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しのぶの演劇レビュー
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2014年02月23日

新国立劇場演劇『アルトナの幽閉者』02/19-03/09新国立劇場小劇場

 新国立劇場の「Try・Angle -三人の演出家の視点-」シリーズの最後、第三弾はサルトル作『アルトナの幽閉者』です。演出は文学座の上村聡史さん。3/1(土)にはこのシリーズの3人の演出家と、芸術監督の宮田慶子さんのトーク第二弾があります。⇒第一弾のレポート

 上演時間は約3時間25分(途中15分の休憩を含む)。ずっと、考え続けていました。登場人物たちの思い、運命、私自身の今…。1959年のドイツを舞台にした物語で、発表年も1959年です。その所以は公式サイトでも解説されています。⇒Wikipedia「アルジェリア戦争

 A席5,250円、B席3,150円、Z席1,500円という価格帯で、学生当日券はこの半額です(Z席以外)。ぜひ若い方にも観に行っていただきたいです。

 ⇒「これぞ「新劇」の底力! サルトルに挑む文学座のホープ上村聡史インタビュー」(伊達なつみ)
 ⇒CoRich舞台芸術!『アルトナの幽閉者

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 1959年、ドイツ。喉頭癌に侵され余命6ヶ月と宣告された父親(辻萬長)は、自らが営む造船業の後継者を決めるために家族会議を開く。次男で弁護士のヴェルナー(横田栄司)とその妻ヨハンナ(美波)、長女のレニ(吉本菜穂子)が参加する中、父親はヴェルナーに会社を継がせ、さらに自宅に住まわせようとするが、ヨハンナに猛反発される。一同の心に重くのしかかっているのは、長男フランツ(岡本健一)の存在であった。
 彼は13年前にアルゼンチンへと出奔、3年前に彼の地で死んだことになっていたが、実は第二次世界大戦中に、あることから心に深い傷を負い、以来、妹のレニの世話のもと、ずっと家の2階にひきこもったまま狂気の生活を送っていた。フランツを愛する父親の最後の望みは、長男との対面と、彼の世話を次男夫婦がすることであった。ヨハンナの説得により、13年ぶりに待望の対面を果たした父親とフランツ。はたして一家の辿る運命は……。
 ≪ここまで≫

 舞台は大金持ちの邸宅なのですが、ステージを丸く囲んで高くそびえる灰色の壁が牢獄を思わせます。13年間も部屋にこもっているフランツだけでなく、その家に住んでいる全員が“幽閉者”なのだとわかります。

 第二次世界大戦を経験したドイツ人の思いを、平成の日本を生きる私が、こんなにわかったような気になっていいのかな…と不安になるぐらい、いちいち共感しまくりでした。新翻訳のおかげなのか、戯曲の意図をわかりやすく咀嚼した演出のおかげなのか、私が浅はかなだけなのか…。サルトル、近代海外戯曲、3時間半という堅苦しそうなキーワードで観劇を迷っている方がいらっしゃるならば、それは気にかけなくていいと思います。今の私たちのことだと思って観られるお芝居です。

 戦争、家族、生活…人間は環境に支配されて、その時代の常識に流されて、目先の欲に溺れて、あきれるほど弱いんですよね。ソチ・オリンピック、豪雪、バリ島のダイバー遭難事故、キエフの暴動、安倍政権が戦争にまっしぐらに向っていることなどなど…さまざまなニュースがあふれんばかりに飛び込んでくる毎日の中で、このお芝居を観て、自分の中でひとつの確信を得ることができました。「人間一人の命は地球よりも重い」という言葉を今まで信じていなかったんですが、この言葉を肝に銘じて生きるべきだと思いました。絵に描いた餅だとか能天気な理想論だとか、「現実的ではない」という観点からいくらでも批判はできると思います。でも「高尚な理念の追及ためには1人ぐらい死んでもいい(そのぐらいの犠牲は払うべき)」などという考え方は間違っています。その(死ぬべき)1人が、私自身になる可能性があるのだから。そしてその1人を私が殺すこともあり得ます。私はアラフォーにもなってようやく、人間のスタートラインに立てたのかもしれません。

 美波さんは息を呑む美しさでした。赤いドレスの大きく開いた背中も、高いヒールを履いた細い脚も、ホ~♪っとなるほど。そりゃ誰でも魅入られるよねと納得。でもヨハンナは元スター女優なので、もっと感情を揺り動かしていいのでは。卑猥に感じるほどの色気も欲しかったかも。

 ここからネタバレします。書けたら書きます。




Try・Angle -三人の演出家の視点- Vol.3 “The Condemned of Altona”
出演:岡本健一、美波、横田栄司、吉本菜穂子、北川響、西村壮悟、辻萬長
脚本:ジャン=ポール・サルトル 翻訳:岩切正一郎 演出:上村聡史 美術: 池田ともゆき 照明: 藤田隆広 音響: 長野朋美 衣裳: 半田悦子 ヘアメイク: 川端富生 演出助手: 稲葉賀恵 舞台監督: 田中直明
【休演日】2/25, 3/4【発売日】2013/12/14 A席5,250円 B席3,150円 Z席1,500円
http://www.atre.jp/14daltona/index.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2014年02月23日 17:23 | TrackBack (0)