新国立劇場の「Try・Angle -三人の演出家の視点-」シリーズの最後、第三弾はサルトル作『アルトナの幽閉者』です。演出は文学座の上村聡史さん。3/1(土)にはこのシリーズの3人の演出家と、芸術監督の宮田慶子さんのトーク第二弾があります。⇒第一弾のレポート
上演時間は約3時間25分(途中15分の休憩を含む)。ずっと、考え続けていました。登場人物たちの思い、運命、私自身の今…。1959年のドイツを舞台にした物語で、発表年も1959年です。その所以は公式サイトでも解説されています。⇒Wikipedia「アルジェリア戦争」
A席5,250円、B席3,150円、Z席1,500円という価格帯で、学生当日券はこの半額です(Z席以外)。ぜひ若い方にも観に行っていただきたいです。
⇒「これぞ「新劇」の底力! サルトルに挑む文学座のホープ上村聡史インタビュー」(伊達なつみ)
⇒CoRich舞台芸術!『アルトナの幽閉者』
≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
1959年、ドイツ。喉頭癌に侵され余命6ヶ月と宣告された父親(辻萬長)は、自らが営む造船業の後継者を決めるために家族会議を開く。次男で弁護士のヴェルナー(横田栄司)とその妻ヨハンナ(美波)、長女のレニ(吉本菜穂子)が参加する中、父親はヴェルナーに会社を継がせ、さらに自宅に住まわせようとするが、ヨハンナに猛反発される。一同の心に重くのしかかっているのは、長男フランツ(岡本健一)の存在であった。
彼は13年前にアルゼンチンへと出奔、3年前に彼の地で死んだことになっていたが、実は第二次世界大戦中に、あることから心に深い傷を負い、以来、妹のレニの世話のもと、ずっと家の2階にひきこもったまま狂気の生活を送っていた。フランツを愛する父親の最後の望みは、長男との対面と、彼の世話を次男夫婦がすることであった。ヨハンナの説得により、13年ぶりに待望の対面を果たした父親とフランツ。はたして一家の辿る運命は……。
≪ここまで≫
舞台は大金持ちの邸宅なのですが、ステージを丸く囲んで高くそびえる灰色の壁が牢獄を思わせます。13年間も部屋にこもっているフランツだけでなく、その家に住んでいる全員が“幽閉者”なのだとわかります。
第二次世界大戦を経験したドイツ人の思いを、平成の日本を生きる私が、こんなにわかったような気になっていいのかな…と不安になるぐらい、いちいち共感しまくりでした。新翻訳のおかげなのか、戯曲の意図をわかりやすく咀嚼した演出のおかげなのか、私が浅はかなだけなのか…。サルトル、近代海外戯曲、3時間半という堅苦しそうなキーワードで観劇を迷っている方がいらっしゃるならば、それは気にかけなくていいと思います。今の私たちのことだと思って観られるお芝居です。
戦争、家族、生活…人間は環境に支配されて、その時代の常識に流されて、目先の欲に溺れて、あきれるほど弱いんですよね。ソチ・オリンピック、豪雪、バリ島のダイバー遭難事故、キエフの暴動、安倍政権が戦争にまっしぐらに向っていることなどなど…さまざまなニュースがあふれんばかりに飛び込んでくる毎日の中で、このお芝居を観て、自分の中でひとつの確信を得ることができました。「人間一人の命は地球よりも重い」という言葉を今まで信じていなかったんですが、この言葉を肝に銘じて生きるべきだと思いました。絵に描いた餅だとか能天気な理想論だとか、「現実的ではない」という観点からいくらでも批判はできると思います。でも「高尚な理念の追及ためには1人ぐらい死んでもいい(そのぐらいの犠牲は払うべき)」などという考え方は間違っています。その(死ぬべき)1人が、私自身になる可能性があるのだから。そしてその1人を私が殺すこともあり得ます。私はアラフォーにもなってようやく、人間のスタートラインに立てたのかもしれません。
美波さんは息を呑む美しさでした。赤いドレスの大きく開いた背中も、高いヒールを履いた細い脚も、ホ~♪っとなるほど。そりゃ誰でも魅入られるよねと納得。でもヨハンナは元スター女優なので、もっと感情を揺り動かしていいのでは。卑猥に感じるほどの色気も欲しかったかも。
ここからネタバレします。書けたら書きます。
【アルトナの幽閉者】開幕して10日、戦争と対峙し家族と向き合う、熱い日々が続いています。
お客様の反応も気になるところ。というわけで、楽屋の壁一面にはTwitter上で皆様が呟いてくださっている感想を張り出させていただいております。 pic.twitter.com/HQNw7qVov5
— 新国立劇場<演劇> (@nntt_engeki) 2014, 2月 28
『アルトナの幽閉者』ご来場ありがとうございました!中日も過ぎ、蟹たちが群れになってきました。 pic.twitter.com/LPDGn4E5hn
— 西村壮悟 (@so5ni46ra) 2014, 3月 1
Try・Angle -三人の演出家の視点- Vol.3 “The Condemned of Altona”
出演:岡本健一、美波、横田栄司、吉本菜穂子、北川響、西村壮悟、辻萬長
脚本:ジャン=ポール・サルトル 翻訳:岩切正一郎 演出:上村聡史 美術: 池田ともゆき 照明: 藤田隆広 音響: 長野朋美 衣裳: 半田悦子 ヘアメイク: 川端富生 演出助手: 稲葉賀恵 舞台監督: 田中直明
【休演日】2/25, 3/4【発売日】2013/12/14 A席5,250円 B席3,150円 Z席1,500円
http://www.atre.jp/14daltona/index.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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