新作は複数の国の劇場による共同製作で、世界ツアーが決まっているのが当たり前となった、岡田利規さん率いるチェルフィッチュの新作です。ベルギーで世界初演、秋の京都公演などを経ての神奈川公演です。首都圏に来てくれて本当にありがたいです。日本語上演。英語、中国語字幕あり。
『現在地』初演では適切な周波数に合わせられないような感覚をおぼえた私ですが、『地面と床』はあまりに身近な内容で共感しどおしでした。こんなにわかった気になるのは早とちりじゃないかと不安になるほど。その意味では『ZERO COST HOUSE』と似てるかも。そしてサンガツによるオリジナル音楽が素晴らしかったです。
⇒ぴあ+2013年12月号「つくり手の横顔 岡田利規」(Text:藤原ちから)※必読と思います。
⇒朝日新聞「死者と生者の対話、重ねて チェルフィッチュが帰国公演」
⇒CoRich舞台芸術!『地面と床』
≪あらすじ≫
私は地面の下にいる。長男が私のことを忘れかけているのは嫁のせいだ。でも嫁のお腹には私の孫がいる。次男はよく私のことを思い出してくれる。ずっと無職だったが最近就職したらしい。
≪ここまで≫
遠い未来なのか、ほんの少し先なのかはわからない日本のお話でした。舞台には階段1段分ほどの高さの板が敷かれていて、そこが主な演技スペースになります。板の中央あたりに十字架の形をしたパネルが建てられており、そこに字幕が映写されます。死者と生者が語る夢幻能の形式をほんのり取り入れた演出で、下手側の板の一部は黒く塗られていました。おそらく橋掛かりを示しているのでしょう。俳優は常に下手から登場します。上手側には丸い照明器具が板の上に置かれていて、ぼんやりと七色に変化しながら光っていました。きっとLEDだと思います。あと、板の上手端には鏡が立てられていました。
収束の気配が全くしない原発事故対応、生きづらくなることが目に見えている特定秘密保護法など、今の日本で暮らしている私はパッと明るい気持ちになれる要素が見つけられません。登場人物それぞれの思いは共感したり、納得できるものばかりでした。
セリフは多くないですし、ずっと無言でいる時間も長いですが、全く退屈にはなりませんでした。ほんの少しだけ前に出す足や、さりげなく首をひねる動作などから目が離せず、さまざまな見立てができる演出に想像をかきたてられました。俳優の演技力のおかげもあると思います。ムっとした表情をする青柳いづみさんが怖くて良かったです。自分の邪魔をする人は許さないという強い意志と頑なさが伝わってきました。
ぴあ+のインタビューより、以下引用します。私が9月のインタビューで発言した「芸術は奉納するもの」と同じ意味だと思います。
岡田:そもそも演劇の稽古って、神様に向かってやるって信じてるからできるんだと思います。もちろん本番で失敗しないために一生懸命やるのもあるけど。だって僕は客として観る時に、僕のために何かをやるとかいうケチなものは観たくない。その人が神様という凄い存在に捧げるような踊りを、僕ごときが観られるなんて……というくらいのものを観たい。だからやっぱり神様に向けてお芝居をすべきなんですよ。お客さんの前でね。ひとつの作品を時間をかけていろんな会場でやる機会が増えてきて、そう思うようになりました。
※朝日新聞「be」フロントランナー(2013年7月6日)に岡田さんが採り上げられた記事について、感じたことを書いています。よかったらどうぞ。
ここからネタバレします。セリフはまったく正確ではありません。
地面は動かせないけれど(家の)床は動かせる、つまり土地は土地としてその場にあり続けるけれど、生きている人間は引っ越しをしてその場を去ることができるし、家だってお墓だって移動させられます。でも私の故郷は地球上の日本の中にしかないんですよね。
弟(山縣太一)が2年半ぶりに得た仕事は「この国の壊れた道(や建物)を直すこと」でした。場所は東日本大震災の被災地なのか、原発事故現場なのか、それとも近未来に起こった戦争で爆撃された日本の街なのか…。彼がその話をしている時、ものすごい振動の音が鳴っていました。ゴゴゴ…なのかビビビ…なのか、とにかく体も頭も耳もしびれて心拍数も上がるような不快な音で、恐ろしいことが起こっているのだということはよくわかりました。私は彼は戦場で働かされるのだろうと、当然のように思っていました。
「私は自分の息子を戦場に行かせないためには何でもやる。子供を守るために、私は(余計なことを)考えない」という兄嫁の決意は、偏狭とも言えますが、私には彼女を責める気にはなれないです。同様に、死者である母が「私のことを思い出してほしい」と言うのもわがままとは思えない。
兄嫁が息子を連れて徴兵制が敷かれた日本から脱出した場合、その子孫は徐々に日本語を忘れていくでしょう。それは、私は、本当に、つらい。
≪京都、ヨーロッパなど、神奈川≫
出演:山縣太一(弟)、矢沢誠(兄)、佐々木幸子(引きこもり)、安藤真理(死んだ母)、青柳いづみ(兄嫁)
脚本・演出:岡田利規 美術:二村周作 ドラマトゥルグ:セバスチャン・ブロイ 衣装:池田木綿子(Luna Luz) 解剖学レクチャー:楠美奈生 舞台監督:鈴木康郎 音響:牛川紀政 照明:大平智己 映像:山田晋平 宣伝写真:梅川良満 宣伝美術:東泉一郎 製作:クンステン・フェスティバル・デザール(ブリュッセル / ベルギー)
[共同製作]Festivals d’Automne à Paris(パリ / フランス)、 Les Spectacles vivants – Centre Pompidou (パリ / フランス)、HAU Hebbel am Ufer (ベルリン / ドイツ)、 La Bâtie – Festivals de Genève(ジュネーブ / スイス)、 KAAT神奈川芸術劇場 (横浜)、 Kyoto Experiment(京都)、 De Internationale Keuze van de Rotterdamse Schouwburg(ロッテルダム / オランダ)、 Dublin Theatre Festival(ダブリン / アイルランド)、Théâtre Garonne(トゥールーズ / フランス)、Onassis Culutural Center(アテネ / ギリシャ)
協力:急な坂スタジオ 企画・制作:KAAT神奈川芸術劇場、precog 助成:平成25年度 文化庁劇場・音楽堂等活性化事業 主催:KAAT神奈川芸術劇場(指定管理者:公益財団法人神奈川芸術文化財団)
【発売日】2013/10/05(全席自由/入場整理番号付き) 前売 3,500円 当日 4,000円 シルバー割引 3,000円(満65歳以上) U24チケット 1,750円(24歳以下) 高校生割引 1,000円(高校生以下)
http://jimen.chelfitsch.net/
http://www.kaat.jp/detail?id=32267#.UpL5vcSGrkM
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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