新国立劇場演劇部門の「マンスリープロジェクト・トークセッション 戯曲翻訳の現在Ⅱ」を拝聴しました。出席者は『OPUS/作品』の平川大作さん、『エドワード二世』の河合祥一郎さん、『ピグマリオン』の小田島恒志さん、『アルトナの幽閉者』の岩切正一郎さん。司会は演劇ライターの鈴木理映子さん。
客席の9割方はびっしり埋まるほどの盛況でした。話されたことはかなり専門的だったんですが、置いて行かれているような空気は感じなかったです。リテラシー高い…!司会の鈴木さんもおっしゃるように、小劇場の作り手の方も聴きに行くといいと思います。マンスリープロジェクトは観客だけではなく作り手にもお勧めです。
[マンスリープロジェクト]本日は「戯曲翻訳の現在 Ⅱ」と題し、昨年9月から現在までの演目4本の翻訳家4人が集結!たいへん興味深いお話を沢山していただきました~。終了後の楽屋での一枚をご披露します! pic.twitter.com/DUqfj54KCu
— 新国立劇場<演劇> (@nntt_engeki) 2014, 2月 23
以下、私が少しメモしたことをアップしました。語尾などに統一性はありませんし、正確性にも責任は持てませんので、どうぞご容赦ください。togetterまとめや他のブログと相互補完していただけたらと思います。
⇒togetter「いしはらっちさんによる新国立劇場マンスリー・プロジェクト「トークセッション 翻訳戯曲の現在 II」まとめ」
⇒Minze「2014/2/23 新国立劇場マンスリー・プロジェクト「戯曲翻訳の現在 Ⅱ」レポート」
⇒かのこの劇場メモ~半券の余白「「新国立劇場マンスリープロジェクト〜戯曲翻訳の現在Ⅱ」を聴講する」
出席者ごとに発言を分けました(舞台に向かって左側の席から順番)。ところどころ他の人とのやりとりも入っています。
■『OPUS/作品』の平川大作さん
平川:『OPUS/作品』は自分で探してきた戯曲ではなかったので、依頼を受けた“請負い仕事”として1年2か月前にテキストと出会いました。居合のように正面から立ち向かう感じです。プロの音楽家が登場するのでクラシックの専門用語などが多くて。本番の半年前には完成しました。
平川:『OPUS/作品』で音楽関係者から「稽古場とは言わない(練習場だ)」と指摘を受けました。でも私はあえて“稽古場”などの演劇の要素を入れようと、虎視眈々と狙っています。そこから飛躍があるかもしれないから。
平川:戯曲『コペンハーゲン』から引用します。ハイゼンベルクのセリフ「うまくいけばそれでいい。」
■『エドワード二世』の河合祥一郎さん
河合:『エドワード二世』はイギリスの古典演劇。原文と照らし合わせながらチェックしました。テキレジをする際も、原文の流れを理解しないといけないので、常に確かめていく。エリザベス朝時代の舞台は客席の方へと張り出したステージで、観客に話しかける形式です。地道に固めていきました。
小田島:『エドワード二世』の演出は森新太郎さん。彼は非常に細かい人で、仕事をしたことがある我々は皆「モリシン被害者の会」のメンバーです(笑)。
河合:僕もバーナード・ショーの翻訳をしたいのに、小田島さん(にその仕事を取られて)ばかり(笑)。僕は「(Rhymeのない)ブランク・バースを訳しなさい」と言われ続けています。夏目漱石が福田恒存を批判して「沙翁劇は翻訳できない」と書いているように、そのまま翻訳するのは難しい。原文と日本語の息が合うように翻訳しました。ただ、森さんは「なめらかな訳にしないでくれ」「原文のニュアンスを共有したい」とおっしゃるので、その方向にも。
河合:(台本が完成していても)稽古場には最初の1週間は行くようにしています。やはり現場に行かないと。
河合:児童文学も翻訳します。本は読んだ時に完成しないといけない。舞台のセリフは役者が言うことで完成する。
河合:『国盗人』『按針』『フォルスタッフ(文楽)』など翻訳だけでなく上演台本も書いています。シェイクスピアは音楽的にこだわって訳します。自分の読み取った世界を、原文に忠実に表現していく。翻訳家は作家でなくてはいけない。
■『ピグマリオン』の小田島恒志さん
小田島:『ピグマリオン』には倉橋健先生の名訳が既にあります。1914年時点で「Bloody」という言葉がどう受け取られていたか。今作では「クソ」と訳しました。言わされる石原さとみさんは大変だったと思います。
小田島:俳優がどうしても言いづらかったので、「涙がほほを伝い落ちた」というセリフの後半を「流れ落ちた」と変えたことがある。小説は何度でも読み直せるが、舞台は聞き逃すと違う場面に進んでしまうから、聞き取れるようにすることも大切。
小田島:上演台本を担当した人の名前だけが記載されている公演を散見しますが、下訳をした人の名前も明記して欲しい。誰の解釈を通して上演台本を作成したのか、クレジットに表記すべき。主張しておきたい。
小田島:翻訳戯曲や古典の上演はいつ誰が書いたか、または時代背景など、情報先行で堅苦しい印象がついているが、生身の人間の芝居を楽しむのが重要。詳しいことは後から調べればわかる(何も知らなくたっていい)。これも強く主張したい。
■『アルトナの幽閉者』の岩切正一郎さん
岩切:カシミアとウールの違いについて。カシミアは細い糸の中が空洞になっているんです。(カシミアをセリフだと捉えると)俳優が発することによって、その言葉の管の中に空気が通って、空洞を埋めてくれる。(ウールのように中身の詰まった)翻訳言語でぎっちり、カッチリ詰めて動かせないより、舞台でやるべきことに効果が出るような、カシミヤのような言葉がいい。
岩切:戯曲は生身の人間が語るものなので稽古が始まってから語尾は変えました。
岩切:(自分の翻訳を音読するかどうかという質問に対して)読みます。私は役柄になり切るタイプで、テープに録音もします。狭い家で家族は迷惑してるだろうと思います(笑)。『アルトナ~』では石膏粘土で人形を作って絵具で色も塗りました。
小田島:(岩切さんに比べると)自分はまだまだだと思いました…(笑)。
新国立劇場「マンスリープロジェクト/戯曲翻訳の現在ll」、4人の翻訳家の方々にお話をうかがいました。それぞれに個性的で、さまざまな思索を誘うお話。なにより現場の活気が伝わってきました。こういう話、小劇場の作り手や観客の方々にも、もっともっと触れて欲しいなぁ。
— 鈴木理映子 (@r_suz1005) 2014, 2月 23
新国立劇場マンスリープロジェクト「トークセッション 戯曲翻訳の現在 Ⅱ」
2月23日(日)18:30@小劇場
出席者:平川大作 (大手前大学准教授)/河合祥一郎(東京大学大学院教授)/小田島恒志(早稲田大学教授)/岩切正一郎(国際基督教大学教授) 聞き手:鈴木理映子
http://www.nntt.jac.go.jp/play/monthly/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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