さんの青春時代と私自身の人生をひっくるめて追体験する、白昼夢のようなお芝居だったように思います。

 私は二兎社『こんばんは、父さん』を観て、人間は自分がどんなに個性的に生きたいと思っていても、周囲の人々や社会、流行などに染まってしまうものであり、多くの人間が似通った人生を生きざるを得ないことを痛感しました。世代、時代というものは抗いようがないんですよね。そこのところも再考する機会になりました。

 刑事(大原研二)とその部下(一色洋平)の暑苦しすぎる演技の応酬は浴びるより他ないので(笑)、とりあえず前向きに笑って楽しんで、後から意味を考えるといいのではないかと思います。

 ここからネタバレします。思ったままに書いていますので、戯曲の本当のところはどうなのかはわかりません。

 刑事たちの前座(?)が終わると黒幕が落ちて、ポップな色合いでカジュアルな質感の家具が並ぶ、シェアハウスの居間が現れます。舞台中央面側には水槽。雰囲気は一転して緊張感が漂い、思いつめたように独白する若者(渡邊亮)が一人。やがて他の同居人たちも登場してきて、まず「なんじゃこれ?」と不思議に思うのは、なぜか着ぐるみのワニ(中村梨那)と鳥(若林えり)も人間のようにふるまっていること。全員でクリスマス・パーティーの準備を始めて盛り上がろうとしたところに、冒頭の刑事たちがやってきます。ある殺人事件の犯人がこの中にいるとにらんだ2人が強引に捜査を進めるうちに、住人たちの間に不安と不信感がつのり、静かな共同生活はあっという間に崩壊。そこに酒鬼薔薇聖斗の姿が…。

 「神戸連続児童殺傷事件」の酒鬼薔薇聖斗だけでなく、「秋葉原通り魔事件」の犯人も、谷さんと同じ1982年生まれだとは知りませんでした。脚本の中で特に谷さん個人のことが言及されるわけではないのですが、この作品は谷さんがご自身のことを赤裸々に吐露しているように感じ、なぜこんなにプライベートをさらすのか、なぜ今、自分のことを描きたくなった(描かざるを得なかった)のか、と考えました(答えは出ませんが)。
 ゲストが演じるのは酒鬼薔薇役で、セリフはその犯行声明です。私が観た回は女性が演じていたのもあり、酒鬼薔薇本人がそこに居るのではなく、彼に象徴される若い犯罪者たちの象徴として観ていました。セリフは感情的な独白のようでもあり、詩の朗読のようでもあり。シェアハウスの若者たち、すなわち谷さんと同世代の方々(の一部)が勝手に背負わされたレッテル、それゆえの疑問や怒りなど、私には縁のなかった感覚を想像しました。

 10~20代の頃の谷さんをあらわしたこの作品を通じて、私が知らなかった、ある世代の人たちのこの数十年間を、表層だけかもしれないけれど、心身で味わえたように思いました。衣食住に困窮はせずとも幸福の実感は薄く、便利なのに満足はできず、すぐつながれるのに孤独で、手を伸ばしたって空をつかむしかないと最初からあきらめているような、とても賢い若者たち。団塊の世代ジュニアと呼ばれる私の世代はもっと純でバカだったなぁ。

 それに対比されるのが刑事2人組です。セリフからも明らかなように、1970年代のつかこうへい作品へのオマージュとも受け取れる人物造形と演技方法で、谷さんより上の世代の人々や昭和という時代を象徴しているようです。昭和の大人が平成の若者コミュニティーに侵入する、時空を超えたファンタジーとも受け取れます。ファンタジーといえば、ワニと鳥はシェアハウスの若者と日本語で普通に会話をしていましたが、最後にはワニがワニ語(ガーガーとか)しか話さなくなります。警察2人がシェアハウスに押し掛けて取り調べを無理強いしたことも、シェアハウスでの共同生活そのものも、すべて虚構なのだと解釈して問題ないと思います。だから私の場合は「白昼夢」ととらえました。

 舞台中央に鎮座する水槽にはちゃんと水が入っていて魚もいます。終盤になって魚の世話担当の女性(百花亜希)が、水槽の魚について「この魚は藻を食べる」「水槽をきれいにしてくれる」等と詳しく解説していくと、ぶくぶく、ぶくぶく、という泡の音響が鳴りはじめ、やがて劇場全体が水槽になったかのように、照明も変化していきます。水槽はある閉じた生態系を表しているのだと思いました。すなわちシェアハウス内部であり、この劇場でもあるのでしょう。1982年生まれの若者の青春と、1970年代を象徴する警察、そして最初からこの舞台の中央にあった水槽(=アクアリウム)が、最後に2013年として立ち現われたように思いました。

 谷さんと同世代の登場人物たちも、熱血刑事たちも、私も、2013年の今、日本でともに生きています。彼らも私もこの水槽で生きる魚なのだ、頭の上まで水に浸かって、息ができずもがきながら、いつ破壊されてもおかしいくない、狭くて小さい生態系を構成してるのだと想像しながら、徐々に大きくなる泡の音と暗くなっていく劇場に身を浸し、浮遊しながら水底に沈んでいくように感じました。それがとても心地よかった。


DULL-COLORED POP VOL.13 ≪東京、福岡、大阪、宮城、岡山≫
出演:東谷英人、大原研二、中村梨那、堀奈津美、百花亜希、若林えり(以上、DULL-COLORED POP)、一色洋平、中林舞、中間統彦、渡邊亮
作・演出:谷賢一(DULL-COLORED POP) 照明:松本大介 美術:土岐研一 衣裳:chie* 演出助手:元田暁子・塚越健一(DULL-COLORED POP) 舞台監督助手:竹井祐樹 舞台監督:鈴木拓・武藤祥平 宣伝美術:西野正将 宣伝写真:堀奈津美(DULL-COLORED POP・*rism) 稽古場付記者:稲富裕介 制作:福本悠美(DULL-COLORED POP)
◎ゲスト出演者
12/05(木)~11(水)  清水那保(元DULL-COLORED POP)
12/12(木)~16(月)  山崎彬(悪い芝居)
12/18(水)~20(金)  原西忠佑
12/21(土)~23(月)  井上みなみ(青年団)
12/24(火)~27(金)  芝原弘(黒色綺譚カナリア派)
12/28(土)~31(火)  広田淳一(アマヤドリ)
【発売日】2013/11/10
≪プレビュー公演≫前売:2,000円 当日:2,500円
≪通常チケット≫一般・前売:3,000円 一般・当日:3,500円 学生・前売:2,500円 学生・当日:3,000円
http://dcpop13aqua.wordpress.com/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2013年12月14日 23:11 | TrackBack (0)