『TRIBES トライブス(意味は“種族”)』は生まれつき耳が不自由な息子がいる家族のお話。ニーナ・レインさんという英国人劇作家の戯曲で2010年初演です。演出は熊林弘高さんで、翻訳・台本は木内宏昌さん。『おそるべき親たち』、『秋のソナタ』のコンビですね。上演時間は約2時間20分(途中1回の休憩を含む)。
とても面白かったです!大胆さと繊細さを兼ね備えた俳優の演技をじっくり観察し、小刻みに変化する関係性を、美しい音楽とともに前のめリでノリノリになって味わい、楽しむことができました。
⇒CoRich舞台芸術!『TRIBES トライブス』
≪あらすじ≫ パンフレットより
夕食のテーブルを囲む家族。父親のクリストファーは評論家、母親のベスは小説家希望。二人の間には三人の子供がいる。長男のダニエルは学者志望で論文を執筆中、長女のルースはオペラ歌手を自称しているが、二人とも一人前とはいえないパラサイト状態にある。クリストファー言うところの“クリエイティブ”志向が強い一家ではあるが、次男のビリーは生まれつき耳が不自由な青年であった。食卓で好き勝手にしゃべり続ける家族たちの中で、一人静かに座り続けるビリー。
そのビリーがある日、家族に向かって嬉しそうに告白を始めた。好きな女性ができた、と。その女性シルビアもいずれ聴力を失う運命にあった。シルビアの登場により、家族の中にさざ波が立ち始める。両親はリップリーディング(読唇)に長けたビリーが、健聴者に代表されるような一般社会で生活することを望み、限られた世界の伝達方法である「手話」を遠ざけてきた。が、シルビアはビリーに「手話」を教え、ビリーは家族が知らないうちに、本当の意味で意志を確認しあえる自分の“居場所”を「手話」によって獲得していたのである。その事実に驚く家族。中でもビリーに深い愛情を抱くダニエルの同様は激しかった…。
≪ここまで≫
急に立場が逆転するのがスリリングで、犯罪サスペンスの香りもほんのり漂ってくる、緊張感のある会話劇です。とてもいい戯曲だと思います。
黒い鏡面の床に黒いグランドピアノがあるシャープな抽象空間で、モノトーンの衣装をまとった障がい者族と健常者族が対立…と書くと、いわゆる“とんがった翻訳劇”という印象を与えるかもしれません。でも、次々にかかる美しい音楽の選び方に遊び心があり、あえてベタを狙っているように感じて何度もニヤリとしました。ごく普通の会話劇ではありえない身体表現をどんどん繰り出して、会話に意味や背景を付加していきます。それはダンスにも見えて、言葉(手話も含む)以上に雄弁でした。まるで凝りに凝ったミュージックビデオ集を見ているような感覚にもなりました。
ここからネタバレします。
ピアノをダイニング・テーブルにしてカトラリーの音をわざと鳴らすようにしたり、何かと大き目の騒音をたてる動作をしたり、“音”の演出が細かいです。
口から生まれたおばけばかりの猛獣屋敷の中で、無言の天使のような存在だったビリー(田中圭)が、恋人(中嶋朋子)と手話を獲得した上に、リップ・リーディングで経済的にも自立して名誉も手に入れたら、すさんだ暴力男に変身してしまいました。知的で可憐な中嶋朋子さんと、がたいのいい長身に静かな狂気を秘めた田中圭さんとの対比がとても良かったです。
客席から登場した白い衣装のビリーは、やはり白い衣装のまま、客席から退場(家族の衣装は黒、シルビアは白から灰色に変化)。異なる種族はそんなに簡単に寄り添い合うことはできないですよね。安易な結末じゃないのも好み。
[出演] 田中圭(ビリー・生まれつき聴覚障害がありリップリーディングが得意) 中泉英雄(ビリーの兄ダニエル・大学教授を目指すニート) 大谷亮介(ビリーの父クリストファー・批評家) 中嶋朋子(ビリーの恋人シルビア・耳が聴こえなくなる運命にある) 中村美貴(ビリーの姉ルース・オペラ歌手のたまご) 鷲尾真知子(ビリーの母ベス・小説を書くのが趣味)
[作] ニーナ・レイン[翻訳・台本] 木内宏昌[演出] 熊林弘高[美術] 二村周作 [照明] 笠原俊幸 [音響] 長野朋美[衣裳] 原まさみ [ヘアメイク] 鎌田直樹[手話コーディネート] 米内山陽子 [舞台監督] 澁谷壽久[宣伝美術] 三堀大介 [宣伝写真] 石黒淳二 票券:菅谷舞 制作助手:永田景子 制作:清水幸代 プロデューサー:浅田聡子
【休演日】1/20【発売日】2013/11/09 全席指定 一般 A席6,500円/B席4,000円 高校生以下 一般料金半額(世田谷パブリックシアターチケットセンター店頭&電話予約のみ取扱い、年齢確認できるものを要提示) U24 一般料金半額(世田谷パブリックシアターチケットセンターにて要事前登録、登録時年齢確認できるもの要提示、オンラインのみ取扱い、枚数限定) 友の会会員割引 A席6,000円 せたがやアーツカード会員割引 A席6,200円
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2014/01/tribes.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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