小川絵梨子さんが1998年のピュリッツァー賞、オビー賞、ニューヨークドラマ評論賞、ドラマデスク賞などを受賞した米国戯曲を翻訳・演出。ポーラ・ヴォーゲルという女性劇作家の戯曲です。2009年に青年座でも上演されているんですね。
いい戯曲が、みずみずしく、生々しく、柔らかく、立体化されていました。さすがのクオリティーです。あ~小川さんにまた本当にいいお芝居を紹介していただきました。幸せ。
上演時間は約1時間45分。前売り完売のようですので、当日券については主催者にお問い合わせください。
⇒CoRich舞台芸術!『運転免許 私の場合』
≪あらすじ≫
幼いころから私に優しくしてくれるペックおじさん。車の運転も教えてもらって、他にも…
≪ここまで≫
舞台はシンプルな抽象空間で透明のイスが数脚あるだけ。ほぼ俳優の演技だけで見せてくれます。照明、音響、衣装などのスタッフワークは演技を慎重に支えるぐらいの役割です。主人公の女性リトルビットとその叔父ペックの2人以外の3人の俳優は、コロスとして色んな役を演じます。
1960年~70年代のアメリカが舞台で、大人のリトルビットが子供のころを振り返り、彼女とその家族、特にペックおじさんとの間に起こったことを、回想シーンで描いていきます。時系列ではなく、パズルがランダムにはまっていくようにエピソードが紡がれるので、謎解きの楽しみがあります。時間も場所も行ったり来たりするし、断片的でもあるおかげで、ばらまかれたピースを自分で拾って繋げていくのが面白いんですよね。年齢を17歳、16歳、15歳とさかのぼっていくのも効果的です。各エピソードから登場人物のセリフの裏にある本当の気持ちを類推していって、「ああ、だからなのか、そうだったのか」とわかると、軽妙なやりとりの奥にある深い心の傷が見えてきたり、助けを呼ぶ声が聴こえてくるような、そんな体験ができます。
自分に悪いことが起こっていても、その渦中にいる時は、それがどのくらい不幸なことなのか、わからないものですよね。後になって客観的に振り返った時に初めてその意味を知ったり、大人になってから自分が失ったものに気づいたりするものだと思います。だから、「不幸なこと」を経験させられるリトルビットの演技が、あくまでも子供で、無邪気で、素直で、明るかったのがとても良かったです。また、ほとんどの役者さんが、その場で起こることをその場で感じて生きる演技を精一杯してらしたように思いました。そういうお芝居は観ていてドキドキできるだけでなく、不思議なことに、客観視もできるんですよね。観客は、目の前で起こるお芝居を材料にして、いろんな思考をめぐらすことができるんです。ブレヒトの異化効果を使わなくても、そういうことは可能なんだと、私はよく思っています。
ここからネタバレします。ネタバレ以降は書けたら書きます。
現代英米演劇連続上演シリーズ2 How I Learned to Drive - Paula Vogel
出演:中村彰男(ペックおじさん)、斉藤深雪(女性コロス:主人公の母など)、荒木真有美(主人公の女性リトルビット)、小林亜紀子(若いコロス:ペックの妻、リトルビットの祖母など)、西山聖了(男性コロス:祖父、語り部、プロムでリトルビットを踊りに誘った背の低い同級生、リトルビットが27歳の時にバスで偶然会った10代の青年、など)
作:ポーラ・ヴォーゲル 翻訳・演出:小川絵梨子 美術:内山勉 照明:桜井真澄 音響:齋藤美佐男 衣装:樋口藍 舞台監督:村田明 稽古助手:山本しのみ 制作:松井伸子 栗原暢隆 上演権協力:ネイラー、ハラインターナショナル プロデューサー:名取敏行 製作・主催:名取事務所
前売4,000円 当日4,500円(全席指定・税込) 学生2,000円 未就学児童の入場不可。
http://www.nato.jp/profile/2014/drive1401-1.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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